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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
46/76

対照

藤井の試合を含めて残り4試合となったラグナロクの総合格闘技。

朝から始まったイベントだが早くも夕刻を迎え、階下で行われていた「型」の試合など、参加選手の少なかった一部の競技は既に全試合を終えている。

その為、試合を終えた選手達が集まっており、会場内は()せる程の熱で溢れていた。


そんな中で始まる藤井と山岡の再戦。

(士、別れて三日なれば刮目して相待すべし)

そんな言葉があるが、前回の闘いから半年以上が経ち、その期間どちらがより成長したか、、、

それを問われる、まさにこの言葉の如く刮目すべき試合と言える。


前回、藤井が勝利しているという理由から、山岡が青コーナーで先の入場となった。

空手着を着用しセコンド2人を引き連れる様にして、先頭で入場してきた山岡。

アップのし過ぎか、それとも興奮からか、、、既に汗ばみ、赤みがかったその顔は少々気負い過ぎの印象を受ける。

短い腕を軽く振りながらシャドーをして歩くその様子は、首を振りながらパドックを歩く競走馬を連想させた。


リング下で1度足を止め、鋭い呼気と共に十字を切ると、一気にリングへと駆け上がった山岡。

リング中央で一礼をし自陣である青コーナーにおさまると、着ていた空手着を徐に脱ぎ始めた。

するとそこに現れたのは、半年前とは比べ物にならない肉体だった。

あの時は少し肉がついたパワー重視の、悪く言えば鈍重な印象であった。

しかし今、皆が目にしているのは余分な肉は見事に削ぎ落とされ、シャープに造り変えられた肉体である。

小人症の為に手足は極端に短く、身長も128cmと低い。

そして肉体改造で細くなったはずではあるが、誇らしげに己の肉体を晒す山岡は、実際よりも大きく見えた。

コーナーやロープに凭れるでも無く、腰の位置に握った正拳を添えたまま、目を閉じ直立不動で藤井を待つ。


すると先頭に立って入場して来た山岡とは対照的に、最後尾で入場してきた藤井。

先頭は高梨、次いで吉川、そして藤井の順である。

そしてその(さま)も山岡とは対照的であった。

軽くシャドーをこなしていた山岡とは違い、ただただ静かに歩みを進めている。

歓声を送る者達に目もくれず、その視線すらもただただ前だけを見つめていた。

まるで無人の野を往くが如くである。


リング下でも1度手を合わせたのみであり、最後まで穏やかな佇まいで入場を終えた。

リング上で山岡と同じく一礼をし、赤コーナーで羽織っていたベンチコートを脱ぐと、これまた静かに吉川へと手渡した。

半年前と比べ身長は変わらず145cmだが、少し筋肉がついたお陰で体重は2kg程増えている。


藤井はチラリと山岡へ視線を走らせたが、山岡は未だ目を閉じており、ここで両者の目が合う事は無かった。

選手紹介の際も山岡は不動で目を閉じたまま、、、入場時の猛々しさがどこかへ消えてしまった様ですらある。


両者のコールが終わり、レフリーが2人を中央へと呼び寄せる。

レフリーを務めるのも、前回2人の試合を裁いた新木である。

ここでようやく目を開いた山岡。

初めて両者の視線が交わった。

封じられた釜戸の扉が開かれたかの様に、圧縮されていた炎の如き視線をぶつける山岡。

しかし動じる事も無く、藤井は冷静にそれを受け流している。

炎と氷、、、そう形容しても良い光景であった。


前回の雪辱に燃え、己を鍛え上げて来た山岡。

周囲に流されず、己のペースで着実に成長を遂げて来た藤井。

あくまで対照的な両者の闘いがついに始まる。

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