エピローグ
その日、俺は休まずに学校へ行った。
登校の途中ですでに強烈な眠気に襲われていた。
二時間目の古典の授業の途中で、実際寝息を立てる自分に気付き、あわてて体を起こしたぐらいだ。
幸い誰もそんな俺の行動に気をとめるものはいなかった。
隣の篠崎彰子でさえも。
昼休みになり、俺は立ち上がる。
財布をズボンのポケットの中にあることを確認して、彼女の前を通る。
彼女は鞄の中から弁当の包みを出そうとしている。
俺は知らず立ち止まっていた。
「どうしたの?」
篠崎彰子が顔をあげてこちらを見た。
俺は不思議と落ち着いていた。
そのせいか、ふと浮かんだ質問をよどみなく俺は口にしていた。
「篠崎ってオンラインゲームとかする?」
「え?」
彼女はしばしこちらをみたまま動きを止めた。
「スマホじゃなくって、パソコンでやるようなやつとか」
俺は彼女の目をみる。
警戒しているわけでもない。知らないわけでもない、クラスメイトにむける目だ。
「……やったことぐらいはあるけど」
彼女は答える。
「そっか。いやちょっと最近俺はまっててさ」
俺はそう言って窓のほうに視線を向ける。
「なに、一緒にはやらないよ」
弁当を手に彼女は立ち上がる。
「……ま、パーティプレイって面倒なところあるしな」
まだ彼女の顔をうまくみれない。
「……うん、そんなとこ」
夢か。
あれはそういうことなんだろうか。何かを俺は聞いたりしていたのかもしれない。それであんな夢をみたんだ。きっとそうなのだろう。
「じゃ、わたしアヤカとお昼いくから」
弁当の包みを手に彼女は教室を出てゆく。
俺はというと、何となくまた自分の席に座ってしまう。
そして廊下に消える彼女の後ろ髪をみていた。
たぶんまだ俺は彼女が好きなんだ。
喧騒の教室の中で、少しだけ目を閉じ、俺は思う。
だが、それはそれだ。
それ以上でも、それ以下でもなく。
それはただ、そこにある。
それだけだ。
***
学校から帰ると、まっすぐ自分の部屋に入りパソコンの電源を入れた。
ブラウザを開き、あの日スマホで見たゲームのサイトを開いてみる。
ゲームマスター募集の文言はそのままにあった。
『参加する』のボタンの後には申し込み画面が開いた。
電話番号先などはなく、メールフォームだけがあるような状態だ。
募集要項を見ると、担当者の名前があった。
立花、とある。
――やっぱりな。
応募シートの画面を開いてみる。
ゲームの経験履歴などの質問項目が並んでいる。
『ゲームマスターの経験はありますか』
そんな項目を見つける。
経験、ね。
『ある』にチェックを入れてみてから、少し考え、『なし』にチェックを移した。
今はこれでいい。
夢は夢。
これからはこれからだ。
スクロールした先に、送信ボタンがある。
カーソルを合わせる。
『はい』とある。
オーケー。
息を吸い、息を吐き俺はクリックする。
カチリ、と音が聞こえた。
<了>




