81/99
いつも私が待たされる
尾町名さいなは、恋人の戦くんと毎朝いっしょに学校に行く約束をしている。
近所の公園で合流するのだが、いつもさいなのほうが早く待ち合わせ場所に来て、彼が来るのを待っている。
別に戦くんが待ち合わせの時刻に遅れてくるわけではない。彼も約束の時間前にちゃんと来るのだ。さいなが毎回早く来すぎるのである。
彼に少しでも早く会いたいから。彼と一秒でも長く一緒にいたいから。先に来れば、ご褒美がもらえるから。
「おはよう、さいな」
戦くんが朝のあいさつと共にやって来たが、さいなはすぐに返事をしない。
黙ったままゆっくりと立ち上がり、彼に向かって腕を広げた。
現在、午前7時58分。8時10分に待ち合わせる約束だから、戦くんは全く悪くない。
しかし彼は「待たせてごめんね」と謝り、さいなを優しく抱きしめる。
「えへへ。私いっぱい待ったよ」と言って、さいなも彼の背中に腕を回す。
ふたりの足元を鳩が歩いて通りすぎると、しあわせいっぱいの一日が今日もはじまる。




