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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
20/20

第二章 9話 爆破予告

 しばらく休暇、そう言われたが、那月は今日も颯太と組手をしていた。これをしていたおかげで活躍はできているが、やはり相当キツい。

颯太

「もうおしまいか? そろそろ俺に傷の一つでも付けてみたらどうだ。」

那月

「冗談キツいぜ……アンタ左手使ってねぇだろ!」

颯太

「はっ、バレてたか。動きはかなり良くなってるぞ。『猟犬』と良い勝負して負けるくらいには成長してる。」

那月

「負けんのかよ! ……でも、正直こんなに強くなれるとは思わなかったぜ。」

 ふと、那月はとある疑問を思い出した。

那月

「そういやさ、翠を生き返らせたのも、オレの傷治してくれたのも能力だろ?寿命消費でそんなこともできるのか?」

颯太

「あぁ、厳密にはあれは消費じゃなくて譲渡だ。翠を生き返らせたアナスタシスは50年、お前を治療したフヴァーフは1年、俺の寿命を分け与えた。」

那月

「そういう……待て、アンタ何者なんだ?」

 那月が見たものだけで合計52年分の消費。颯太の年齢は知らないが、見た目限り20代後半。那月たちに会う前にも能力を使用していたと考えると、寿命の計算が合わない。

颯太

「気づくのが遅い。別に隠してないんだが、──俺はニャルラトホテプという邪神の血を引いてる人間なんだ。だから何十万年も寿命があるし、命を分け与えるなんて芸当も出来る。」

