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固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


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第36話: 二つの来訪者

 異変に気づいたのは、ダンジョン攻略から四日目の朝だった。


 街の大通りに、見慣れない馬車が三台止まっていた。


 いや、馬車というには質素だ。荷馬車に幌を張っただけの簡素な造り。車輪には泥がこびりつき、幌布は日焼けして色が褪せている。長い道のりを来たことがひと目でわかった。


「何だ、あれ」


 レンは朝の巡回ついでに足を止めた。ギルドの前に集まった数人の旅人——いや、旅人ではない。正装している。粗末ではあるが、きちんと洗い直した上着を着て、靴の泥を落としている。誰かに会うための身支度だ。


「おう、小僧」


 ギルドの入口にガルドが立っていた。腕を組み、眉間に皺を寄せている。


「来客じゃ。——お前宛てのな」


「俺宛て?」


「周辺集落の代表団だと。三村分。昨夜のうちに到着して、ギルドで一泊しておる」


 三村。レンの記憶に、近隣の集落の名前が浮かんだ。


 ベルクハイム——南西の農村。麦と根菜を育てている小さな村で、ヴィントヘルムの食糧の一部を供給している。人口は二百人ほど。


 エルツ——北東の鉱山村。鉄鉱石と少量の魔石を産出する。ダンジョンが近いため魔獣の被害を受けやすく、人口は百五十人まで減少している。


 リンデン——東の交易宿場。街道の交差点に位置する小さな宿場町で、通過する商人や旅人を相手に宿屋と酒場を営んでいる。


 三つとも、ヴィントヘルムから半日から一日の距離にある辺境の集落だ。


「代表団が——俺に何の用だ?」


「それは直接聞け」


 ガルドの目が、妙に真剣だった。


   ***


 ギルドの二階、会議室。


 長いテーブルの向こうに、三人の男女が座っていた。


 中央は四十代の男。がっしりとした体躯に、日焼けした顔。農作業で鍛えた手が、テーブルの上で組まれている。ベルクハイムの村長だろう。


 右側は五十代の女性。鉱山の粉塵で荒れた手と、鋭い目。エルツの代表に違いない。


 左側は三十代の若い男。商人特有の如才ない雰囲気だが、目の奥に疲労が滲んでいる。リンデンの宿場の長か。


 レンは彼らの正面に座った。隣にはガルドが立っている。


「俺が——レンハルト・コードだ」


 中央の男が頷いた。


「お噂は存じ上げております。ベルクハイム村長のクラウスと申します」


 右の女性が続いた。


「エルツ鉱山村の代表、マルタです」


「リンデン宿場の長、ヨハンです」


 三人が頭を下げた。


「本日は——お願いがあって参りました」


 クラウスが切り出した。声は落ち着いているが、手が微かに震えている。緊張しているのだ。辺境の村長が、名の知れた冒険者に頭を下げるのは慣れていないのだろう。


「聞く」


「単刀直入に申し上げます。我々三村は、ヴィントヘルムとの同盟を結びたい」


 レンの眉が動いた。


「同盟?」


「相互防衛、交易路の共有、そして——インフラの協力です」


 クラウスの言葉に、マルタが補足した。


「北方の魔物が活発化しています。ダンジョンの封印が弱まっている影響でしょう。エルツは鉱山が近いため、被害が深刻です。先月だけで、鉱夫が三人負傷しました」


「リンデンも同様です」ヨハンが加えた。「街道の安全が確保できなくなれば、商人が通らなくなる。宿場が成り立たなくなります」


 レンは腕を組んだ。


「防衛の問題なら、冒険者ギルドに討伐依頼を出せばいい」


「出しました」マルタの声に苦味が混じった。「ですが、辺境の小村の依頼は後回しにされます。報酬を積む余裕もない。結果、被害は増え続ける」


「ヴィントヘルムには——ゴーレムがあると聞いています」


 クラウスが身を乗り出した。


「巡回用のゴーレムを周辺にも配備していただければ、我々の村も守れる。見返りとして、ベルクハイムは食糧を、エルツは鉱石を、リンデンは交易路の維持と情報を提供します」


