人造人間ココロに関する報告
人造人間ココロは昨日から元気がない。
彼女は、自分のことをずっと『ココロ』という名前のオリジナルのロボットだと思ってきた。しかし昨日、彼女とそっくりだけどロボットなんかじゃない本物の『こころ』がいることを知った。
自分が何者かの代用品でしかなかったという事実。オリジナルではないというだけの、しかしそれだけで心を押し潰すのに充分な、圧倒的な敗北感。
本物だと信じていたブランド品を「それ偽物だよ」と指摘され笑われるような恥辱が拙い自尊心を切り刻む。
「ロボットであること=人ではない」という拭い切れない劣等感を彼女は自分が一個のオリジナル体であるという誇りで心の底に隠してきたが、その誇りは嘘だった。
気になることがたくさんある。オリジナルの『こころ』は、今どこでなにをしているのか。生きていないような気がする。もしそうなら、いつ、どうして。
『cocoro type05』が自分の正式名だ。つまり、おそらく自分の他に四体の『ココロ』がつくられた。その子たちは今どこに。
自分をつくり出したのは、普段「パパ」と呼んでいる男だ。彼とオリジナルの関係は何。彼が求めているものは何。気持ち悪い。
不信感が彼女の心を汚していく。部屋の外から足音が聴こえてきた。彼が来る。
「自尊心?劣等感?不信感?ロボットのくせに。わたしは何を」
彼女は記憶のすべてを消去した。




