086話 俺は俺の為に
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誰もいない空き家を見つけ、そこで静かに休息を取る。
いつどこで襲われるか分からない恐怖がありながらも、眠気には逆らえず倒れ込む様に皆眠って行く。
最初の見張りは俺。
ウトウトしながらもなんとか眠気を誤魔化して、辺りに注意する。
わざわざ空き家の中まで探す人の方が少ないとは思うが、安全と言う事も出来ない。
かなりの人数を掛けて探索しているとすれば、夜を明かす前にここも見つかってしまうだろう。
そうなる前にみんなには十分な睡眠を摂ってもらいたい所だ。
だから、見張りの順番も俺を最初にしてある。
次の人を起こさなければ、長めに睡眠が確保出来るからな。
所々破れたカーテンからは夜特有の灯りが見え隠れする。
命を狙われているにも関わらず、この幻想的な光を綺麗だと思える余裕があった事に自分でも驚く。
だけど、ここからは気を引き締めよう。
相手は本気のレインズだ。
こんな気を抜いているタイミングで襲われたら確実に死ぬ。
「・・・おい」
その声が聞こえてはっとする。
背筋が凍るほどの恐怖。
レインズは音も無く、目の前に現れた。
油断していたとはいえ、ここまで気付かず接近されるとは。
寝始めてから時間は経っていないが、皆を起こさなければ。
「そのまま動かずに聞け」
「それは何の冗談だ?胸に手を当てて自分が何をしたか考えろよ」
殺そうとしてきた相手の言葉を素直に聞けというのは流石に無理がある。
黙っていれば殺されるんだ。
全員を起こして、先程と同様に対処するのが現状は最適といえる。
いや、ここには仲間しかいないのだから、わざわざ逃げ隠れする必要もない。
外へ誘き寄せて、そのまま戦うという選択肢もある。
どうせレインズと戦うのは避けられないのだから。
「・・・お前はどうして、他人の為に動ける」
「いきなり何の話だ」
「そこの寝ている赤髪の女が言っていただろ。逃げた方が良い。自分達とは関係のないことだって」
コイツ、あの時の話を聞いていたのか。
「そいつの言う通りだ。人がどこで死のうと関係ない。関わってリスクを犯す必要がないだろ」
「世の中知らない所で人が死ぬなんてことは当たり前だ。殺人か、自殺か、寿命か。考え出したらキリがない」
「やっぱりお前も心の中ではそう思っていたんだな」
「でも、知った以上動かない訳にはいかないんだよ」
「偽善だ。仮に今から死に行く可能性があった者を救えたとしても、既に死んだ者は生き返らない。・・・どうにもならないだろ」
その今までとは違い勢いのない言葉尻を聞いて理解した。
この男、迷っている。
自分がしようとしていることが正しい道でないと知っているから。
だから、その道を歩くのを躊躇った。
このタイプの人間は正義を貫くよりも何倍も悪役に徹するのは難しいだろう。
こうやって問いかけて来たのも引き戻して欲しいように思える。
「全てに意味がある必要はない。身勝手でも良い。俺の人生だ、俺の決めた事に従う」
「・・・リキテッドを止める算段はあるのか?」
「ぶん殴って改心させる。シンプルで分かりやすいだろ」
「バカだな、お前。ただでさえ、脳に何も詰まってなさそうな顔してるのに、発言まで中身が無ければ終わりだな」
「なんだお前。口悪過ぎて味方なのか、敵なのかまだ判断できねーよ」
「だけど、嫌いじゃないな。その考えも」
レインズが笑った。
いつもは不機嫌な彼もこんな風に笑う事があるんだな。
人間だから当たり前のことなんだけど、それが不思議と安心した。
「俺は弱味を握られているから、助けられないけど。応援している」
「弱味って、お前の師匠と関係しているか?」
「あぁ、そうだ。ジジイが倒れたのは病なんかじゃなかった。毒を飲まされたんだよ、リキテッドに。解毒薬はリキテッドしか持っていない。だから、逆らえない」
「そこまでしていたとはな。逆らえないのも頷ける。まぁ、別に手伝えとは言わない。俺達だけでもどうにかするさ」
「お前にこれやる。少しは助けになるかも知れない」
近付いて来たレインズが俺に何かを渡して来た。
確認してみると小さな魔石だということが分かる。
これは一体どういうものなのか。
「それは俺の魔力が入った魔石だ。水魔法が1度だけ使える。お前には必要ないかも知れないが、今寝ている奴らには必要かも知れないだろ?」
レインズの使っていたハイドロラッシュが使えるとしたら、護身用としては心強いアイテムだ。
大概の相手はこれだけで倒せるだろう。
サポートとしては優秀だが、身を守る術の少ないベリーに渡しておくのが無難か。
それだけ言い残して、この場を立ち去ろうとするレインズ。
何も急いで居なくなる必要はないのにと言うおうと思ったが、心中を察した。
1度殺意を向けた相手とどう接すれば良いのか分からないのだろう。
俺は事情を知っていたので、理由を知って納得はした。
だけど、他の仲間はどう思うか。
時間を掛けて説明すれば同様に納得するかも知れないが、それでも殺され掛けたという事実には変わりない。
許すまでに至るかは個人の感情の問題になって来る。
ならば、ここまま立ち去る方が良いと思ったのだろう。
「ふわぁーー、んーー。今、誰かと喋ってた?」
話し声が大きかったのかまだ交代の時間でもないのに、ベリーが起きて来た。
「いや、誰もいなかった。ただ、迷っている狼が1匹迷い込んで来ただけ」
「えぇ!?オオカミ!?それ結構レアケースじゃない?」
俺の言葉をそのまま鵜呑みにするベリー。
今は勘違いしているけど、後でしっかり説明することにしよう。
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