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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
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第二章 8話 閑話

 時刻は11時。不気味な遊園地、魂を抜かれた遺体の末路、死者の世界。

電車に乗っている那月たちと浩宇(ハオユー)は、それらを報告しにOCF本部へと帰るところだ。

トンネルを通り風を切る音がすると、隣で寝ていた浩宇が目を覚ます。

ハオ

「ん……ここは……?」

那月

「電車の中だ。全員無事だぜ。」

ハオ

「そっか……遊園地は脱出できたんだね! はー良かった!」

「3人は……寝てるの?」

 羽弛、照夢、渚は電車の揺れに身を任せてスヤスヤと寝息を立てている。

那月

「前の任務から続けてだったからな。今は寝かせといてあげようぜ。」



 しばらく他愛のない会話をしているといつの間にか駅に着いた。那月は3人を起こす。

羽弛

「もう朝ですか……?」

照夢

「ママ……あと5分だけ……。」

「ふふっ、2人ともおはよう。ありがとう。」

 寄る場所もないので、このまま本部へと向かうことにした。

本部へ戻ると、そこにはいつも通りタバコを吸っている颯太の姿があった。

颯太

「お前ら、ご苦労だった。よく帰ってきたな。『由芽高生徒連続失踪事件』は無事に解決したと上に報告した。」

「お、ハオじゃねぇか。よく帰ってきた、お疲れ様。」

ハオ

「颯太さん久しぶり! それより報告したいことが……」

 そうして那月たちは、由芽高を出た後に遊園地へ迷い込んだこと、そこで見た白い透明な"魂"、地下の謎の空間について報告した。

颯太

「……なるほど。報告感謝する。」

「その遊園地だが、数年前に警察内でかなり話題になった怪談に酷似してるな。」

「今となってはそれが昇華して都市伝説とされている。」

 そう言って颯太はその怪談の内容をコピーして渡してくる。


絶望遊園地

特定の時間の電車に乗って、その電車で寝過ごすと、存在しない場所へ辿り着くことがある。

その場所の名前は絶望遊園地。

白い透明の死者の魂が集い、彷徨っていることから「棺桶」と呼ばれている。

生きた人間が迷い込んでしまえば、二度とそこから出ることはできない。

誰がいつどのようにして作ったのか、全く分かっていない。


颯太

「OCFではその遊園地全てが怪異と認定されているが……その地下の花畑については情報なしだな。」

「白い何かが"魂"だとして、遊園地の名前が"絶望"ということは、その花畑は、"魂"が行き着く"天国"や"楽園"だと考えることもできる。」

「まぁ詳しく調査してみないことには分からないが……ともあれお前らのおかげで、この怪談が事実だと証明された。この件は上層部に任せるとしよう。」

那月

「そうだ颯太さん、オレらゲニウス様に会ったぜ! 顔なじみなんだろ?」

 颯太は心底驚いた顔をした。

颯太

「ゲニウス様に会ったのか!?」

「……いや、なるほど。……恐らく俺の担当する不透明事件を続けて解決したせいで"繋がり"が濃くなったんだな……。」

「とはいえ口外は禁止されている。ゲニウス様についてはお前らであっても何も言えない。」

 報告を終えたところで、颯太から嬉しい知らせがあった。

颯太

「つうことで、今日からしばらく休暇だ。ゆっくり疲れを取るといい。」

「次の事件が決まり次第連絡を入れるが、解散の前に着いてきてくれ。由芽高での話の続きだ。」



