元最強剣士、戦う
「【妨害・改】」
そう唱えると、地面からたくさんのツルのようなものが生え、アリスを捕らえようと襲う。
しかしアリスは、それを遊びのように楽しそうに避け続ける。
「楽しそうだね。」
「うん、すっごく楽しい!だってこんな複雑な魔法使う人初めてだもん!」
複雑な魔法。この魔法は複雑でもなんでもない。もともと剣士を目指す人間のために、敵を足止めしたり、妨害するために生み出した初心者でもコツを掴めば扱える魔法。
……を、ちょっぴり、スパイスをたした程度に組み替えただけ。魔術師初心者が扱える魔法をちょっといじって組み込んだ。
言ってしまえば、追尾型。
妨害の元はただただ地面が隆起するだけ。そこにツルと追尾用の魔法を組み込んだ。本当に、ただそれだけ。
そんなちょっとの組み換えで最弱魔法は普通の魔法なんかよりも断然強くなる。
前世は剣士だったくせに、魔法の開発は楽しくて楽しくて仕方がなかった。だから、魔術師に誤転生したのも、もっと開発ができるということでちょっと喜んではいる。
「わっとと、えーっと、魔法はこれだけ?」
「やるだけはフェアじゃないから、そっちもどうぞ。」
「な、なんか舐められてない…?なら遠慮しないよ!」
舐めてるのはそっちだろ、なんて言いたくなるがぐっと抑える。彼女は剣の強化も魔法の付与もせず、ただただ素の斬撃のみで迫ってきた。
「…。」
「(目が本気だ。しかも、斬撃1つ1つがかなり重い。かなり上級者だな。)」
本気とかいてマジと読む、のレベルじゃない。
左から右に放たれた斬撃の速さは、音速を超える。余波がすごいはずなのに、次への繰り出しの速さが異常だ。
手首をひねり、太刀の刃が受ける風の圧力をもろともせず、休む感覚なしに、予測もできない方向から2本の太刀が飛んでくる。
この子は侍ではなくアサシンと短剣士の融合型。なおかつ普通の攻撃で余波が飛ぶ。なかなかの剣士だ。彼女なら、もう少し頑張れば狂戦士としての資格を得ることが出来るだろう。
…といっても、元狂戦士として戦ってきた僕としては、この斬撃じゃあ遅すぎるけれど。
「へぇ、なかなか凄いね。」
「っ、そりゃあっ!!」
アリスは空中に小さな圧を作り、それを床として僕とは逆方向に飛ぶ。床に着地したアリスは、侍特有の魔法斬撃を繰り出す。
「【千本櫻の開花】!」
空気中に漂う魔性気が、桜の形となり彼女に吸収されていく。彼女の太刀が、桃色に光る。
彼女が剣を降った瞬間、彼女の太刀そのものからの斬撃、そして、四方八方から無闇矢鱈に魔法斬撃が飛んできた。
職業1つ1つに複数の、段階を踏んだ奥義が存在する。これは数ある侍奥義の1つ。強さで言ったら、弱い方。でも、この歳で覚えているのは、現代ならきっと、たぶん、なかなかすごいことだと思う。
奥義は種類があるけれど、これはある一定の距離の敵をまとめて消し飛ばす、言うならば範囲攻撃に近い奥義。だから、避けるのがかなり面倒くさい。
…ならば、奥義ごと消し飛ばそう。
「【00魔法消滅】」
「えっ、ちょ?!」
強制魔法消滅魔法。この魔法に対しては、この世のどんな魔法でさえも、発動中であれば消滅されることができる。
アリスはきっとこんな魔法知らないだろう。知っていたらそれは俺の心臓が唐突に止まるレベルで驚きだ。知っている人間がいるわけない。その証拠か、彼女はえっえと、ずっと慌てふためいている。
そんな状況だろうと、俺はお構い無しに魔法を繰り出す。
「【煉獄の襲撃】。」
「っ、え?ちょ、それはどういう…!」
瞬きを行うほんの一瞬、その一瞬に彼女を中心とした、部屋を埋め尽くすほどの火の玉が召喚された。
たった一言を唱えれば、その火の玉はアリスに向かって動き出す。
「…『開始』。」
「ま、負けた…。」
あのあと、全身がまっ黒焦げになる前に彼女から白旗が上がった。その瞬間防護魔法が発動したのだが、残念ながらその防護魔法は脆すぎたらしい。
俺の魔法を一撃くらっただけで砕け散ってしまった。
まぁ、それを予測して前もって防護魔法をその内側から新たにかけておいたから、彼女は守られたのだが…。
「まさか、そんな、負けるなんて…。」
「…相当ショック受けているみたいだね。加減してあげた方が良かったかな?」
「いや、うん、あの…ね、もう…いい。」
「いや、本当に大丈夫…?」
今すぐに魂ごと天に消えてしまいそうなアリスの頬をぺちぺちと叩き、正気に戻そうと思ったが、全然戻らない。諦めよう。
この勝負に勝った僕は、連戦で次の相手と戦わなくてはいけないらしい。
リーグ戦といえど、強い弱い勢揃いのなかで、アリスほど強いやつはいるのだろうか。まぁ、リーグ戦はいわば勝ち残りなので、結果的に強いやつと巡り合えるはずなのだ。期待して問題ないだろう。
「はぁ…。めんどくさいなぁ。なんでリーグ戦なんだよ…。」
どうぞこちらへ、と言わんばかりに、俺が入ってきた上空の扉が光っている。あそこへ飛び込めということだろう。
さて、次は誰と相手をすることになるのやら。




