第九話:『王都の祭り』
国の中心である王都セイジュールは、大きな港をもっている。
南方との交易の中心であり、多くの物資が集まる。それに従事する人や、他国人など多種多様な職種と人種が行き交う。
そんな王都では、年に四回、祭りが行われる。
『四季祭』と呼ばれるそれは、名前の通り季節ごとに行われる。最もにぎわうのは、春の『百花祭』と秋の『豊穣祭』だ。それぞれに特色があり、春と秋はその名の通りだが、夏と冬は芸術色が強い。
夏の『光飾祭』は、宝石加工や彫刻、絵画など。
冬の『染縫祭』は、織物や染め物、刺繍など。
その為、夏と冬は市民よりも商人などが多く、熱心に交渉をしている。
五日間にわたって行われる祭りに合わせてか、士官学校はその間休養日となっている。…貴族への配慮なのかはわからないが、みっちり詰め込まれた授業の合間の癒しなので、有難く満喫する。
祭りは夏休み中にあるので、成績上位者はとうに満喫しているのだが。
「休みっ!」
「自業自得の日々」
「ひどっ」
喜ぶセラに、冷たいアイカの一言が突き刺さる。この上ない事実だが。
二人の服装は、数少ない私服である。
淡いオレンジ色のワンピースの裾を翻すセラに対して、アイカは白いシャツに黒いズボン姿だ。
士官学校の制服が白いシャツに黒の上下なので、上着を脱いだだけのようにしか見えない。
一応、女子制服はスカートもあるのだが、アイカはズボンをはいている。アイカ以外の女子はスカートだ。
「もうちょっとこう…」
「セラだっておしゃれにはさほど興味ないんでしょ?」
「まぁねぇ…。コレ、お姉ちゃんからのプレゼントだし」
「私もね、持たせてくれたんだけど、今までが今までだからなんか、ねぇ」
庶民に貴族が着る高級素材の衣服は、ないなら憧れるがあれば怖い。汚したら、と思うと普段着にできないのだ。まして、人が多い祭りの日なんてもってのほかだ。
いくら王族と縁のある侯爵家令嬢といえど、二年ほど前までアイカは一般庶民だったのだからそう思ってもおかしくない。
ちょっと遠い目をしている二人に、男子寮から出てきたアイルとコールが首をかしげる。
「どうした?」
「なんでも……というか、二人ともアイカと変わりないってどういうこと」
「「私服なんて持ってねぇよ。必要ないと思ってたし」」
「……なんなのよ、あんたらは」
無頓着すぎる三人に、セラはちょっと泣きそうになった。
セラとて無頓着で興味もないが、さすがに必要ないからと切り捨てたりしない。
これが環境による価値観の差かもしれない。
まぁ、今の状況で色々言ってもしょうがない、というかどうにもならない。
ひとまず、当初の目的通りに祭りに出かける。
フィリアとルフォルは後で合流予定だ。…王族が市井の祭りに出てもいいのかという疑問は口にしてはならない。
※※※
美術関連の店が多いとはいえ、食品や衣類を取り扱う店がないわけではない。
昼食はそう店で立ち食いもしくは歩き食いをすることになっていたが、昼前に合流したフィリアとルフォルが何とも言い難い表情をしてかなりの時間躊躇っていた。
結局食べて、何故か非常に感動していたが。
(世界が違っても焼き鳥ってあるのね…。もしかしたら、前に来た『流離れ人』が広めてたりするのかしら?)
ふとそう思ってしまうのは、およそ二年の生活の中であちらの文化に類似するものを見つけたからだ。だが、元からあったのではと思えるほど、浸透している上に違和感がない。
(着物っぽいのもあったりするし、どうなんだろ?)