 合理的な提案だった。各村の強みを持ち寄り、弱みをヴィントヘルムの技術力で補う。リソースの最適配分——前世の自分なら、即座にGOを出す案だ。


 だが、何かが引っかかった。


「それだけか?」


 レンの問いに、三人が顔を見合わせた。


 クラウスが息を吸った。


「——実は、もう一つあります」


「言え」


「我々が求めているのは、単なる同盟ではありません。ヴィントヘルムを盟主とした——統合です」


 空気が変わった。


 ガルドの目が細くなった。レンは表情を動かさなかった。だが、頭の中では処理が走っていた。


「統合というのは——つまり」


「ヴィントヘルムを中心に、四つの集落を一つの行政体にまとめていただきたいのです」


 クラウスの手が、もう震えていなかった。腹を括った人間の声だった。


「村のままでは限界があります。防衛も、交易も、インフラも——村単位では対応しきれない。ですが、一つにまとまれば——」


「国を作れ、ということか」


 レンの声が、自分でも驚くほど静かだった。


 クラウスが頭を下げた。


「僭越ながら——はい」


「それは、インフラ管理の延長じゃないのか? ゴーレムの巡回範囲を広げて、交易路を整備して、食糧供給を安定させる。行政の枠を変えなくても、技術で解決できるだろう」


「解決できるかもしれません」


 マルタが口を開いた。鉱山の女傑は、レンをまっすぐに見た。


「ですが、レンハルト殿。技術で解決できることと、責任を取ることは違います」


 レンの言葉が詰まった。


「ゴーレムを配備してもらえれば魔物は防げるでしょう。でも、それは——あなたの善意に依存しているに過ぎない。善意は撤回できる。制度は撤回されない」


「延長ではありません」クラウスが続けた。「責任です」


 その言葉が、胸に刺さった。


 善意と制度の違い。技術的に正しい解決策と、社会的に持続可能な解決策の差。前世のスタートアップでも、同じ問題に直面したことがある。プロダクトを作ることと、組織を作ることは——まったく別のスキルセットだ。


 レンは黙った。


 ガルドが横で腕を組んだまま、何も言わなかった。答えを待っているのか、考える時間を与えているのか。


「——すぐには答えられない」


「承知しております。ただ、お時間をいただけると」


「考える。それは約束する」


 三人が深く頭を下げた。


   ***


 会議室を出ると、ギルドの一階が妙に騒がしかった。


「レン!」


 カイルが駆けてきた。


「商人だ! すげえ格好のやつが来てる!」


「商人?」


「南からの街道を馬車二台で来たんだと。護衛も付いてる。なんか、えらそうだ」


 レンは階段を下りた。


 ギルドの受付ホールに、場違いな人間が立っていた。


 四十代の男。仕立てのいい紺色の商務服を着ている。辺境では見ない品質だ。胸元に銀のブローチが光っている——紋章がある。見覚えはないが、格式の高い組織のものだとわかった。


 男の後ろに、屈強な護衛が二人と、帳簿を抱えた書記が一人。明らかに個人の商人ではない。組織の使いだ。


「レンハルト・コード殿でしょうか」


 男が一歩前に出た。物腰は丁寧だが、目が鋭い。人を値踏みする視線だった。


「そうだ」


「ハンデルス通商評議会の先遣商務官、フリッツと申します」


 ハンデルス。


 レンの記憶が反応した。大陸最大の自由交易都市。どの国にも属さず、通商評議会が統治する経済の中枢。「ハンデルスの通商印なくして大陸で商売はできない」と言われる場所だ。


「——ハンデルスが、この辺境に?」


「お噂は東の街道まで届いております。ダンジョン『深淵の迷宮』の全層攻略。しかもFランクのパーティが。——正直に申し上げて、最初は信じませんでした」


 フリッツが薄く笑った。外交的な笑顔だ。温かみはないが、敵意もない。


「ダンジョン素材の流通に、評議会は関心を持っています。特に深層産の魔石と合金素材は、大陸市場で高い需要が見込まれます」


「卸売の話か」


「はい。——ただし、これは私の独断ではなく、評議会からの正式な関心表明です。今回は市場調査が目的ですが、結果次第では首席使節ペトラ・ヴァイスが正式な通商交渉に赴くことになるでしょう」