 ハオとはそこで別れ、颯太の案内でOCF本部の地下へ向かっていた。

照夢

「ここ地下もあったんだ……。」

 しばらくエレベーターを降り、やがて着いたのは地下演習場。羽弛、照夢、渚は初めて見る光景に驚きを隠せない。

那月

「お前ら初めて来たのか、ふふん、俺は一足先に来たことあるぜ。」

羽弛

「街、のようですが……、」

「不気味なほど人工的というか、平らな場所に無理やり地形と家を作ったみたいな感じね……。」

颯太

「その通り、ここはOCFが作った地下演習場だ。現場では命のやり取りになるから、諜報員はここで戦闘訓練を行う。」

照夢

「……それにしては使ってる人居なくない?」

 確かに、広大な演習場なのに人っ子ひとり見当たらない。

颯太

「言っただろ、OCFは人手不足なんだ。それにアイツらにはここは狭すぎるからな。」


 4人は颯太の案内で、少し開けた広場に着ていた。

颯太

「さて、本題だ。お前らには教えておこう。薄々気づいてただろ? 俺や(みどり)が使う、不思議な力のこと。」

「それ、気になってたのよね。」

 何も知らない那月たちに、颯太は一から説明してくれる。

颯太

「まず、俺たち生物の身体には、血液や酸素の他に魔力が流れている。目には見えない内なる力だ。」

「魔力は鍛えることで流用できるようになる。西洋を中心に伝わる魔法だけでなく、日本では忍術と呼ばれ、中国では気と呼ばれる。馴染みがあるだろ?」

「魔力の流用で得た力を、俺たちは『能力』と呼んでいる。」

「能力を身につける方法はいくつかある。才能、センス、血統、努力。だが結局扱うには相応の身体が必要だ。」

「能力を水とするなら、身体は器。頑強な器でないと、水の力に耐え切れずに決壊する。」

「色々話したが、まぁ見てろ。」

 そう言うと、颯太は演習場の建物の方を向き、1音節言葉を紡ぐ。

颯太

「──アミナス:エルティ。」

 颯太は建物に向けて力を込めてデコピンをする。次の瞬間、とてつもない音と爆風によって、建物とその奥の奥の建物までが壊れていた。

4人

「──。」

 開いた口が塞がらないとはこの事だ。

颯太

「これが俺の能力。指定した分の年月で得られる力を、寿命を消費して使うことができる。」

「前借りってところだな。今のは1年分だから、寿命が1年縮んだ。」

「ただ、ヤバい時以外は極力使わないことにしている。周りを巻き込むことになるからな。」

照夢

「いやそこ!? 寿命消費って大丈夫なの!?」

颯太

「俺は少し特殊な体質なんだ。気にすんな。」

 もっとツッコミたい気持ちを抑え、話を聞く。

颯太

「制限を設けることで、能力を底上げすることもできる。俺なら"寿命消費という制限を設けて、莫大なパワーを得る"って感じだな。」

「翠は魔力を音に変えて仲間をサポートする能力なんだが、"移動不可の制限を設けて、強大な範囲バフを発動出来る"ようにしてる。だからアイツのバディは戦闘が得意なハオになった。」


颯太

「お前らもこのまま努力を続ければ、いずれ能力を使えるようになる。努力で手に入れた能力はカスタムが効くからな。どんなのにするか今から考えとくと良いだろう。」

羽弛

「……能力に上限はありますか?」

颯太

「あぁ、自分の力を超える能力は使えない。力ってのは身体の強さだけでなく、魔力をどれだけ鍛えたかってのも入る。」

「能力は比較的自由だ。馬鹿で単調な奴は単純な能力。天才でセンスがあって血統に恵まれてて努力もするやつは、当然ヤバい能力を持っている。まぁ、俺はそんなやつは1人しか知らないがな──。」



