両極
崇と吉川は会場隅からリング上を見つめていた。
打撃に特化した闘い方をするという花山 香織、、、その闘法が、同じく打撃のセンスが光る吉川の今後に役立つと言う、朝倉の進言を聞き入れた形だ。
そういう事ならばと、吉川に負けない打撃センスの持ち主である藤井も誘ったのだが
「ワルキューレファイト終わったら直ぐに出番だし、そこまで打撃に拘りも無いしさ、、、僕はいいから2人で観といでよ」
と、敢えなくフラれてしまった。
だが崇も吉川も解っていた。
藤井が子供なりに気を使ったのだという事を。
リング上には既に両選手が出揃っている。
有田道場の島上貴美子
烏合衆の花山香織。
両者これが総合格闘技デビューだが、共に柔道とシュートボクシングというバックボーンがあり、その雰囲気はかつて昭和の時代、一世を風靡した異種格闘技戦さながらの様相を呈している。
青コーナーの島上は年齢27歳、身長155cm体重60kg。年齢の割りにキャリアは浅く、社会に出てから始めた為にまだ3年である。
柔道家にありがちな巨体という訳では無く、筋肉質で均整の取れた肉体をしている。
しかし、観衆の目を集めたのはそこでは無かった。
明らかに判る異質な点が1つ、、、
その左目を塞ぐ眼帯である。
柔道の試合は打撃を受ける心配が無い為、義眼を装着したまま試合に挑むのだが、今回は総合格闘技の為、義眼を外して眼帯でそこを塞いだのだ。
近年ではガーゼの様な素材の貼るタイプが一般的だが、彼女が装着しているのは海賊が着けているイメージがある、昔ながらのそれである。
しかもピンクでハート形、、、
試合用コスチュームのブラトップとショートレギンスも全てがピンク、、、
童顔も手伝って、その姿はアニメキャラのコスプレの様ですらある。
対する赤コーナーの花山。
年齢は23歳と若いが、高校時代からシュートボクシングを始めた為、キャリアは7年と長い。
身長158cm体重57kg。
シュートボクサー時代は50キロ代前半でやっていたが、総合格闘技で闘うという事で5kg近く増量している。
しかし勿論、ただ増量した訳では無く、ブラトップとレギンスの間から覗く腹筋は、板チョコの様で見事に分割されていた。
静かな闘志を感じさせる涼しい目付きと、真一文字に固く結ばれた口元。
ショートカットの髪を更に後ろで束ねており、コスチュームも全て黒づくめ。
島上に反してこちらは全く女を感じさせない。
女性に対して使う比喩として相応しく無いかも知れないが、その風貌や佇まいはどこか野武士を想わせる。
そんな両極端の2人がリング中央に歩み寄り、再びレフリーを務める三島から簡単なルールの確認を受けている。
ニコニコとしながら花山をじっと見つめる島上に対し、意外にも俯いたままで1度も視線を合わせようとしない花山。
だが、、、崇は見ていた。
深く俯いたその顔が獰猛に嗤っていたのを、、、




