ワンハンド
「何でもあり」
プロレスこそがそう言われるべき格闘技なのかもしれない。
現在、最も「何でもあり」に近いと言われるバーリ・トゥードだが、基本的には素手でのタイマンであり、創成期に比べれば禁止事項もかなり増えている。
ではプロレスはどうだ?
時に凶器の使用が黙認され、時に多人数を相手にする。
ロープやコーナーポストを使うのも、路上に置き換えるならば電柱やガードレールに相手をぶつけるのと同じであり、立派な環境利用闘法と言える。
以上の事からも、いつ・誰と闘うかが決まっているという点を除けば最も喧嘩に近く、本当の意味で「何でもあり」の称号を獲るべき格闘技なのでは、、、そう思わざるを得ない。
そこに筋書きがあるかどうかは知らないし、大した問題ですら無い。
問題なのは、そこには確かに痛みと危険があり、その恐怖心の中で年間300日近くもの試合をこなすプロレスラーとはやはり怪物だという事である。
そんな独自の発展を遂げて来たプロレス、、、
トップロープに登るのも、ロープに走るのもプロレスだからこそ、、、しかし鳥居はそこに手を出してしまった。
プロレスのみが手にした免罪符、それに手をつけてしまったのである。
そして今、そんな鳥居に天罰が下ろうとしていた。
ロープワークの途中で足を止めた蛮が、そうとは知らず目の前を横切った鳥居の左手首を掴みその動きを止めた、、、そう。ついに捕らえたのである。
「つ~かま~えたっ♪」
もしライオンがシマウマを捕らえた時に嗤う事が出来たなら、この時の蛮の様に嗤うのだろうか、、、
いや、ライオンは喰らう為だけに狩りをする生き物、獲物を弄び虐殺を楽しんだりはしない。
そういう意味では鼠を捕らえた猫、、、
そう例えた方が正しいのかもしれない。
ようやく捕まえた獲物をこれからどうしてやろうか、、、圧倒的優位に立ち、舌舐めずりをする蛮。
捕らえられた側の鳥居、振りほどこうにも掴まれたのは動かぬ左腕。
ならば、、、と、右でのパンチを奮うが至近距離の上に手打ちとなってしまい、当たりはしたものの蛮からすれば、そよ風に吹かれた程にしか感じない。
「じたばたしなや、、、」
そう言うと蛮は、破城槌の如き膝を鳥居の腹へと突き刺した。
序盤に見せた鳥居の膝蹴りがマシンガンならば、蛮のそれはバズーカである。
(俺の打撃に連打は必要無い)
そう言っているかの様な一撃であった。
「カハッ!、、、」
太い息を吐いた鳥居が前屈みとなる。
しかしこれは真の恐怖への序章、、、
先の膝はダウンを奪うに十分な物であったが、蛮は倒れる事を許さない。
膝を着きそうなのを無理矢理に引き摺り起こすと、前屈みとなっている鳥居の胴に、上からがぶる様にして左腕を巻き付けた。
圧巻なのはここからである。
「フンヌッ!!」
腰を落とし鼻を膨らませた蛮は気を込めると、驚いた事に左腕1本でそのまま頭上へ高々と持ち上げたのである。
振り子の様に天へと向かう鳥居、その目に天井のライトが眩しく映る。
この体勢、、、蛮の狙っている技は、誰の目にも明らかだった。
そう、パワーボムである。
午前中に行われた工藤vs浦上の試合。
そこでも工藤が見せた技だが、あの試合は下半身に障害を持つ者同士の、膝立ちで行われた試合であり、その高低差はせいぜい1mと少し。
だが今、蛮が見せているそれは明らかに高さが違う。
185cm程の蛮が、立った状態で頭上へと振り上げたのだ、その高さは2mをゆうに超える。
更に言うならば、格闘技のリングはプロレスのそれよりも遥かに硬い。
プロレスは頭を叩きつけ合うという競技の性質上、マットの下にはスプリングマットやクッションとなる素材を多く敷いてある。
しかし格闘技のリングにはそれが無い。
そんな所へ2mを超える高さから後頭部を叩きつけられたなら、、、答えは簡単である。
ただただ、ひとたまりも無い。
顔を赤くし血管を浮き上がらせた蛮、鳥居を頂点まで振り上げると一言。
「往生しぃやっ!!」
そう言って、鳥居に絡ませたその太き左腕を、今度は下方へと降り下ろした。




