表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/40

現れた追手

お読みいただき、ありがとうございます!

 うららかな午後の陽射しが差し込む森に、獣の断末魔が立て続けにこだまする。

 程なくして、零仁の足元には赤い目をした狼の死骸が二つ並んでいた。間道を避けた森の中で、襲ってきたところを返り討ちにしたのだった。

 ちなみに新治曰く、獣と魔物の区別は目の色でつけるらしい。大気中に漂っている魔力(マナ)を大量に取り込んだ獣は目が赤く染まり、人を襲うようになるのだそうだ。


(さて、と……)


 宍戸から掠め取った短剣を鞘に納めて屈みこむと、死骸の片方にゆっくりと右手を当てる。念じても先ほどの光景をイメージしても、【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】が発動する気配はない。


(やっぱり出ねえかあ。もうちょい試したいこともあるけど一旦、条件は確定っぽいな)


 狼たちにとどめを刺した時、宍戸や本橋の時に見えた”灰”がまったく見えなかった。先ほど嫌がる新治に試したが、やはり発動しない。

 これらの結果から、『【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】は”死にかけ”の”転移者”でないと発動しない』と考えてよさそうだった。


(発動条件はいいとしても……。やっぱりまだ分からねえことだらけだな。痛みがなくなってるのも謎だし)


 今朝がた宍戸にしこたま蹴たぐられた部分は、すでに痛みがなくなっていた。骨が何本か折れたと思うほどの激痛だったが、腫れにも痣にもなっていない。

 しかも朝からほとんど飲まず食わずなのに空腹感がないどころか、体力や気力が充実している感すらある。


(身体もやたら軽い気がする。この狼って魔物だよな。こんなにあっさり狩れるもんなのか……?)


 なおも考えていると、後ろの茂みががさごそと鳴った。

 ひょっこり顔を出したのは言わずもがな、新治だ。狼が現れた瞬間、自分だけさっさと茂みに逃げ込むあたり、変なところですばしっこい。


「ねえ、もう行こうよお……。早くしないと、また追手が来ちゃう」


 新治の【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】は、転移者が近づくと脳裏にレーダーのようなものが表示されるらしい。こう言っているならば、少なくとも周辺には追手がいないと思っていいだろう。


「そう急かすなよ。いざって時に能力(スキル)が使えねえと、色々困るだろ」


 言いながら、狼たちの死骸を茂みの中に放り込む。

 食糧事情を考えれば、なんとかして持っていきたいところだった。だが獣を捌いたこともなければ、干し肉にする手段もない。そも、魔物と化した獣の肉を食べていいかも分からない。

 後ろ髪を引かれる思いで歩き出すと、重そうなスクールバッグを肩にかけた新治がとてとてとついてくる。


「何事もないに越したことはないでしょ? それに今の祓川くん、下手な転移者の人よりよっぽど強そうだし」


「やっぱりそう思うか? さっきから身体が軽いんだよ」


「今、狼と戦うところ見てたけど……本橋くんと戦った時より動きが速くなってた、気がする」


「動体視力もお察しの新治さんが見てそうなら、間違いないっすなあ」


「うう……。我ながら否定できないのが悲しい……」


 軽口を叩きつつ、新治の感想を反芻する。

 本橋と戦った時より、ということは、宍戸戦と比べても良かったことになる。二つの状況における差異は【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】の発動回数と、奪った能力(スキル)の数だ。


(どっちにせよ、身体強化が累積してるのは間違いなさそうだな。こいつは面白くなってきた……!)