 首席使節。通商評議会の全権を持つ人物。そんな人間が辺境の村に来る——それだけで、事態のスケールが変わる。


「品質保証の仕組みは?」


「これから整備する」


「流通量の見込みは?」


「ダンジョンの再突入は可能だ。ただし、採掘ペースは未定だ」


「なるほど。課題は多いが、素材の品質自体は——」


 フリッツが書記の帳簿に目を走らせた。


「サンプルを拝見できれば、初回の報告は可能です」


「ガルドさん」


 レンが振り返った。ガルドが頷いた。


「ギルドの倉庫にダンジョン素材の在庫がある。見せてやれ」


 フリッツが丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。——レンハルト殿。一つだけ、個人的な感想を申し上げてもよろしいですか」


「何でしょう」


「この街は、三ヶ月前まで辺境の小村だったと聞いています。それが今、ゴーレムが稼働し、交易路が整備され、ダンジョンを攻略するパーティを輩出している。数字だけ見れば——奇跡か、詐欺です」


 フリッツの目が笑った。だが、瞳の奥は冷徹に計算していた。


「どちらだったかは、素材の品質が教えてくれるでしょう」


 商人は去った。ガルドに案内されて、倉庫へ向かっていく。


 レンは受付ホールに一人取り残された。


   ***


 夕方。


 レンはギルドの二階の窓辺に立っていた。


 二つの来訪。三つの村からの統合の申請と、ハンデルスからの通商の打診。


 どちらも、意味するところは同じだった。


 ヴィントヘルムは——村のままではいられない。


 カイルが階段を上がってきた。


「おい、聞いたぞ。国を作れって話」


「誰から——いや、お前のことだからガルドさんだな」


「ガルドの親父、酒飲みながら教えてくれた。で、どうすんだ?」


「わからない」


「お前がわからないとか言うの、珍しいな」


「AIに聞けば、国家運営の最適解は出せる。組織構造、税制、法体系——全部設計できる。でも——」


「でも?」


「それは設計であって、決断じゃない。国を作るかどうかの決断は——AIの領域じゃない」


 カイルがにやりと笑った。


「国王? お前が? がはは!」


「笑うな」


「いや、笑うだろ! お前が玉座に座ってる姿とか、想像しただけで腹痛い」


「否定はしない」


「でもな」


 カイルの声が少し変わった。


「お前がやるなら、俺はついていく。それだけだ」


「……そう言われると、断りにくくなるだろ」


「断らせる気ないからな」


 メイラがノートを抱えて上がってきた。


「レンさん、集落の統合のお話、聞きました。——政治学的に、非常に興味深いですね」


「研究対象が増えたな」


「はい! 辺境の都市国家形成は、アカデミアでもほとんど先行研究がありません。もし実現すれば——」


「論文が書けるな」


「……それだけじゃないです。レンさんが作る国なら、きっと面白い国になると——思いますし」


 メイラの頬が少し赤くなった。


 そこへ、一階から声が飛んできた。


「あんたが王様……」


 エルナだった。


 階段の途中で、腕を組んでレンを見上げていた。呆れた顔だが——その奥に、別の何かが見えた。心配、だろうか。


「王様って柄じゃないでしょ」


「自覚はある」


「パンも焼けないのに、国を焼けるわけ?」


「焼いてどうする」


「たとえよ」


 エルナが溜息をついた。


「……まあ、あんたが決めたことなら、あたしがどうこう言う話じゃないけど」


「まだ決めてない」


「でも、やるんでしょ」


 レンは答えなかった。


 エルナは——なぜかいつも、レンが口にする前に答えを知っている。AIの予測よりも早い。


「パンの配達範囲が広がるのだけは勘弁してよね」


 エルナはそれだけ言って、階段を下りていった。


 レンは窓の外に目を向けた。


 ヴィントヘルムの街並み。ゴーレムの灯りと、人間が灯す灯り。その向こうに、ベルクハイムの農地があり、エルツの鉱山があり、リンデンの街道がある。


 視線を上げると——北方の山脈が、夕闇に溶けていくのが見えた。あの向こうから、魔物が南下してきている。封印が弱まっている。三つの村だけでは対処できない。


 ヴィントヘルムだけでも——正直、不安だ。


 でも、四つが一つになれば。


「……国を作れ、か」


 レンは呟いた。


 前世では、スタートアップを立ち上げた。プロダクトを設計し、チームを組み、市場に投入した。あの時は——自分の手で全部やろうとした。全部最適化しようとした。そして——燃え尽きた。