那月

「そうか……確かに命の譲渡は神の領域って考えるのが自然か……。でもなんか、ただの人間じゃなくて良かったって思ったぜ。」

「変な意味じゃないんだ! ただの人間だったら、あまりの力の差に絶望してたと思う。」

颯太

「そうか、言っておくが俺はOCF内だと3番目くらいの強さだ。上2人はただの人間。」

那月

「話聞いてたか!?」



 翌日、"WING"全体が休暇ということで、那月たちが主体となってみんなで出かける計画を密かに立てていた。今日はその実行日だ。

4人はバラバラに、颯太、結衣、翠、浩宇を誘う。


 那月は颯太を誘いにOCF本部へと足を運んでいた。颯太は慣れた手つきで業務をこなしている。

颯太

「なんだ、忘れ物か?」

那月

「いや、せっかくみんな休暇だからさ、どっか遊び行こうぜ!」

颯太

「物好きだな。大して楽しくないと思うが……まぁいいだろう。」

「せっかくだからパトロールにも付き合ってもらうか。」

 そうして街へ降り、パトロールが始まる。颯太はいつもこんなことをしているのだろうか。

颯太

「最近この近辺に不審者が出たらしい。怪しいヤツが居たら教えてくれ。」

那月

「おう。なんかちょっと警察っぽいな!」

 那月は少しだけワクワクしていた。

颯太

「気は抜くなよ。こういう何気ない日常にも、不透明事件は潜んでいる。例えば……ここだ。」

 颯太が指したのはただの路地に見える。否、よく見ると路地の周辺がぼやけて揺らいでいる。

那月

「この路地……もしかしてこれ自体が怪異なのか?」

颯太

「さあな、ただ、この路地は本当は存在しない。」

「日常の風景の小さな違和感、その1つが大きな事件に発展することもある。」

「なにも風景だけじゃない。妖怪として言い伝えられている猫又や人面犬も、その"違和感"に該当する。」

「この路地を調べるぞ。周囲に気を使え。」

 2人は怪しい路地に入る。現状周囲に気になるものは無い。

那月

「迷路みたいだな……。」

 路地内は入り組んでおり、気を抜くと迷子になってしまいそうだ。

颯太は迷路の要領で左の壁に沿って進んでいる。

そうして5分が経った頃、颯太は立ち止まった。

颯太

「なるほど、ループしてるな。ここは3回通った地点だ。」

那月

「……全然気づかなかったぜ。」

颯太

「那月、何者かが外で俺たちに幻覚を見せている可能性が高い。そっちはお前に任せる。」

「もし外に怪しい影がなかったり、どうにもならなそうな時は、本部に応援を要請しろ。」

 颯太は那月の返事を待たずに、突然首を手刀で攻撃してくる。

驚き飛び起きると、首の痛みはそのままに、那月だけ街へ戻っていた。

那月

「乱暴するぜ……。さて、」

 颯太は隣に座り込んで眠っているようだが、先程の路地があった場所には2本の尾を持つ少女が立っていた。

那月

「お前がやってるのか?」

少女

「驚いた。ボクの結界から抜け出すなんて。キミって何者?」

那月

「それは内緒だ。猫又なのか?」

猫又

「ご明察〜。もう少し遊びたかったけど、バレちゃったし失礼するよ。」

 そう言って猫又は掌印を結ぶ。

猫又

「またどこかで会うかもね。」

 猫又はそう言うと、姿を消してしまった。それと同時に颯太が目を覚ます。

颯太

「上手くいったみたいだな。」

那月

「猫又の仕業だったみたいだぜ。もう逃げちまった。」

颯太

「そうか。あぁ見えて猫又は強い怪異だ。襲われなくて良かったな。」


 そうして2人はビヨンモールへやってきた。

那月

「なんか……人少ないな。」

颯太

「大方最近出たっていう不審者にビビって、皆外出を控えているんだろう。」

「警察としても被害の拡大は防ぎたいところだ。懸命な判断だな。」

「それはそうと、本部の備蓄が切れそうなんだ。食料品コーナーに寄らせてもらうぞ。クソ、面倒事ばっか押し付けやがって。」

那月

「良いぜ。オレもなんか買っとくか。」

颯太

「水と缶詰類を買ったら、2階に上がってバスタオルも買わなきゃな。」

 買い物を済ませ2階へ上がる途中、颯太の携帯が鳴る。

颯太

「悪ぃ。」

 一言断りを入れて電話に出る。

