第一章 11話 鈴の音
戦闘を終え魚屋を出ると、そこには男が立っていた。
刀を持った白髪の男だ。耳元のピアスと首のタトゥーが目を引くが、派手な見た目とは裏腹にキッチリとスーツを着こなしている。
男はこちらを一瞥すると、鈴の音色のような声で話し出す。
???
「不透明統制部隊の皆さんですね。先日は友がお世話になりました。」
一瞬呼吸が止まった。見たところ服にバッジが見当たらない。それにもかかわらず、"不透明統制部隊"を知っている。
那月たちは禍々しいオーラに当てられて、無意識に武器を構えていた。
那月
「お前、何者だ?」
レクトル
「これは失礼、『シャノワール教団・特別特殊行動隊"LECTOR"』隊長、レクトル・ヴラディスラフと申します。」
『シャノワール教団』、その言葉に否が応でも反応してしまう。上手く声が出せない。
レクトル
「それにしても、この速さで解決されてしまうとは思ってもいませんでした。」
感じたのは、威圧に似た憎悪の感情。やけに息苦しく、肺が押し潰されそうだ。
レクトル
「急いでいるので、この辺で失礼します。」
レクトルと名乗った男が腰の刀に触れたと思った瞬間、そいつは目の前から消えた。
4人は突然、腹部と頭部に強い衝撃を受けることとなる。意識は強制的にシャットダウンしてしまうだろう。
レクトル
「今は眠っていてください。大丈夫、いずれまた会えますよ。」
那月は、背中に硬い感触を受けて目が覚める。空はすっかり暗くなっていた。
周りでは3人が眠っている。そこは商店街の真ん中だった。
那月
「痛ってぇ……うーん、何でこんな所で寝てんだ?」
羽弛、照夢、渚も続けて目を覚ます。
羽弛
「っはぁ!!……あ、夢か……。」
照夢
「……なんか凄く嫌な夢を見てた気がするんだけど。」
渚
「それに、何だかお腹が殴られたみたいに痛いわ。」
4人は身体を起こし、現状の把握をする。商店街を調べて分かったことの整理、そして何故道の真ん中で寝ていたのか。
然し、答えは闇の中。何故寝ていたのか誰も思い出せないのだ。
那月
「あー、ダメだ。でも調べられるところは全部調べたよな?」
羽弛
「その筈です。事件はこれで解決なのでしょうか。」
照夢
「じゃあもう後始末は全部本部に任せて早く帰ろうよ。」
渚
「そうね、連絡しておくわ。」
数分待つと、結衣から返信がくる
結衣
『みんなお疲れ様!気をつけて帰ってきてね。次回は金曜日、10時にOCF本部に行くこと!それと、帰りに探偵社に寄ってくれる?ブライトが会いたいんだってさ。』
照夢
「ブライトちゃん!早く!帰ろう!!」
新幹線にしばらく乗り、阿惟越致探偵社へ帰ってきた。出迎えてくれたのは新田結衣だ。
結衣
「お帰り!報告は後で聞くよ。」
結衣に案内されたのはいつもの会議室。今日は電気が付いている。
羽弛
「何だか少し緊張しますね……。」
結衣
「大丈夫、良い子だから。……ブライト、入るよ。」
結衣は会議室をノックする。返事は無いが、そのままドアを開けた。
そこに居たのは赤い目をした真っ白な小さい女の子だ。絵本から出てきたような美しい彼女に、思わず生唾を飲んでしまう。
照夢
「こんにちは、君がブライトちゃん?」
ブライトはこくりと頷く。然し怯えている様子だ。
照夢の手がブライトに触れようとした瞬間、ブライトはささっと結衣の後ろに隠れてしまった。
照夢
「ご、ごめんね!驚かせるつもりはなかったの!」
結衣
「あはは、ブライトはちょっと人見知りなんだ。少しずつ、ね。」
ブライトはホワイトボードを掲げた。
ブライト
『上手く話せないので、ひつだんで。』
『結衣さん以外の人、ちょっとこわいんです。ごめんなさい。』
結衣
「大丈夫だよブライト。この人たちは私のお友達だから、味方だよ。」
ブライトは申し訳なさそうな顔をしてホワイトボードに文字を書く。
ブライト
『ブライト、みなさんと仲良くしたいです。』
『結衣さんのお友達は、ブライトのお友達です^^』
渚
「じゃあ、私は渚。こっちから、照夢、那月、羽弛。これからよろしくね。」
ブライト
『ブライトです、よろしくおねがいします^^』
その後も、しばらくブライトと楽しく話して、今日はそこで解散となった。きっと仲良くなれただろう。
ブライトと別れた帰り道、その道中で、結衣は説明を始める。
結衣
「失語症ではないんだけど、あんまり声が出せないの。」
「ブライトね、小さい頃は両親の研究所で暮らしてたんだって。あの子は凄く頭が良いから、色々助けになってたみたい。」
「でもある日、両親が『東京都連続魂消失事件』の被害者になった。ブライトはそれを、目の前で見ちゃったの。」
「そのショックで、声の出し方を忘れちゃったんだって。少しずつリハビリしてるんだけど……。」
那月
「そうだったのか……。オレらに手伝える事があったら、なんでも言ってくれ!"友達"だからな!」
結衣は少しだけ涙ぐんで、空を見上げる。
結衣
「うん、ありがと!みんなに会わせて良かった!」
結衣と別れて、山鹿商店街での事件は解決したと報告する。モヤモヤした気持ちは今も消えていない、何か忘れているような気がする。
思い出せないことに苛立ちを感じながらも、那月だけは違うことを考えていた。
那月
「なぁ、オレ考えてたんだけど、教職辞めようと思うんだ。」
続けて口を開いたのは、意外にも渚だった。
渚
「奇遇ね、私も建築士辞めるつもりよ。」
那月
「そうだったのか!なんか安心したぜ。」
「もちろん教員を目指してたのはそうなんだけどよ、なんか思ってたのと違ったんだよな。」
「オレは、死ぬ瞬間までやりたいことをやりたい!だからOCFに集中する。」
渚もそれに賛同する。
渚
「じゃあ私もそうするわ。私も、やりたいことをやる。」
照夢
「ちょっと、何2人だけで盛り上がってんの?ボクも混ざる。」
羽弛
「僕もですよ。母の仇討ちは、OCFの方が近そうですからね。」
那月
「お前ら……!よっしゃ、これからはもっと気合い入れて行くぞ!」
辞職の思いを固めたところで、今日は解散となった。次に集まるのは金曜日、どんな事件が待っているのだろう。
その時、那月のスマホにメッセージが届く。
颯太
『那月、お前明日から暇だろ?ちょっと付き合えよ。10時に本部に来てくれ。』
それはまるで辞職することを知っていたかのような内容だった。まあでも、颯太さんならそんなこともあるかと妙に納得してしまう。
那月
「分かったぜ、っと。さて、帰るか!」