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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
9/17

第一章 9話 山鹿商店街集団昏睡事件

 ──翌週水曜日、時刻は10時。

那月たちは颯太に言われた通り、『阿惟越致探偵社』へ足を運んでいた。

那月

「なんか久々な気がするな!」

羽弛

「5日ぶりですからね。」

照夢

「今日はどこに行くんだろ、近場だと良いなぁ。」

「これが仕事なんだから、贅沢言ってられないわよ。」

 そう言って渚がインターホンを押すと、待ってましたと言わんばかりの勢いで結衣が出てきた。

結衣

「やあ君たち!待ってたよ。入って!」


 そうして中に入り、前と同じ会議室に案内される。

結衣

「お疲れ様。『大阪府連続殺人事件』、大変だったみたいだね。」

照夢

「そうそう!ボクたち戦ったことなんてないのにさー、大変だったんだよー!」

那月

「犯人はスコット・スミスって言ったか?そいつが『ティンダロスの猟犬』って怪異を操ってて、人を殺してたってのが真相だな!」

 そうして那月たちは「大阪府連続殺人事件」の一部始終を嘘偽りなく話す。

結衣

「そのスコットって男なんだけど……、君たちと颯太さんが別れた後、自分で舌を噛み切って自殺したよ。」

那月

「は……?」

 自分たちが捕まえた人間が自死したとなると、責任を感じるのが人間として当然だ。

「死んでも情報は渡さないってことかしら……。」

結衣

「……この仕事は悪人と戦う仕事だから、どうしてもヒトを殺さなくちゃいけなかったりする。」

「そんなに気負わないで。相手は凶悪な犯罪者なんだから。」

 そこで、会議室のドアがノックされる。

結衣

「ああごめんね、つい話し込んじゃった、入っていいよ。」

 そうして入ってきたのは社員さんだろうか、身長は175cmほど、シュッとした体型で、真面目そうな立ち振る舞いだ。

先日あんな事件があったからか、人をよく見るようになった気がする。

「お話中すみません。初めまして、私は吉岡と申します。以後お見知りおきを。」

「所長、資料を持ってきました。」

結衣

「ありがとね。あ、(とんび)さん、今度社員旅行でも行こうと思ってるんだけど、どう?たまには遊園地でも行ってパーっと遊びたいよね!」

 結衣とは随分親しいように見える。それだけ付き合いが長いのだろう。

それに対して吉岡鳶(よしおかとんび)は大きなため息をついた。

「……はァ……今年に入ってから何回社員旅行行くつもりですか……?正直なところ、あなたが行きたいだけでしょう!そんなこと言ってる暇があるなら働いてください!」

 嬉しい提案を断ったこと、それよりもその理由に思わず目が丸くなる。

結衣

「ちょっと愚痴をこぼしただけでしょ!私だって頑張ってるの!!」

「いつも真面目に働いてないんだから、愚痴をこぼす資格なんてないでしょう……。」

「最近は珍しくパソコン触ってるなぁと思ったらネット麻雀やってたし……、その前は聞き込みに行くって言ったくせに雀荘行って帰ってくるし……。全く、所長なんですからしっかりしてください!」

