その人物、不遇につき、、、
島上の行動により起こったどよめき、、、
ただしそれは必ずしも感嘆の類いという訳では無かった。
「それはアカンやろっ!!」
「反則ならんのかいやっ!!」
「ずっこいぞっ!!」
等々、非難の声が飛び交い始め、観客の殆どが島上の行動に否定的だというのが判る。
しかしこの島上という女性、浮かれた印象の外見とは違い、なかなかに肝が太い様子、、、
関西特有のキツい野次が飛ぶ中でも、涼しい顔で、、、いやむしろ楽しんでいる様な笑顔を浮かべ、その行動を続けている。
レフリーの三島は迷っていた。
確かにこれは審議する案件かもしれない、、、
どうすべきか、、、と。
そんな三島を悩ませ、観客を敵に回した島上の挙動、それは試合再開と同時に突然リングへと座したのであった。
そしてその体勢のまま
ジリジリと、、、
ヒタヒタと、、、
少しずつ花山との距離を詰め始めた。
まさに「にじり寄る」という表現がしっくり来る、、、
いわゆる「猪木vsアリ」状態のリング上には先にも増してドぎつい野次が飛んでいる。
それはもう怒号にも近い物となっていた。
かつて「世紀の凡戦」と揶揄された
アントニオ猪木vsモハメド・アリ。
終始リングに横たわり、ひたすらにアリの脚を蹴り続けた猪木。それを世間は容赦無く批判した。
しかしである。
あの時の猪木は、プロレス技の殆どを封じる形であるアリ陣営の要求を全て飲み、唯一残された手段である
「横たわった状態、もしくは膝立ち時での足払いは有効」
にすがった結果、ああいう闘い方となった。
その事を知った上で目の肥えた格闘技ファンが見たならば、あの試合はまさに息詰まる激闘であり、緊張感漂う「世紀の熱戦」だったのだ。
しかし今、リング上の島上はあの時の猪木とは真逆の立場である、、、
ラグナロクにおける総合格闘技ルールでは、寝技状態での打撃、及び、座位・膝立ち状態の相手への打撃を禁じている。
つまり島上はこの行為によって花山の武器を封じ、寝技しか使えない状況へと追い込んだのだ。
その事が判ったからこそ観客は怒号を放ったのである。
花山が寝技を一切使わない、、、
その拘りの事など観客は勿論、島上も知りはしない。
島上はただ純粋に己の土俵に上げようとこの動きを選び、観客はただ純粋に反則すれすれのこの行為へ拒否反応を示したのである。
そしてその拒否反応はついにレフリーの三島にも向けられ始める、、、
「ずっと倒れとるんやからダウン取れやっ!!」
「しっかりせぇっ!ヘボレフリーッ!!」
そんな中、にじり寄られた花山がついにコーナーへと追い詰められた。
同じく精神的に追い詰められたレフリー三島が、救いを求める様に本部席へと視線を投げる。しかし、、、
そこに崇の姿は無く、それどころか大作までもが席を外していた。
三島の目に入ったのは、困り顔で手を振る優子の姿だけである。
先の松井vs鈴鳴といい、自分の裁く試合は何故にこうも荒れるのか、、、
三島は心で泣きながらこう呟いていた
「僕ぁ、、なんてついてないんだ、、、」




