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宝石は油で揚げ、涙で味付けしてから「食え」なさい。無様な悪役令息は今日もスパルタメイドに殺されない  作者: 怒れる布団


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1/3

1、祝宴に捧げられた豚

こんばんは。いつもより重い展開になりましたが(なんでやろ)よろしくお願い致します。

 煌びやかな王国の学園広間、年に一度、生徒だけでなく保護者や後援貴族までもが招かれる宴に、場違いな悲鳴が響き渡った。


 それは、屠殺される豚のような、醜く掠れた叫びだった。


「――ぎええええええっん!!!」


 声の主は、公爵家三男、ヨハン・フォークス。

 今しがた、玉座の前に立つ王太子――

 ジョージ・ウェインの口から、冷酷な宣告が下された直後だった。


「私はここに、お前との婚約を破棄する!」


 金色の髪をきっちりと撫でつけ、王家の紋章を胸に輝かせるジョージは、年若くして王者の風格を備えた17歳の少年。

 切れ長の青い瞳は一切の感情を映さず、まるで“不要になった品”を処分するかのような視線で、ヨハンを見下ろしている。

 宣告は続いた。


「理由は明白だ。男爵令息リッカ・ハミルへの執拗な嫌がらせ、尊厳を踏みにじる数々の行為。加えて、下品な装飾と、素顔の判別もつかぬ厚化粧で王家の品位を著しく汚した。そして、何より」


 ジョージの視線が、ヨハンの全身をなぞる。


「王家の秘宝――『天の瞳』を盗んだその不届き!」


 どよめきが広間を満たす。

 昨日までヨハンの権力に怯えていた者たちは


「公爵家の血を引く者が盗み?」


「前から思ってたけどあの人、殿下の婚約者なんて、ふさわしくないわ!」


「我が国の秘宝『天の瞳』、その守護の象徴を盗むとは……。王家への叛逆罪だ!」


 周囲の「観客」たちから口々に容赦のない罵声が浴びせられる。


 ヨハンはその場に崩れ落ちた。

 宝石を過剰にあしらった衣装。

 そのくせ、痩せすぎた体躯は枯枝のようだ。

 首元には幾重にも重なるネックレス、指には嵌めきれないほどの指輪。

 白粉を厚く塗り、強調しすぎた紅と濃いアイライン――

 それらは、かつて“王太子の婚約者”であることを誇示する鎧だった。


「しっ……し、知らない……!天の瞳なんて!ぶえぇぇ……!」


 今日までヨハンは、その身分を盾に、学園で好き放題に振る舞ってきた傲慢な令息で、気づけば、生徒のほぼ全員を敵に回し、実の兄たちでさえ愛想を尽かしていた。


 そして――

 王太子の背後に、控えめに立つ少年。柔らかな栗色の髪に、穏やかな垂れ目。派手さはないが、清潔感のある顔立ちと、静かな気品を備えた男爵令息、リッカ・ハミル。

 彼は不安そうに唇を噛みしめ、ヨハンを見つめている。


 ヨハンは床に伏し、装飾の音をじゃらじゃらと鳴らしながら、ただ泣き叫んだ。


「やだ……やだぁ……!!僕は、王太子の婚約者で……!」


 しゃくりあげる声はもはや言葉にならず、喉の奥から絞り出される獣の鳴き声のようだった。


「ジョージ殿下……!冗談でしょう……!?」


 縋るように手を伸ばすが、その指先が届くことはない。


 広間は、冷たい嘲笑が続く。


「……見苦しい」


 ヨハンの耳元で低く呟いたのは、兄、オーガスティンだった。

 公爵家嫡男。

 端正な顔立ち、余計な装飾も感情も削ぎ落とされたその姿は、まるでヨハンと似ていない。


「いい加減にしろ、ヨハン」


 駆け寄った次男がヨハンの腕を掴む。

 彼もまた涼やかな出立で、こんな場面でなければ、婦人達の溜息を誘うはずだった。


「もう終わりだ」


 縋りつくように暴れるヨハンを、二人の兄は顔をしかめながらも、力で押さえつけた。


「やだ!!離して!!兄様たちまであいつの味方なの?!?」


「黙れ」


「……これ以上恥を晒すな」


 その声には、怒りと同時に――

 どうしようもない疲労が滲んでいた。


「嫌だ……っ!母様……母様、助けて……!」


 兄たちは同時に溜息をつく。


「母上は……南領だ……。来い」


「立て。首輪をつけて引きずって欲しいのか?」


 ヨハンは兄達の冷たい言葉を聞いて泣き叫びながら立ち上がった。

 彼の聞き苦しい泣き声は、貴族たちの嘲笑と侮蔑をさらに誘い、その視線がヨハンの背中をさす。


 王太子ジョージは、最後までその背を見送った。王子の隣で、リッカが小さく


「……可哀想に」


 と呟いた。


 ヨハンは引きずられるように王城の出口へと連れ出され、外の空気は夜気が三人の頬を冷やす。


「やだ……僕は……っ」


「黙れ、ヨハン」


 後ろの扉が閉まり、泣き声だけが、虚しく反響する。


 王太子の婚約者だった少年は、この夜公衆の面前で、無様な“断罪”の主役となったのである。


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 やがてヨハンは公爵家紋章の刻まれた馬車へ、半ば放り投げられるように押し込まれた。


 ――そこからも、地獄だった。


「うわああああああっ!! どうしてこんなことに!! 全部あのリッカのせいなのに!!」


 ヨハンは泣き叫び、床を蹴り、外套を引き裂いた。


「うるさい」


 オーガスティンが即座に言い放つ。


「静かにしろ。耳障りだ」


「だって、だってぇ……! 僕が何をしたっていうの!!」


 嗚咽は止まらず、声は次第に獣じみていく。


「……いい加減に黙れ」


 今度はシエロの声だった。

 静かだが、明らかに怒気を孕んでいる。


「まだ叫ぶつもりか?」


「僕は悪くない!! 全部、全部あいつが!」


 その瞬間。


「殴るぞ」


 短く、低い一言。

 オーガスティンの視線が、真っ直ぐヨハンを射抜いた。


「次は無い」


 ヨハンは、びくりと肩を震わせる。

 兄たちから向けられた完全な敵意。喉がひくりと鳴る。

 口を開こうとして――閉じた。小さく、嗚咽だけが漏れる。宝石だらけの指先で、自分の外套をぎゅっと握りしめ、ヨハンは俯いたまま、黙り込んだ。


 馬車は、重く、無情に走る。

 ――もう、戻れない。

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