首枷(くびかせ)
鳥居の視界で、1度は近付いた天井が今度は遠ざかって行く。
後頭部から落下する中、不思議な程に時間の流れはゆっくりと感じた。
そしてその ゆるりと流れる時の中で、鳥居は反撃に打って出たのだった。
その動きを見た大作が、思わず感嘆の声を上げる。
「ウオッホ~♪やるなぁ鳥やん!」
「アイツ、自分でプロレスファンやて言うてたからな。そのお陰でプロレスの定番を再現出来たんやと思う」
またも飛び出した崇の解説。
そこへ優子が疑問を投げ掛けた。
「プロレスの定番?」
「ん?あぁそっか、、、優ちゃんはプロレス全然知らんのやったな、、、今、蛮が出した技、あれはパワーボムって言うんやけどな、あれはプロレスの試合中、ある技で返される事が多いんよ」
「ある技、、、それが今のやつ?」
「そう。今、鳥やんが見せた技、、、フランケンシュタイナーや」
(フランケンシュタイナー)
1992年、開発者スコット・スタイナーにより日本で公開され、広く知れ渡ったプロレス技。
本来の使い方としては、相手に対しドロップキックの様な形で跳ね上がり、両足で相手の頭部を挟み込んでそのままバク宙の様に回転する。
そうして巻き込んだ相手の頭部をマットへと叩きつけるのだが、最近では鳥居が用いた様に、パワーボムやパイルドライバーへのカウンターとして使用される事も多い。
日本人の使い手としては、武藤敬司などが有名である。
「へぇ、フランケンシュタイナーか。怪物の名前に似てるから覚えやすいね♪ありがと解答者さん」
満足そうにリング上へと目を戻した優子。
するとそこでは、更なる鳥居の攻めが蛮を追い込んでいた。
鳥居はフランケンシュタイナーで叩きつけると、そのまま蛮の左腕を掴み、両足でそれごと蛮の頭部を挟み込んだ。
パッと見では首四の字固めに似ているが、腕も一緒に挟み込んでいる分、どちらかと言うと変型の三角締めに近い。
形としては、胡座をかいた鳥居の足の輪の中に、蛮の首から上が挟み込まれている、そう言えば解りやすいか、、、
そうして獲物に絡み付いた大蛇の如く、鳥居の足がギリギリと締め付け始める。
場所はコーナーに近く、直ぐに逃げれそうにも見えるが、実際は蛮にとって地獄とも言える位置関係にあった。
鳥居はコーナーを背にする形、それもコーナーから伸びる両ロープの丁度中間45度の付近で技を極めている。
当然、蛮は頭上のコーナー方向へは逃げられない。
ならば手で直ぐ横に見えるロープを掴めば、、、と言いたいところだが、左腕は鳥居の足の輪の中。そして右腕は、、、障害の為に動きはしない。
では足ならどうだ?
言うまでも無いが、ロープというのはコーナーポストから別のコーナーポストへと伸びている。
つまりコーナーポストを頭上にする形で捕らえられた蛮の位置では、足の方向に行く程ロープは広がりを見せて遠くなる。
しかも丁度中間付近とあらば、左右どちらに逃げるにせよ、それなりの距離を移動しなくてはならない。
通常の三角締めの様に下から仕掛けられたならば、それはそんなに難しい事では無いが、この技はそうでは無い。
右腕でバランスを取りながら座した鳥居。
その足の輪の中に、仰向けの状態で捕らえられたのだ。
それも首の下に足が入り込んで抑えつけている為、逃げようにも思うように身体を捻る事すら出来ない。
そして、、、獲物を呑む段階に入った大蛇が、その獲物へと無慈悲に話しかける。
「アンタ等プロレスラーは本当凄ぇと思う。
ずば抜けたパワーと一撃必殺の投げ技、、、その上に打撃と寝技もこなす。
でもな、それこそがプロレスラーの弱点でもあるんや。格闘家になってみてそれがよう判った。アンタ等は何でもそつ無くこなすけど、どれも中途半端や、、、
打撃で空手家やキックボクサーには勝たれへん。
寝技もサンビストや柔術家には敵わへん。
どっちつかずのコウモリみたいな格闘家、それがアンタ等プロレスラーや。
俺はプロレスラーや無いんでな、場を盛り上げる為の駆け引きもせんし、わざと技を受ける事も無い、、、勝てる時にはきっちり勝つ。
だから悪いけど、このまま勝負決めさせて貰うでっ!!」
そう言った鳥居の足の中、蛮の顔がみるみる赤く染まってゆく。
それは技によるものなのか、それとも鳥居の言葉への怒りによるものなのか、、、