 ──数刻前、都内にある立体駐車場にて、『シャノワール教団』幹部のリリィ・ブラッドは星を見ていた。

紅蓮

「お嬢さん、こんな所に1人きりなんて、不用心ですよ。」

 いつから居たのか、あまりの足音の無さに驚いたのも束の間。その男の立ち姿に、ひと目で只者では無いと分かった。

リリィ

「お前、不透明統制部隊の人間だろ。」

紅蓮

「驚きました、私たちをご存知で。……どこから漏れたのでしょうか。」

リリィ

「それはナイショ。お前『鬼没』だろ、獲物の方から来てくれるなんて。」

 リリィはひと目で理解した。練り上げられた強大な力。恐らく自分が長らく到達することの出来ない域に、眼前の男はいる。

そんな男と殺し合いが出来る。それだけで胸が踊る。

リリィ

「あーしは『シャノワール教団・ファーストブラッド』代表、リリィ・ブラッド。」

紅蓮

「私は鬼灯紅蓮(ほおずきかれん)。まぁ、今から死ぬ者に名乗ったところで、──冥土の土産くらいにしかならないでしょうが。」

 鋭い眼光に睨まれたリリィの背筋が凍る。今まで感じたことの無い強者からの殺気。

紅蓮

「震えていますね……、怖いですか?」

「大丈夫。貴方はそこまで弱くはなさそうですし、着いてくることが出来れば、死ぬことはありませんよ。」

リリィ

「あ、ははっ、あーしがビビってる……? うるっせぇよ!」

 リリィは指をピストルの形にして紅蓮の額へ向ける。

リリィ

「バーンっ!」

 瞬間、パンっという軽い音と共に、紅蓮の眉間に穴が開いた。紅蓮が仰向けに倒れ、その穴から血がドクドクと流れ出す。

リリィ

「あははっ! なーんだ、拍子抜けじゃん! 綺麗な血──、」

紅蓮

「──なるほど、そういう"能力"ですか。」

 声が聞こえたのは、たった今仕留めたはずの紅蓮の遺体からだ。遺体はゆっくりと起き上がる。

確かにその額には穴が開いている。然し、それが瞬く間に塞がってしまったのだ。

リリィ

「……それは"反則"っしょ。」

紅蓮

「貴方が不意打ちをしたから、それに応えただけですよ。──『指で対象者を指定し、音で攻撃』、と言ったところでしょうか。」

 一度見ただけで言い当てられた衝撃に、開いた口が塞がらない。

紅蓮

「貴方は少しポーカーフェイスの訓練をした方が良いですね、命のやり取りは心理戦です。」

「貴方のような幹部は、所謂"初見殺し"の能力を持っている、ということが分かりました。」

「もう少しだけ"手合わせ"しましょう。『シャノワール教団』は、私の情報も、欲しいのでしょう?」

リリィ

「ナメやがって……。殺す! 絶対殺す!!」

 リリィは得意な距離で戦うために背後へ飛びながら、紅蓮を指さす。さそうと思っていた。

紅蓮が約20人に増えていたのだ。リリィは咄嗟に作戦を変更する。指定を"人物"から"方向"へ、手のひらを紅蓮へ向ける。

リリィ

「バシュッ!!」

 増えた紅蓮の首が一斉に飛ぶ。然し声が聞こえたのは背後からだった。

紅蓮

「──素晴らしい機転です。ただ、視野が狭くなりすぎている。」

 紅蓮は即座に3連撃、リリィの腹に叩き込んだ。ボギャッ!という人から鳴ってはいけない音が響いて、リリィが吹き飛ぶ。

すんでのところで腕でのガードは間に合った筈だが、リリィの腕はありえない方向に曲がっていた。

リリィ

「……あぁ、痛いなぁ……痛い、痛い痛い痛い!! でも!! ……生きてるって感じする!」

「これが、あーしの"切り札"。これも効かなかったらもう無理。」

 リリィは紅蓮を指し示し、擬音を呟く。寸前、莫大な魔力が自分めがけて飛んでくるのを、紅蓮は感じていた。

紅蓮

「これは、タダでは済みそうにないですね。」

リリィ

「──ガシャン。」

紅蓮

「──当たれば、の話ですが。」

 紅蓮はリリィの"能力"をなぞるように、1音節だけ呟く。

紅蓮

『イ=ノトカッ・タカン』

 その言葉を聞き、莫大な魔力は"最初から存在しなかった"かのように消え失せた。

リリィ

「……あはっ、チートかよ……。」

紅蓮

「リリィさん、貴方は運が良いですよ。なかなか楽しめましたし、今日は遊びで来ただけですから、この辺で失礼します。」

「──次に会う時が楽しみですね。」

 紅蓮はリリィの瞬き1回の間にどこかへ消えた。

リリィ

「クッソ、鬼灯紅蓮……。狙撃に長けた暗殺野郎……。あ゛ーーッ!! 絶対殺してやるーーーッ!!!」

 折られた腕を庇いながらしばらく騒いだリリィは、どこかに連絡を入れる。

リリィ

「もしもし、あーし。『鬼没』に襲撃された。能力は分かんないけど多分不死身。倒すのは無理!」

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