颯太

「どうした。今日は休暇のはずだが?」

「……なんだと? あぁ、今丁度そこに居る。あぁ、分かった。そっちは応援を頼む。」

 何だか不穏な空気だ。

颯太

「那月、警戒態勢を取れ。」

 那月は頷き、指示通りにいつでも動けるように準備をする。

颯太

「落ち着いて聞け。今本部から連絡があった。『シャノワール教団』から邪神招来の犯行表明が公開され、このショッピングモールが標的になったらしい。」

「最近の不審者はここの下見をしていたという事だろう。……もうじき爆破テロという体で警報と放送が鳴る。」

「そうしたら俺は犯人グループの拘束へ向かう。お前は一般客の避難案内だ。避難が済んだら屋上に来い。」

 突然の事件発生だが、今更何が起きても驚かない。

那月

「分かった。」

 那月が頷いた数秒後、予告通り警報と放送が鳴る。

『お客様にお伝えします! ただいま当店にて爆破テロが予告されました! 速やかに避難を!! 繰り返しお伝えします……』

颯太

「よし、健闘を祈る。解散!」



 ──同時刻、渚は結衣を誘いに阿惟越致(あゆいおっち)探偵社へと足を運んでいた。

呼び鈴を鳴らすと、出てきたのは吉岡鳶(よしおかとんび)だ。

「おや、四森(よつもり)さん。どうかされましたか?」

「結衣ちゃんに用事があったんだけど、もしかして留守かしら?」

「そうなんです。もう少しで戻ると思いますので、良ければ中でお待ちください。」

「じゃあそうさせてもらうわね。」

 鳶は会議室に案内した後、お茶を出してくれる。

社員

「そうだ、所長が戻るまで少しお話でもしませんか?」

「これ色んな人に聞いてるんですが、四森さん、トロッコ問題ってご存知ですか?」

「……いいえ、初耳だわ。」

「トロッコ問題とは、『あなたは暴走した無人トロッコの進路を決めることができる。目の前に線路は2つ。

左の線路では若者1人が、右の線路では老人5人が作業をしていた。

さて、この時あなたはどちらを犠牲にするだろうか?』という思考実験です。四森さんはどうしますか?」

「そうね……。」

 渚はしばらく考えて結論を出す。

「老人がどのくらいのお年寄りかは分からないけど、私は若者一人を助けるわ。」

「でも、老人5人の方が上手く仕事ができるなら、そっちを助けたいわね。」

「なるほど……四森さんは人の上に立つ素質がありますよ。」

 そんなことを喋っていると、結衣が帰ってきたようだ。

結衣

「ただいまぁー、」

「所長が帰ってきましたね。私はこの辺で失礼します。」

 鳶が会議室から出て行ってすぐ、結衣が入ってくる。

結衣

「あれ、渚さんじゃん!」

「こんにちは。用事は済んだの?」

結衣

「うん! 渚さんが1人で来るなんて珍しいね、何かあった?」

「ふふっ、結衣ちゃんとデートしたいなと思って。」

 渚の提案に、ただでさえ明るかった結衣の表情が更に明るくなる。

結衣

「ほんと!? いいよ! どこ行く!?」

「そうねぇ、ショッピングでもどうかしら?」

結衣

「良いじゃん! すぐ準備するね!」

「あ、そういえば、最近この辺で不審者が出たんだって。もし出くわしちゃったら渚さんが守ってね。」

 そうして2人はビヨンモールへやって来た。土曜日にしてはやけに客が少ないように感じる。

「結構空いてるわね。」

結衣

「ラッキーだね!」


結衣

「うーんどこから行こうかな〜……お洋服も見たいしコスメも見たいし……、」

「そういえば……鳶さん、そろそろ誕生日なんだ。そのプレゼントから選びに行ってもいい?」

 そうして2人は3階の日用品売り場へ来た。

結衣

「何がいいかな〜色々気にかけてくれるし、凝った物の方がいいのかな〜……でも今更そんな仲でもないし……、」

「プレゼントなら……これとかどうかしら?」

 渚が手に取ったのは、少し高めの入浴剤5個入りセット。

結衣

「あ、それ良い! それにする!! 買ってくるね!」


結衣

「よーし! ラッピングもしてもらったし、これでオッケー! じゃあ次はお洋服見に行こ!」

「梅雨に入る前に可愛い夏服買っときたいんだ!」

 そうして2階のファッションフロアを回っていると、突然警報と放送が鳴り響く。