 口の端に笑みを浮かべて歩いていると、行く手に小さな木こり小屋が見えた。

 小屋の中に入ると、中には誰もいない。こうした休憩に使える作業小屋が点在しているのも、敢えて森の中を歩く理由のひとつである。


「ふぃ~、朝からだいぶ歩いたねえ。今、どのあたりかな……」


 歩き通しで疲れたのか、新治はさっさと腰を下ろして地図を眺め始めた。

 大して疲れていない零仁が、小屋の窓から外の様子を伺っていると――。


「……ひっ⁉」


 新治の甲高い悲鳴が聞こえた。

 こめかみに指を添えているのは、脳裏の【星眼の巫女(ステラ・シーカー)】を見ている証拠だ。


「どうした?」


「き、きっ、来たっ! 追手っ! しかも荒木教官がいる……!」


「……誰だ、それ?」


 緊迫した新治の声とは対照的な、あっけらかんとした声が出る。


「バルサザールさんのところで、転移者向けの戦闘訓練をやってる人なの。【強迫の縛鎖(デュレス・バインド)】って能力(スキル)を持ってて、目を合わせた相手の動きを止めちゃうんだ。昨日の能力(スキル)実演、それで棒立ちになったところをタコ殴りにされてた人、何人もいたよ……」


「厄介だな。他は?」


「待って……【音速剣刃(ソニック・スラッシュ)】と、【騎乗の極意(ライド・マスター)】! 貴船(きふね)君と鐙谷(あぶみや)さんだ! あとはうっすらとした反応が二つ。こっちは普通の兵士かな」


 貴船(きふね)将也(まさや)は、スクールカーストだと上位勢だ。獰猛な顔つきで、零仁がいまいち苦手なタイプだった。それでも剣道部に所属しているということもあり、女子には結構人気がある。

 鐙谷(あぶみや)瑤子(ようこ)はカースト中位勢だが、その中ではまあまあ目立っている女子だった。顔は可もなく不可もなくといったところだが、実家が結構な資産家で、乗馬クラブに通っていると聞いたことがある。


「来やがったか……! 能力(スキル)の性能は?」


「貴船君の【音速剣刃(ソニック・スラッシュ)】は剣から衝撃波を出せる、中位級(ミドル・クラス)能力(スキル)だよ。二人の反応が重なってるから、能力(スキル)で馬に乗れる鐙谷さんと相乗りしてるんだと思う……」


「全員、騎馬な上に遠当て役までいるのか。やる気満々だな」


「どうしよう、いきなりこんな人数が来るなんて……。小屋(ここ)にいればやり過ごせるかな?」


「こういう小屋がたくさんあるのは、向こうだって分かってるはずだ。いの一番で探すだろうな」


「じゃ、じゃあこのまま森の中を逃げるのは?」


「さっき地図見たけど、この先ずっと森ってわけでもないだろ。森が切れたところで見つかったら、どのみち同じだ」


「そ、そうだけどぉ~……」


 新治の泣きそうな顔を尻目に見ながら、手番を考える。

 敵が五人に対して、味方は二人。新治は戦闘だと役立たずなので、一人で全員を仕留めるしかない。


(そうだ、()るしかねえ。使える手札(スキル)は、ふたつか)


影潜り(シャドウ・ダイバー)】は、物体の影に潜り込める能力(スキル)だ。すぐ近くにある影なら、乗り移ることもできる。新治曰く上位級(ハイクラス)だそうで、なかなか有用な能力(スキル)と言える。

目眩の閃光(デイズ・フラッシュ)】は強烈な閃光を放つ能力(スキル)、と言えば聞こえはいいが、要するにただの目くらましである。下位級(ロウクラス)というだけあって微妙な効果だが、有効範囲が広いのがせめてもの救いだろうか。


(荒木と貴船を速攻で潰したいから、不意打ちは確定だ。でも片方を()っても、もう片方に()られる。仮に二人いっぺんに()れても、鐙谷や他の雑魚に新治を連れ去られたらダメなわけで……ん?)


 ひとつ、見落としていた。【遺灰喰らい(アッシズ・イーター)】は、転移者の能力(スキル)を喰らえる能力(スキル)である、ということを。

 ――すなわち手札は、戦いの中でも増やせる。


(これは……いけるっ! いけるぞっ!)


 ひとつひとつの要素が、頭の中で手番として組み上がっていく。

 その興奮で、口の端がつり上がりそうになった時。


「……ねえ。ちょっといい? 考えがあるんだけど」


 視界の外から呼ばれて、ふと我に返る。

 見れば新治が、覚悟を決めた表情で零仁を見ていた。


「奇遇だな……俺もだよ」


 応じて微笑んだ新治の顔は、何故だか同じことを考えている気がした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