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ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~  作者: ぱすた屋さん


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23/53

第22話:17時のシャットダウン:記録の修正完了

 

 翌朝、08時00分。

 極北の空は、昨夜の嵐が嘘だったかのように澄み渡り、地平線から昇る朝日が新雪を眩しく照らしていました。魔導列車の始発便が駅に到着する音が、静寂の中に響きます。


「……ふむ。始発の運行ログに遅延なし。私たちの撤収作業チェックアウトも予定通りです」


 私はギルド極北支部のエントランスで、整然と並べられた荷物を確認していました。背後では、王都から急行した憲兵団によって、虚脱状態のジャイルズたちが次々と連行されていきます。彼らの名前はもはやギルドの公式名簿にはなく、ただの「未処理の不審者」として記録されていました。


「アイラさん! セレンさんが見送りに……!」


 ルークが指差す先、ギルドの門扉に一人の少女が立っていました。

 昨夜までの怯えた少女でも、復讐に燃える幽霊でもない。朝日を浴びて、正当な「セレン・アリス」としてそこに立つ彼女の手には、母から受け継いだマスターキーが握られています。


「……事務官さん。最後にお礼を言わせて。あなたがいなかったら、私は今もあの壁の中で、誰にも届かない声を出し続けていたと思う」


「お礼など不要です、セレン様。私はただ、データベースの『正規化』を行ったに過ぎません。……。それより、あなたにはこれから膨大な『相続手続き』と『身分証の再発行』という、復讐よりも過酷な事務作業が待っています。……。覚悟しておきなさい」


 私の突き放すような言葉に、セレンは一瞬驚いた顔をし、それからこの三日間で初めて、子供らしい悪戯っぽい笑みを浮かべました。


「ふふ、そうね。……。でも、今の私なら大丈夫。ちゃんと『ログイン』して生きていくって決めたから」


 彼女は小さく手を振って、ギルドの中へと戻っていきました。その足取りは、十年前の空白を埋めるように力強いものでした。


 ---


  【帰路:魔導列車の車内にて】


 ガタゴトと揺れる車内。ルークは座席に深く沈み込み、泥のように眠っています。私はその横で、膝の上に広げた報告書の最終ページを書き進めていました。


「……さて。今回の『極北出張案件』に伴う超過勤務手当、および精神的苦痛に対する慰謝料の算定ですね」


 私はペンを走らせ、ギルド長へ提出するための「特別報酬請求式」を端書きに記しました。


 $$C = (H_{ot} \times R_{base} \times 1.5) + D_{psych}$$


 > $C$: 合計請求額(Compensation)

 > $H_{ot}$: 吹雪による強制拘束時間

 > $R_{base}$: 基本時給

 > $D_{psych}$: クレーマー(代理人)対応に伴う精神的磨耗係数


「……。よし。これに加えて、ルークへの『命がけのアーカイブ調査報酬』として、王都で一番高いパフェ三回分の経費を上乗せしましょう」


 ---


【一週間後:王都ギルド窓口】


 16時59分。

 いつものように、王都本部の受付窓口。

 私のデスクには、極北支部から届いた「正常に稼働中」との業務連絡(定期ログ)が届いています。セレンは無事に遺産を継承し、あの僻地を「冒険者のための憩いの場」に変えるべく、新しい事務員たちと奮闘しているようです。


「アイラさーん! 今日の分の書類、全部仕分け終わりました!」


 ルークが誇らしげに報告に来ます。私は時計の針が頂点に重なるのをじっと見つめました。


「お疲れ様です、ルーク。……。一秒の誤差もありませんね。合格です」


「へへっ、ありがとうございます! ……。あ、そういえばアイラさん。例の特別手当、ギルド長が泣きながら承認したって聞きましたよ?」


「当然です。私の『定時』を奪ったのですから、それ相応のコストを支払っていただかなくては。……。さあ、業務終了シャットダウンです」


 私は迷いなく受付のシャッターを下ろしました。

 17時ちょうど。

 世界がどれほど混沌バグに満ちていても、私の引いた「定時」という境界線だけは、今日も完璧な正解を刻み続けています。


「お疲れ様でした。……。ルーク、パフェの店、予約してありますよ」


「えっ! 本当ですか!? やったー!」


 夕暮れの街へと歩き出す二人の影。

 受付嬢アイラの戦いは、明日もまた、オンタイムで幕を開けます。


【完】


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

本当に今更なんですがミステリーものは描くの苦手です。

ミステリーにもなっていないかもしれませんね。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


また思いついたら投稿します。

次回もお楽しみに。

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