服飾文化にはそれほど詳しくないので、着物に似た服飾文化がある国が存在するのかわからない。
串焼き(今は羊肉)を食べながらつらつらとアイカが考えていると、ふいにアイルとコールの雰囲気が殺気を帯びた。
ほんの数秒前まで、セラを含めて通りすがりの宝飾店とかに辛口批評(営業妨害、結構適格)をしていたのに、急に黙り込んだ。
興味津々にあちこち見ていたフィリアとルフォルも、思わず体をこわばらせる。
アイカが横目でアイルとコールを見やるが、視線に気づかないのか微動だにせず一点を見つめている。
視線を追って見やったアイカは、怪訝そうに眉を寄せる。
視線の先には、衣類の露店がある。その店を示す記号なのか、屋根にかかった大きな布には綿花と鋏が交差した図案が染め上げられている。
商家の出であるアイルなら関連がありそうだが、農家の出であるコールは関連が薄そうだ。
(そういえば、何で士官学校に来たのか詳しいことは知らないのよね)
会話の端々で、アイルもコールも跡取りという立場であることはわかっている。アイルに至っては両親を亡くしているということも。
保護者を失った場合、その財産や利権の管理は近しい親戚がするのは常識だ。ついでに、財産や利権を親戚に持っていかれるのもセットになっていたりする。…もちろん、そんな人ばかりではないが。
アイルがその典型的な状況にあることや、コールの事情までは誰も知らない。ちなみに、セラが家から逃げてきたのは知っているが、その理由までは知らない。
殺気立ってにらみつけるアイルとコールの様子に、どうしたものかとアイカが心で唸っていると、ルフォルが言葉を落とした。
「…綿花と鋏の屋号。仕立て屋ゼウズの店だな」
「知ってるの?」
「元王宮仕立て人ゼウズ=セバルトスが開いた店で、彼が亡くなるまでは王族や高位貴族からも依頼があったという名門だ」
「へぇ。ちなみに、何年前の話?」
「百年と少し。今は四代目か…」
「母さんが四代目だった」
アイカとルフォルの会話に、無感情なアイルの声が割って入る。
「今は、祖母さんの従姉弟の嫁の妹の息子が…」
『遠すぎる』
それはもはや親戚ではなく、他人だ。
思わず、アイカ達は異口同音に突っ込む。
アイルの言葉で、どういう事情があるのかは理解できた。なので、アイカ達の視線もわずかに険を帯びて向けられる。
そこで、アイカが気づいた。
「なんか、お客さん少ないわね…」
王宮で仕事をしていた人が開いた店だから腕がいいのだと自然に思ったのだが、他の衣類系の露店と客数があまり変わりない。どちらかというと、少ないように感じられる。
「…あいつらに、まともな商売ができるかよ」
(よくある展開…)
成功している本家と失敗した親戚。
親を失って傷心中の子供を踏みにじってすべてを奪っていく。
同情するより憤慨するより、アイカは呆れた。
そうやって、財産や店を奪ったところで、それに見合った腕と信頼関係がなければ意味がない。栄華はほんの一瞬だ。
現に、わずか五年で他の露店と大差なくなっている。元々、仕立て屋であるのだから既製品の販売よりもオーダーメイドの注文が多いのかもしれないが。
アイルとコールは息をついて視線を外した。
「時間とって悪い。さっさと行こうぜ」
苦笑を浮かべたアイルに、アイカ達は視線を交わしただけで何も言わない。他人が口出ししていいことでも、無遠慮に踏み込んでいいことでもないからだ。
それをしていいのは、当人が望み、手を伸ばした時だけ。
「…そうね。行きましょうか」
「確か、魔石を扱った宝飾店がこの先に出てるって。西方に拠点があるらしいんだけど、この祭りの時だけ出張してるっていう老舗」
「へぇ…。何で知ってるの?」
「上の姉がその街に嫁いでったの」
「そういえば、セラって兄弟多いのよね?」
「五人兄妹よ。兄と姉が二人ずついるわ。兄達は軍に属してる」
「…アイルとコールは? 兄弟いるのか?」
「おれは弟二人と妹一人」
「オレは一人っ子」
フィリアとセラの会話から、空気はのんびりとしたものへと変わっていった。それにほっとしたアイルとコールに、ルフォルが話を振る。
ちなみに、魔石は魔力を帯びた宝石のことで、魔力の蓄積ができるうえ、魔術師が加工することで増幅などの効果が付与できる。色は様々だが透明度が高いほど高価で、大陸の北の大山脈に鉱脈があり、ほとんどは北方から輸入されているため希少価値が高い。一応、西の小山脈に鉱脈があったが、すでにほりつくされている。
「コール以外、全員兄弟がいるってことね」
「アイカは……侯爵嫡子か」
「うん。知ってる?」
「軍役義務で国軍にいたことがあるからな。今は…東方騎士団の第三大隊長じゃないか?」