結衣

「うるさいな!!!大事な話するから出てって!!!」

 結衣は正論を真正面から受けて、自分で呼んだはずの鳶を半ば強引に追い出した。

結衣

「はい、これが資料だよ。」

 そうしていじけた様子の結衣から雑に資料を渡される。

那月

「はは……、いつもこんな感じなのか……?」

羽弛

「上司とこういうやり取りができる職場は良い職場ですよ。」

照夢

「バカなこと言ってないで早く資料読も!」

「ふふ、飛び火したら怖いものね。」


山鹿商店街集団昏睡事件:概要

 新潟県にある山鹿(やまか)商店街で発生した集団昏睡事件。

被害者の容態については、命はあるが昏睡しており、現在までに目を覚ました被害者は確認できていない。

被害者は全員回収済みであり、現在は東京都の国立病院に収容されている。

 昏睡というよりかは気絶に近い。目は虚ろで意思の疎通は取れず、魂だけが抜き取られたかのようである。

この特徴は「東京都連続魂消失事件」に類似している。

商店街の住民は県内の仮設住宅に避難してもらっている。

商店街は不透明統制部隊以外立ち入り禁止となっている。


照夢

「新潟県!?また遠いじゃん!!」

羽弛

「『東京都連続魂消失事件』に類似している……、」

 その時、結衣が一言。

結衣

「あ、ごめんごめん、忘れてた!颯太さんからのプレゼント渡さなきゃいけないんだった!」

 そう言って取り出したのは、銃や刃物などの武器だ。

結衣

「『これからは守ってやれなくなる。自衛の為にも武器は必要だろう。』だってさ!好きなの選んでよ。」

「言っとくけど、ちゃんと扱うのに練習が必要なものはオススメしません!刀とか鞭とかね。」

「いざって時に使えなかったら意味無いものね。……じゃあ私はこの警棒にしようかしら。」

 渚は折りたたみ式の警棒を手に取る。

那月

「オレは無難にコンバットナイフにするぜ。颯太さんみたいに近接で戦いたいからな!」

羽弛

「僕は拳銃にします。使い方は知っているので。」

 3人がスムーズに決める中、照夢だけは迷っていた。

照夢

「うーん、どれにしよう……刃物はちょっと柄じゃないし……銃は誤発が怖いし……、」

 悩む照夢に、結衣は工具を渡す。

結衣

「じゃあ……このレンチとかどう?取り回しも良いし、ダメージもそこそこ。何より、私が現場に行ってた時に使ってたのと同じ!」

照夢

「うん、じゃあこれにする!……これ、滑り止め付いてるタイプだ。これなら振りかぶっても安心だよね。」

結衣

「そういうこと!みんな、くれぐれも一般市民には見つからないように。見られて通報でもされたら面倒だからね。」

那月

「おう!ありがとうな!」

 事件の概要を確認し、武器を入手した一行は、新潟へ向かうために駅へと向かう。


 平日の昼にしては人が多いと感じるホームで新幹線を待っていた。

その数分後、那月たちの背後のホームに電車が入ってくるのが見える。

その時、背後に立っていた1人の男子高校生が何かをブツブツ呟いているのに、羽弛は気がついた。

男子高校生

『時間、混沌、神秘、創造、時間、魂、輪廻、覚醒。』

 その高校生は突然走り出し、電車が入ってきていたホームに飛び込んだ。何かがぶつかるような鈍い音がする。

照夢

「えっ、何!?」

 それが人身事故だと理解するまでに僅かなラグがある。それ程に唐突な事故だったからだ。

周囲はざわめき、悲鳴を上げる者もいるだろう。

ホームは一瞬にしてパニックになる。人身事故を目にするのは初めてだ。心配と共に吐き気を催す。人の多さで飛び込んだ高校生を見ることは叶わない。

そんな時、高校生がいると推測できる場所から、白い透明の何かが、天高く登っていくのが見えた。

「ちょっと、あれ見て!」

那月

「白くて透明の……何だ?あれ。」

 その問いに対して答えたのは羽弛だ。羽弛は自分の気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと言った。