『お客様にお伝えします! ただいま当店にて爆破テロが予告されました! 速やかに避難を!! 繰り返しお伝えします……』



 ──照夢は翠と共に休暇を過ごそうと、連絡を入れていた。

照夢

「『今東京にいる? ちょっと一緒にショッピングモール行かない?』……っと。」

 送信してすぐに返信が来る。

『いいっすね! 今どこすか? 迎え行くっすよ!』

照夢

阿惟越致(あゆいおっち)探偵社の向かいのビルの前に居るよ。』

 そうして10分程でミドリが迎えに来るだろう。

「照夢さーん! お疲れ様っす! ショッピングモールってビヨンモールっすか?」

照夢

「そう、ちょっとぶらつこうと思ってさ。」

 そうして2人はビヨンモールへやって来た。

「俺はとりあえず楽器屋行きたいんすけど、照夢さんはどっか行きたいところあるっすか?」

照夢

「いーや、本当にぶらつこうと思っただけだから、翠に着いていくよ。」

「そっすか? じゃあ楽器屋行きましょ!」


 3階、到着したのは「KIRIYA楽器」と書かれた看板が置かれている店だ。

「ここっす!」

 店内に入ると、緑髪の女性が品出しをしているのが見えた。

麗羽

「いらっしゃいませ……って翠! よく来たね!」

「おっす姉貴! 友達と買い物してんだ。」

「てことで、こちらオレの姉貴の麗羽(うらは)。」

麗羽

「麗羽でーす。この楽器屋の店長やってまーす。いつも弟が世話になってるみたいだね。」

照夢

「いえいえ、翠君にはボクがお世話になってるくらいで……。」

 麗羽は翠よりも大雑把で適当な性格。少し言葉を交わしただけで、確かに翠の姉だと分かった。

麗羽

「んで?何買いに来たの?」

「ピックとクロス。そろそろ買っとかないと。ついでに弦も買っとこうかな。」

麗羽

「はいよ、いつものね。1380円。」

「そういえば……最近この辺で不審者が出たらしいね。2人とも気をつけなよ。」

照夢

「不審者、ですか? ……分かりました。麗羽さんも気をつけて。」

 そういえばそんな話を聞いたこともあった気がする。気に止めておこう。

元々照夢はそんなに外出が好きな性格ではない。ダラダラと予定を組まずに歩くのが好きだ。

と、翠が買い物を終えたようだ。

照夢

「ちょっと散歩しようよ。」

「おっ、良いっすよ!」

 そうしてショッピングモールを出ようとすると、突然警報と放送が鳴り響く。

『お客様にお伝えします! ただいま当店にて爆破テロが予告されました! 速やかに避難を!! 繰り返しお伝えします……』



 ──羽弛は浩宇(ハオユー)と共に休暇を過ごそうと、メッセージを送った。

程なくして電話がかかってくる。

ハオ

『もしもし、羽弛さんどうかした?』

羽弛

「せっかくの休暇ですし、ショッピングモールにでも行きませんか?」

ハオ

『おお、いいよ! ワタシの幼なじみもいるんだけどいい?』

羽弛

「もちろんです。」

 そうして駅前に集合することを約束し、少し早めに着いておく。

しばらくしてハオと赤髪の男が迎えに来た。

ハオ

「羽弛さんおまたせ! 紹介するね、この子はワタシの幼なじみのリー。」

リー

李偉(リーウェイ)です。今日はよろしくお願いします。」

 喋り方は随分日本人に近いが、顔立ちや名前から察するに、彼もハオと同じ中国人なのだろう。

羽弛

祖月輪羽弛(そがわはゆる)です。よろしくお願いします。」

「ショッピングモールはすぐそこですよ。」

 そうして3人はビヨンモールへやって来た。

土曜日にしては客が少ないと羽弛は感じたが、まぁそんなこともあるかと思って口には出さなかった。

ハオ

「ワタシお腹空いちゃった〜、ご飯食べよ!」

リー

「フードコートは……4階だね。」


 フードコートはかなり広く、ざっと見て十数店舗は入っていた。

ラーメン、うどん、カレー、丼物、ハンバーガー、たこ焼き、更にはクレープまで食べられる。

リー

「広いですね……。僕はハンバーガーにしようかな。羽弛さんは何か食べます?」

羽弛

「せっかくなので……たこ焼きを。」

 言い出しっぺのハオはしかめっ面で悩んでいる様子だ。長考の末、決める。

