表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
34/76

ロープ・ア・ドープ

ロープを背にした吉川へと、保科の容赦無い連打が雨霰の様に襲いかかるっ!

ガードの上からでもお構い無し、、、ガードごとへし折らんばかりに渾身のパンチを打ち込んで行く。


「足使って回れっ!!」

崇の声が響くが、保科もそんな事は百も承知である。左右のフックを放ち、横への逃げ道を塞ぐ。

レフリーの朝倉は迷っていた。

スタンディングダウンを取るべきか、、、と。

しかしダメージを受ける様な決定打は入っておらず、ガードの隙間から時折覗く吉川の目は、未だ力強く死んではいない。


(どうするか、、、)

朝倉が決めかねていると、突然保科の動きがガクンと落ちた。

連打の回転は著しく鈍り、その顎は溺れし者の様に上がっている。明らかなガス欠、、、


打撃を放つ時、人は息を吐く。

つまり連打を重ねる程、大量の酸素を消費するのだ。まして保科の身体は太く重い。

完全に速筋の持ち主であり、有酸素運動には向いていない。

スタミナ切れによる疲労の度合いが窺い知れる。


それでも息を弾ませながら右のストレートを放った保科。

しかしそれはスピードも威力も、明らかに先程までのそれでは無かった。

吉川はこの時を待っていた。

ロープに身を預け、その弾力を利用する事で打撃の威力を殺し、貝の様に身を縮めながら機を窺っていたのだ。

それはモハメド・アリがジョージ・フォアマン戦で見せた防御テクニック「ロープ・ア・ドープ」、、、これは危険な賭けとも言える技法だが、吉川もアリと同じく、その賭けに勝ったのだ。


ヘロヘロと迫り来る拳をスウェーで見切った吉川。そして背にしたロープの反動を利用し、伸びきった右ストレートを一気に潜った。

カウンターのタックル。

保科も一応は反応し、そこへ膝蹴りを合わせようとするが、疲労から脳での反応と肉体の動きの連動が狂っている。

膝を突き出した時にはもう、吉川に懐への侵入を許していた。


踏ん張る事すら出来ず、されるがままに倒された保科。

そこへ吉川が横四方固めに入り、直ぐさま縦四方固めへと移行した。

吉川の上半身が保科の顔を塞ぎ、呼吸を妨げる。

スタミナ切れの保科はたまった物では無い、我慢しきれず即座にロープへと手を伸ばした。


「エスケープッ!」

アナウンスが響き、2つ目のポイントを奪った吉川がそそくさと立ち上がる。

対する保科は、肩を上下させてなかなか立ち上がる事が出来ない、、、

すると吉川が保科の眼前にしゃがみ込み、こんな事を口にした。


「アンタ、、、私の事、嫌いだって言うたよな?ならチャッチャと立って、私をブチのめしてみなっ!!」


この言葉に保科の顔色が変わった。

血が出んばかりに唇を噛み、眉間には深い皺を何本も刻んでいる。

そしてその鬼の形相のまま、雄叫びにも似た声を上げると、渾身の力で一気に立ち上がった。

それを見届けた吉川も再び立ち上がり、笑顔を向けながらこう呟いた。

「そう。それでいい」


そしてレフリーの朝倉は又も迷っていた。

私語を謹む気の無い吉川にイエローカードを呈示するべきかを、、、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