表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
PR
70/76

せめぎ合い、凌ぎ合い

驚く事に休む事無く、カウント3で立ち上がろうとする蛮。

しかし足が言う事をきかず、再びその場に倒れ込んでしまう。その動きは深夜の繁華街で目にする、前後不覚となった酔っぱらいのようである。

羞恥と怒りを露にした蛮。

しかしその怒りは鳥居への物では無く、思うようにならぬ自らの肉体に向けられた物だった。


(どしたよっ!?動けっ!動かんかいっ!!

これくらい大した事ちゃうやろっ!?

ずっと一緒にやってきたやないか!!

あと10分、たかだか10分や、、、もう少しだけ俺に付き合ってくれやっ!!)


祈りにも似た想いを込め、己の足をバンバンと叩く。

そしてカウントが8を数えた時、ロープを掴みながらではあるが、かろうじて立ち上がる事が出来た。


(せや、それでええんや)

立ち上がって尚も自らの足へと語り掛けた蛮。

やがて鳥居へと怖い笑顔を向けると


「おまたせ」

そう一声掛けて見せた。


試合開始から20分が経過し、蛮がラリアットとジャーマンで、そして鳥居がバックブローと(さか)回し蹴りでと、それぞれが2度のダウンを奪っている。

これにより互いの持ちポイントは3対3のイーブン、、、しかし開始前、例の毒霧を吹く行為により蛮はイエローカードを受けている。

仮にこのまま同ポイントで試合終了を迎えたならば、この警告ポイントが差となり鳥居の判定勝ちという事になる。


とは言え双方、そんな結末など当然望んではいない。

残り10分足らず、ギリギリまでKOもしくはギブアップ勝ちを狙うつもりで構えに入る。

そんな両者の心情を読み取ったのか、レフリー新木が神妙な面持ちで2人の顔を交互に見る。

そして1つ頷くと、意を決してその手を降り下ろした。

「ファイッ!!」


アップライトに構えた鳥居が、身体を揺らしながら蛮のダメージを値踏みする。


顔、、、無表情。表情からそのダメージは読み取れない。しかし逆に言うならば、痛みも感情も表に出すはずのプロレスラーが平静を装おっている、、、それだけダメージが残っているという風にも取る事は出来る。


肩、、、特に上下はしている様子は無く、既に息は整っているらしい。


胸、、、2枚の分厚い大胸筋、その間の深い溝を汗の玉が転がっている。それを見ながら鳥居は、ガーターを転がるボーリングの球を連想していた。


腹、、、規則正しく上下している。やはり呼吸の乱れは無いようだ。

息を吐いた時だけに現れる「板チョコ」の様な6パックは、脂肪でコーディングされたその下地に、筋肉が岩の様に潜伏している事を物語っている。


大腿、、、細かい震えを伴っており、隠しきれないその反応は、未だ先のダメージが残る事を意味している。


膝、、、大腿と同じく細かく震え、歩を進める度に頼り無く横へとぶれている。


足首、、、距離を詰めようと前には出るが、爪先が十分に上がっておらず、今にも(もつ)れそうで危なっかしい、、、やはり脳からの伝達機能は回復していない。

そう確信した鳥居は、構えをアップライトから又もヒットマンスタイルに変更する。

そして軽やかなステップで、ヒラヒラと蛮の周囲を跳ね回った。

今の蛮ではフットワークについてこれないと判断したのだ。

対する蛮、苛立ちも露に舌を打ち鳴らす。


(チッ!クソッタレ、、、このまま逃げ切れる思たら大間違いやで、、、)


赤子のように頼り無い立ち姿の蛮が、ここで驚きの行動に出た。

頭部を包んでいた防波堤、、、その逞しき左腕を、突然ダラリと垂れさせたのだ。

そして軽く腰を折り、顔を前へと突き出した。

そこには挑発に充ちた笑顔が張り付いている。


(!?、、、誘っとるんか?でもな、そんな手には乗らんで)

冷静な判断を下した鳥居が、距離を保ったまま時折左右のローを走らせる。

徹底して機動力を奪うつもりらしい。

足を十分に上げられない蛮は、脛でガードする事が出来ない。

足の角度を変えて受ける事で辛うじて致命傷は免れているが、このままでは倒れるのは時間の問題である。


(まずいのぅ、、、)

蹴りを受ける度、蛮の表情に苦悶と焦りが見え隠れする。

自ら追う事が出来ない蛮からすれば、鳥居自ら飛び込んで来て貰うしか捕らえる術は無い。

それを狙ってリスキーなノーガード戦法に出たのだが、こうも冷静に対処されてしまうと、足の伝達機能が回復する前にローキックのダメージが蓄積されてしまう。

事実、蛮の大腿は全面的に赤黒く変色し始めていた。

(ほんま、、、まずいのぅ、、、)


蛮がちらりと掲示板の時計に目をやる。

再開後のストレス溜まるこの展開は4分も続いていたらしく、残り時間は6分を切っていた。

だが、視線を鳥居から外したのはまずかった、、、鳥居がそんな大きな隙を見逃す訳も無く、先までの様子見で放っていたローキックとは違い、深く踏み込んで打ち下ろす様なローキックを打ち込んだ。


通称「折るロー」と呼ばれる物である。

水平に蹴るローと違い、上から下へと打ち下ろされるそれは力の逃げ場が無く、威力はそのままそこへと留まる。その為ダメージは段違いである。


一瞬腰の落ちた蛮だが、ここでダウンを重ねると逆転はもう絶望的となってしまう、、、血が出る程に歯を喰い縛ると必死にそれを堪えた。

しかしそこへ鳥居の第二波が襲う。

がら空きで晒された腹部へと、槍の様な前蹴りが突き刺さった。

これも距離を保つ為の突き放す前蹴りとは別物、、、倒す為の前蹴りである。

臍と下腹部の間、腸の部分を狙ったえげつない前蹴り、これは鳩尾(みぞおち)に受けた時など比べ物にならない程の苦悶に襲われる。


ロープまで吹き飛ばされた蛮。

胃の内容物が口内まで込み上げる。

危うく吐瀉物を撒き散らしそうになるが、頬を膨らませ必死にそれを飲み込んだ。

勝機と見た鳥居が、ロープへと吹き飛んだ蛮を更に追う!

その体勢は右拳を肩口に引いており、渾身の右ストレートを狙っているのは誰の目にも明らかだった。

勝利を確信し決めにかかった鳥居、らしくない物騒な台詞を吐きながら、その拳を蛮の顔面へと走らせた。


「往生せぇやっ!」


それをクスリと嗤った蛮。


「しねぇよバ~カ」

呟くと、背に触れたロープの反動に身を委せ、その勢いを利用して前に出る。

奇しくもそれは、プロレスのロープワークの形となっていた。

そして頭部を右へ振って鳥居のパンチをやり過ごすと、同時にカウンターの技を繰り出した!


ガードを解き、ダメージを上塗りするリスクを背負ってまで待ったこの瞬間、、、

ようやく訪れた反撃の時、、、

時間的にも体力的にもこれが最後のチャンスである。

そしてその最大最後のチャンスに繰り出した技は、彼が最も信頼をおきフィニッシュブローと心に決めていたあの技、、、ラリアットであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