ハオ

「決めた! ラーメンにする!」

 席を取り、各々料理を注文しに行く。

羽弛

「たこ焼き6個入りを1つお願いします。」

 羽弛は特別たこ焼きが好きというわけではないが、何だか大阪での初任務のことを思い出して食べたくなった。


 料理を受け取り席に戻ると、2人は先に座っていた。

リーは既にハンバーガーを食べようとしている。ハオは装置を握りしめ、ワクワクしている様子だ。

リー

「ん、おかえりなさい。」

「羽弛さんは普段は何をされてるんですか?」

羽弛

「普段ですか……なんでしょう。仕事なら、裁判官をしていました。」

リー

「裁判官ですか! ……その言い方だと、辞めてしまったんですか?」

羽弛

「はい。夢を追うために。」

 嘘は言っていない。母の仇を討つためとは流石に言えず、あえて含みを持たせた。

リー

「なるほど……僕は近所の中学校の卓球部のコーチをしています。中国人が日本人の強化をするのも、おかしな話ですけどね。」

羽弛

「確かに、中国は卓球強いですもんね。」

リー

「ええ。あ、話は変わるんですが、最近この辺に不審者が出たそうなので、気をつけてくださいね。」

 そこで、ハオの持っていた装置が鳴る。

ハオ

「っよし! 取りに行ってくる!」

 ハオが足早にその場を離れ、2人きりになると、リーが詰め寄ってくる。

リー

「羽弛さん、ハオと親しいように見えますけど、どういう関係なんですか?」

 どう考えても親しいのはそちらでしょう、と言いたかったのを堪える。

どういう関係。仕事仲間と言うわけには行かないだろう。リーの身体にOCFのバッジは見当たらない。

変に誤魔化すのも不自然だろう。羽弛の脳が弾き出した答えは、これだ──。

羽弛

「実は……僕の命の恩人なんです。」

 リーは訝しんだ表情を解き、安堵したように胸を撫で下ろす。

リー

「なるほど、そうでしたか。」

「実は僕も小さい頃大怪我をしたことがありまして……ハオが救急車を呼んでくれなかったらどうなってたか……。」

「お互いに、ハオには感謝しなきゃですね。」

 答えは分かっているが、羽弛も仕返しに質問することにした。

羽弛

「じゃあ逆に質問しますが、ハオとはどういう関係なんですか?」

リー

「言ったじゃないですか。幼なじみですよ。」

「2人とも中国の上海出身で、7歳の時に日本に来たんです。」

「簡単な中国語しか喋れない年齢でしたから。ほとんど日本語が母国語のような感じです。多分ハオも同じなんじゃないかな。」

 ふむ、なかなかボロが出ない。もう直接聞いてしまおう。

羽弛

「……リーさん、ハオのこと好きなんですか?」

リー

「べべ別に! 付き合ってるとかではないですよ! ただ小さい頃から一緒にいるだけです! 意識してないと言ったら……嘘になりますけど……。」

 ほら、やっぱり。リーが顔を赤くしたところで、ハオがラーメンを持って帰ってきた。

ハオ

「ただいま〜……2人なんかあった?」

羽弛

「いえ、何もありませんよ。」

ハオ

「ふーん……じゃ、いただきまーす!」

 ハオは担々麺にしたようだ。勢いよく麺をすすり、どんどん食べ進めていく。

ハオ

「やっぱり日本のラーメンは美味しいなぁ〜、中国で食べた記憶あんまりないけど。」

 そう言ってハオはあっという間に担々麺を食べ終えてしまった。

ハオ

「ごちそうさまでした! この後どうする? 映画館とか行ってみる?」

リー

「いいね。羽弛さんも、一緒に行きましょう。」


 そうして映画館へ行こうとしたその時、突然警報と放送が鳴り響く。

『お客様にお伝えします! ただいま当店にて爆破テロが予告されました! 速やかに避難を!! 繰り返しお伝えします……』

 何度か任務をこなしてきたからか、不思議と驚きも焦りもなかった。

羽弛

「爆破テロ……。ハオ、あれ見てください。」

 羽弛が指し示した先、慌てふためく客の中に、黒いローブを着た男が4人ほど混じっている。

ハオ

「嫌な感じ……羽弛さん、リーを避難させてすぐ戻ってきて。」

羽弛

「分かりました。必ず。」

 リーは何が起きているのか分からないと言った様子でパニック寸前だ。