羽弛

「あれは、『魂』……です。」

照夢

「待って、何でそれ知ってんの……?」

羽弛

「詳しくは新幹線内で話します。」


 高校生を助けに行きたいのは山々だが、OCFは世間には知られてはならない組織だ。傍から見れば我々はただの一般人である。

そう思っていると、誰が呼んだか警察と救急隊が到着するだろう。だが何かおかしい。救急隊は困っている様子だ。

「……どうかしたのかしら?」

 救急隊を避けてできた空間から様子を伺うと、高校生の姿は見えなかった。線路にも、ホームにも、電車にも、どこにも居ないのだ。

羽弛

「どこにも居ない……、念の為颯太さんに連絡しておきましょう。」

 そうこうしているうちに新幹線が来た。那月たちはモヤモヤした気持ちのまま乗ることしか出来ない。


 新幹線に乗った那月たちは、車両の連結部に集まっていた。

照夢

「ここなら人に聞かれる心配もないでしょ。話してよ、羽弛。」

 羽弛は静かに頷き、深呼吸をして話し始める。

羽弛

「僕が裁判官を志したのは、母の仇を地獄に送る為なんです。」

「僕が幼い頃、母は目の前で、"口から白い透明なものを吐いて"亡くなりました。『まるで魂が抜けたかのような遺体』となって。」

「証拠も見つからず、警察は事故と判断しました。それでも、僕はそうは思えなかった。」

「母はとある宗教に魅入られ、多額の借金をしていました。」

那月

「その宗教って、まさか……、」

羽弛

「はい、その宗教が『シャノワール教団』だと分かったのは、母親が亡くなって数ヶ月経った頃です。」

「母親は、『東京都連続魂消失事件』の被害者なんです。」

「復讐、するつもりなのね。」

羽弛

「……颯太さんから話を聞いた時は、とても嬉しかった。」

「僕の最終目標は、『シャノワール教団』を壊滅させ、母のような犠牲者を二度と出さないようにすることです。」

那月

「そういうことだったのか……、よし。俺も協力するぜ!OCFに入ってからの目標が欲しかったんだ。だから、俺も協力する。な!」

「私もよ、一人で抱え込むのは絶対にダメ。」

 照夢は2人の言葉に頭を抱える。

照夢

「あーもー!ボクも!この仕事するって決めた時に着いてきてくれた借り、返すから!」

羽弛

「皆さん……ありがとうございます。」


 新幹線に乗ること約2時間。新潟駅へ到着するだろう。

「今回も長旅だったわね〜。」

 渚は伸びをしながらそんなことを言う。

那月

「さて、まずは聞き込みだな!仮設住宅の方に行ってみるか!」

 仮設住宅は山鹿商店街とは逆の方向にあった。事件現場へ近づかせないためだろう。

どこかへ行くのだろうか、仮設住宅から中年の女性が出てくるのが見えた。

羽弛

「僕が行きます。……すみません、少しお話よろしいですか?」

女性

「ええ、どうかしたのかい?」

 女性は買い物カゴを持っている。スーパーにでも行くのだろう。

羽弛

「探偵をしている者です。山鹿商店街で起きたことについて調べているのですが、何かご存じありませんか?」

 女性は驚いたような表情をした後、遠くを見つめながら、問いに答えてくれる。

女性

「──事件が起きてから、もう1ヶ月になるかねぇ。」

「あの日はなんてことない、普段通りの1日だった。……でも、八百屋の村田さんが、店先で立ったまま気絶しちゃってねぇ。」

「救急車を呼んで、しばらくして、村田さんが亡くなったって聞いて。八百屋はすぐに店を畳んだのよ。」

「警察が商店街を閉鎖するって言って、私たちはここに避難してきたの。」

「元々ほとんどの店が看板を降ろしていたから、被害に遭った人は少なく済んだんだけれど……。」

羽弛

「村田さん以外にも、被害者が出てしまった、と……。」

女性

「そうなのよ。みんな立ったまま気を失ったって聞いて。もしこれが街や他の商店街で起きたらと考えるとゾッとするねぇ。」

 女性は悔しそうな顔をして、ボソッと呟く。

女性

「今回の事件が解決したとしても、山鹿商店街で店を開く人はもう居ないだろうねぇ。」

「みんな新しい職を見つけて働いているみたいだから……。」

 今は平日の昼。今の話からも、仮設住宅にはほとんど人が居ないことが推測できる。女性に話を聞けただけでも良かった。

羽弛

「お話、ありがとうございました。大変かと思いますが、陰ながら応援しています。」

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