 今度は、違うやり方をしなければならない。


 自分一人で設計するのではなく。仲間と一緒に、不完全なまま走り出す。非効率で、感情的で、予測不能なやり方で。


 ——それが信頼ってやつだと、ダンジョンで学んだはずだ。


 イグニスが肩口に浮いた。


「決めたか」


「まだだ」


「嘘つけ。目が決まっている」


「……お前は精霊のくせに、人の顔色を読むのが上手いな」


「数百年生きていれば、嫌でも覚える」


 レンは窓枠に手をかけた。


 辺境の村は——もう、村ではいられなくなった。


 ダンジョンの奥で学んだことがある。AIの最適解は万能ではない。人間の直感と信頼が、成功率二十三パーセントの作戦を成功させることがある。


 国づくりも同じかもしれない。


 成功率がいくつかは知らない。AIに聞いても、正確な数字は出ないだろう。変数が多すぎる。人間の感情、政治の力学、経済の波、そして——まだ見ぬ脅威。


 でも。


 レンは丘から見下ろした四つの集落を思い浮かべた。


 農村の麦畑。鉱山の坑道。街道の宿場。そして、ゴーレムと人間が共存する街。


 これを守るために必要なのが国だと言うなら——


 窓の外で、一番星が光った。


 北方の山脈の稜線に沿って、冷たい風が吹き下ろしてくる。冬が近い。そして冬には——魔物が南下する。


 時間は、あまりない。


「カイル」


「おう」


「メイラ」


「はい」


「イグニス」


「何だ」


 レンは振り返った。三人が——いや、二人と一柱が、そこにいた。


「明日、ガルドさんと三村の代表に、もう一度会う。——国を作る話の、続きをする」


 カイルが拳を鳴らした。


「来た!」


 メイラがノートを胸に抱えた。


「記録、取りますね」


 イグニスの炎が、ゆらりと揺れた。


「面白くなってきたな」


 レンは窓に背を向けた。


 次のアーキテクチャを設計する時が来た。


 今度のプロダクトは——国だ。


 前世では考えもしなかったスケールの話だ。だが、やることは変わらない。課題を構造化し、リソースを配分し、チームで動く。


 ただし今回は——最適解ではなく、最善手を選ぶ。


 仲間と一緒に。不完全なまま。


 辺境の村は、終わった。


 ここから先は——新しい物語だ。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第36話「二つの来訪者」。アーク3「ダンジョン・ランキング」の最終話であり、アーク4への橋です。


三村の統合申請とハンデルスの通商打診——二つの来訪は、どちらも同じことを突きつけています。ヴィントヘルムはもう「村」ではいられない。レンに国を作る決断を迫る。


マルタの「善意は撤回できる。制度は撤回されない」という台詞が、この話の核心です。技術で解決できることと、責任を取ることは違う。ゴーレムをいくら配備しても、それはレンの善意に依存しているに過ぎない——これは前世のスタートアップでも同じですよね。プロダクトを作ることと組織を作ることは、まったく別のスキルセットです。


レンが「最適解ではなく、最善手を選ぶ」と心に決めるのは、ダンジョン深層での経験が効いています。成功率23%の作戦を成功させたのは最適解ではなく、仲間を信頼した最善手だった。国づくりも同じだと気づいている。


エルナの「パンの配達範囲が広がるのだけは勘弁してよね」が最高に好きです。国の話をされても、彼女の視点はいつもパン工房の半径から世界を見ている。でもそれが、レンが設計しようとしている国の地面そのものなんです。


アーク3、お付き合いいただきありがとうございました。アーク4「自動生成された国」でお会いしましょう。

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