リー

「ハオ!」

ハオ

「大丈夫! ワタシに任せて!」

羽弛

「リーさん、行きましょう。」

 その場はハオに任せて、急いで1階へ降りる。元々客が少なかったからか、ショッピングモール内に人はほとんど見受けられなかった。

羽弛

「すぐそこが出口です。ここで大丈夫ですか?」

リー

「はい。羽弛さん……ハオを、お願いします。」

羽弛

「任せてください。必ず無事で戻ります。」


 4階に近づくにつれて、大きな足音がドタドタと走っている音が聞こえてくる。

様子を見ると、ハオが黒いローブを着た男たちに追われていた。

羽弛

「……いや、違うな。」

 ハオは人の居なくなった4階を走り回ることによって、人数差を補っているようだ。

アクション映画さながらの攻防。手助けに入るとかえって邪魔になってしまうだろう。取りこぼしの警戒だけしておけば良さそうだ。

ハオはヒットアンドアウェイを繰り返し、最後の正拳突きがクリーンヒットする。

ローブの男たちは動かなくなった。

羽弛

「リーさんは無事に非難させました!」

ハオ

「ありがとう! ワタシたちも早く避難するよ!」

 ローブの男たちをそのままに、2人は出口に向かって走り出す。

こうしてハオと共に走っていると、遊園地での出来事を思い出す。さほど時間は経っていないが。

ハオと共に外に出ると、辺りを警察が取り囲んでいた。リーも無事だ。

リー

「2人とも! 良かった……。」

ハオ

「あとは警察に任せて大丈夫。ワタシたちは帰ろっか。」



 ──警報直後、颯太と別れた那月は、1階の中央ホールへ向かっていた。案の定人がたむろしている。皆動揺している様子だ。

那月

「そりゃそうだよな……皆さん! 落ち着いて! 大丈夫ですよ!」

 元々客が少なかったのもあり、5分程度で全ての避難が完了した。

那月

「これで良し。さて、屋上行かなきゃな。」

 急いで屋上へ行くと、颯太が黒いローブを着た男2人を軽くあしらっていた。

屋上の床には大きな魔法陣が描かれており、その周りに黒いローブを着た男が3人、手錠をかけられ倒れている。

那月

「やっぱ強ぇな……。」

 那月は久々に見る颯太の戦闘に見とれてしまう。

颯太

「ほい、お前も公務執行妨害。」

 と、そんなことをしている間に戦闘が終わったようだ。

頭上には警察と思しきヘリコプターが2機飛んでいた。

那月

「颯太さん! 終わったぜ!」

颯太

「来たか。思ってたより早かったな。」

「警察も到着したし屋上も取った。じきに制圧が完了するだろう。」

「さて、俺らは退散だ。面倒なことは全部警察に任せちまおうぜ。」



 ──渚と結衣に場面は移る。

結衣

「ば、爆破テロ!? えーっと……、」

「ひとまず外に出ましょう!」

 1階へと降りるエスカレーターはここから150mほど先にある。走って向かうも、既に遅かった。

黒いローブの男

「おや?君たち。どこに行くつもりかな?」

 エスカレーターの前に、黒いローブを着た男が立っていた。悪意に満ちた表情でこちらを見ている。

「そこ、退いてくれない?」

「ほう、残念ながらそれはできない相談だ。お嬢ちゃんたちは生贄になるんだから。」

 男がそう言うと、周りの店から黒いローブを着た男たちが出てきた。その数全部で9人。完全に包囲されてしまう。

「9対2。勝負は明白だ。」

「結衣ちゃん、下がって。」

 渚は警棒を取り出し、戦闘態勢を取る。

「……おいおいそんなに睨むなよ。可愛い顔が台無しだ。それとも、こっちがお望みかな!」

 男は突然、拳を振りかざす。

謎の女

「──たった2人に寄ってたかって、情けねェな。」

 だが、その拳が下ろされることはなかった。吹き抜けになっている3階から飛び降りた女が、男に蹴りを食らわせたのだ。

増援かと思うも、女の身体にOCFバッジは見当たらない。

「はァ……なんでこう行く先々で事件に巻き込まれちまうんだか……。」

「私は今虫の居所が悪いんだ。おい雑魚共、憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ。まとめてかかってこい。」

