もう一人の王
話は溜め込んでいるモノを放出してます。
- っ・・・うぐ
目を開いたとき、見えたのは溢れんばかりの光
それが日光だと認識するまで僅か数十秒、戦場で戦い続けてきた時の癖か・・・瞬時に大剣の柄を握り、後方に全力で飛んだ。
着地と同時に、全方位へと抜刀できる様体を入れ替える。
そして誰も居ない事を確認してから息を抜いた。
ー・・・ふぅ
視界に入るのは緑の木々、そして隙間から覗くように差し込む光が朝だという事を実感させた。
どの位眠っていたのだろうか?そして此処は何処なのか
(一見・・・森の中腹あたりだな)
森といえば東の森か、はたまた南か
そもそも元いた世界の地図がそのまま地形に変わるのかも疑わしい
魔王はこの世界を”有利な世界 と言っていた。
その意味は今だ完全に理解することが出来ないが、その意図するところは分かる。
ーとなると、当面の目標は”現魔王の殺害・・・・。
と、そこまで思考したところで気付いた
気付いて辺りを見回す。だが、居ない。
俺より先にこの世界へ向かった”魔王 が居ない。
どういう事だ?
俺はてっきり、こちらの世界に来れば合流できるものだと思っていた。
あちらの世界で言えば勝手はわかったが、別世界となれば話は別だ
瞬間、なんとも言えない不安に襲われる。
それに魔王はまだ全快していない。
そんじょそこらの魔族には負けないと分かっていても、彼奴はせいぜい戦えてLV50前後だろう。
彼奴は生前の半分の力も取り戻せていないのだ。
ーっ!魔王ッ!!
全身の筋肉を奮い立たせ、獣の様に走り出す
緑溢れる木々の隙間を矢のように走り抜けた。
奴が死ねば、俺の復讐も果たせない
それは死んでも御免だ、何の為に奴と手を組こんな世界に来たのか
意味がわからなくなる!!
森を突き抜ける様に走る矢先、黒いコートが目に止まった。
ーッ!魔王!?
急激な方向転換。
勇者の並々ならぬ加速と急停止は地面に大穴を開け
爆音と同時に方向転換する
邪魔な木々をなぎ倒し、その異様とまでに言える暴走は最早人間のソレでは無かった。
瞬時に黒いコートの人物へと姿を現し、その人物の手を取る。
呪いの鎧がカャシャカシャと甲高い音をたて、森に一瞬の静寂が訪れた
ー魔王!一体何処に行っていた・・ん・・・・だ・・・・。
手を取ってから気付く。
魔王も華奢だが、この子はもっと華奢だ。
背は彼奴よりも高い、だがこの病弱とも言える白い肌
そして折れてしまいそうな程細い手足
高いと言っても背は俺よりも数十センチは低かった。
ーお前・・・・。
だが、見間違う事はない
この血のように赤い目と、白い肌に走る魔術紋章
そう・・・こいつは。
こいつが、この世界の魔王だ。