 女は余裕そうに挑発する。

「このアマ……お前ら! やっちまうぞ!」

 9人の男は一斉に女に襲いかかる。然し、攻撃は女には届かない。

女が手のひらから火の玉を出し、攻撃を防いだのだ。

先頭の男が驚いて怯んだ隙に、女は火の玉を量産して自分の周囲に漂わせる。

次は逆に女が男たちに突撃し、軽やかな身のこなしで男たちをなぎ倒していく。死角からの攻撃は火の玉が守っているが、女の体術は神崎颯太に匹敵する程だった。

そう見とれていると、いつの間にか戦闘は終わっていた。女は返り血ひとつ浴びていない。

「凄い……それにあの火の玉……、」

 渚はそれに、先日の由芽高での霧矢翠の力と似たものを感じ取る。つまりはあれも"能力"なのだろう。結衣は女の元へ駆け寄っていた。

結衣

「助けてくれてありがとうございました!」

「大したことはないさ。ここは危険だから早く逃げた方がいいよ。」

結衣

「はい……あの! 名前を聞いても?」

誘鳴

「……ただの通りすがりの探偵さ。また会おう。新田結衣(にったゆい)ちゃん。」

 そう言って女は結衣に名刺を投げてその場を後にした。

結衣

「なんで私の名前……、憶那(おくりな)探偵事務所!? 憶那誘鳴(おくりないざな)……。」

 どうやら結衣はその名を知っているようだ。

「憶那探偵事務所?知ってるの?」

結衣

「"日本一依頼の来ない探偵事務所"で有名な探偵だよ! つい最近用があって訪ねたんだけど、所長さんは居なかったの! あのお姉さんが……。」

「依頼の来ない……なるほどね。」

 あの身のこなしと能力を使うことから、OCFと似た組織、怪異専門の探偵なのだろうと推測できる。

結衣

「それにしてもあのお姉さん……誘鳴さん、何となく雰囲気とか颯太さんに似てなかった?」

「気のせいかなぁ……。」



 ──同時刻、照夢と翠。

「爆破テロ……!? オレ、姉ちゃんの様子見てくるっす!」

 そう言った翠は、一目散に階段を駆け上がっていく。

照夢

「ちょっ、翠!?」

 嫌な予感がする。ミドリを1人で行かせるのは良くない。

照夢

「早く追わないと……って足速!?」


 翠の後を追って着いたのは、3階にあるKIRIYA楽器。翠が麗羽を守りながら、黒いローブを着た2人の男と戦っているのが見えた。

ローブの男たちは照夢に気づいていない様子だ。

照夢

「チャンスかも。」

 照夢はレンチを握りしめ、背後から奇襲を仕掛ける。

後頭部を思い切りぶん殴り、男の1人を気絶させた。

「何だ!? ……グッ、」

 翠は男が気を弛めた隙に、チョークスリーパーを決める。やがてもう1人の男も気を失った。

麗羽

「うひゃー助かったよ2人とも! 爆破テロ? の警報が鳴ったと思ったら、こいつらがやってきてさ。」

「生贄がなんだとか言って襲われそうになってたの! 本当にありがとね。」

 麗羽は心底安心した様子だ。

「ひとまず無事で良かった。照夢さんもありがとっす! 一緒に避難しましょ!」

 そうして2人と共に避難すると、辺りを警察が取り囲んでいた。

照夢

「警察まで来てるんだ……どっちにしろ今日はもう遊べないね。」

「そっすね、じゃあオレは姉ちゃん(いえ)まで送るっす!」

照夢

「うん、またね。」

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