「へえ…。そんな役職だったんだ」
『おい』
顎に手を当てて首をかしげるルフォルに、感心したように相槌を打つアイカ。
前者にはよく知ってるなぁ、と感心出来た面々だが、後者に対しては思わず突っ込んだ。
リチャードとはけして仲が良いわけではない上、彼の仕事に興味を持ったりもしなかった。リチャードはアイカのことを嫌っているようだったので、アイカは面倒くさがりを発揮して自ら近づこうとはしなかったのだ。
アイカ自身は好きでも嫌いでもなく、まぁいいか、で流せる程度の感情しかない。
「軍人になったら、上司になるのよ?」
「騎士団に所属したらじゃなくて?」
「階級自体が上でしょう」
「なるほど」
所属が違えば命令や指揮を受ける理由はない(危急時を除く)が、階級が違う以上は公的立場ではそれにのっとった行動をしなくてはならない。
そんな時、知らない、というのは非常に危険だ。下手すれば、軍法会議にかけられて首が飛ぶ。
階級は肩章など一目でわかるようになっているとはいえ、知っていて損はない。というか、身内の所属や階級ぐらい知っておくのは普通だ。
さっきまでのシリアスはどこへ消えた、と思わずルフォルが自問する中、他四人によってアイカは説教を受けた。
路地の隅で少年少女(しかもそれぞれ容姿が整っている)で固まっているのは、ある意味視線を集めたが本人達は一切気にしていなかった。
小一時間後、説教が終わり、そろそろセラの言っていた店をのぞきに行ってみようと動き出した。
同時、進行方向で悲鳴が上がった。続くのは破壊音と怒号だ。
アイカ達の視線が遠くに飛ぶ。
人が集まる祭りではありがちな騒動に、遭遇してしまったのだと瞬時に理解した。
「…せっかくのお祭りなんだから、平穏に楽しめばいいのに…」
「全くね。テンションが上がりすぎたのかしら?」
「傍迷惑な上がりかたね。自分一人で引きこもって盛り上がってればいいのに」
「…それは変態だろ」
「他人に迷惑かけないんだったら、変態でいいんじゃね?」
「…そういいながら、騒動の方向へと向かっていくんだな」
それぞれにかなり手厳しいことを言いながら歩く五人に、ルフォルが小さく突っ込む。だが、ルフォル自身も自ら騒動へと足を向けているので、人のことは言えない。
野次馬の壁に遮られて何も見えないので、前に出てみると予想通りというかひねりのない状況がそこにあった。
体格のいい男二人が殴り合いをして、近くの店を巻き込んで破壊したらしい。店の主らしき男は巻き込まれたのか、しりもちついて顔を腫らしている。それを支えている女性は、おそらく店主の娘だろうか。
(…ありがちで面倒くさい状況だなぁ)
思いながら、最前列で見物している以上、アイカに何か言う権利はない。元より、関わる気は一切ないが。
「まぁ、すぐに警備が駆けつけるでしょう」
フィリアの呆れを含んだ発言に、全員が頷く。
祭りで多くの人が集まれば、こういう騒動は多発する。そのため、市中警備を担う部署だけではなく、他の部署からも応援が来て見回りをしているのだ。
役割は師団ごとに分かれており、市中警備を担うのは第五師団だ。
警備、という発言に頷いていたセラは途端に眉を寄せた。いやな予感がしたらしく、そのまま踵を返してこの場から離れようと試みたが、すでに遅かったらしい。
「やめんかっ!!」
年齢は五十前後だろうか。中肉中背だが、よく鍛えられているのが軍服越しにもわかる。
部下であろう青年を二人連れた男は、眉を吊り上げて喧嘩していた男二人をにらむ。
空気を震わせる大喝に、男達は動きを止める。その隙に、青年が二人を拘束した。
「せっかくの祭りの日に喧嘩とは、無粋極まりない。一晩、牢で反省しろ。その前に、調書をしっかりとるがな」
ふん、と鼻を鳴らす男の指示で、青年達は詰所へと戻っていく。
それを見送って、男は被害者だろう店主を振り返る。
「お前も来てもらおう。後、今年の祭り出店は諦めろ」
「な、なぜですか?! 私達は被害者ですよ!」
男の言葉に、店主の娘らしい女性が目をむいて抗議する。
「現状、何が原因かわからん。だが、騒動の現場となった以上、何もないわけではなかろう」
「あの人達が勝手に争い始めたんです! どうして、私達までっ」
男の言い分としては、間違っていない。被害者の証言も必要だから、今日の商売を諦めて詰所に出向くのは何らおかしくはない。その内容によっては、営業許可が取り消されるのも致し方ないだろう。
だが、順番がおかしい。調書を取った後にすべき判断まで同時にしてしまっている。
来い、というだけなら女性も抗議しなかっただろうに。
金切声の抗議が煩わしくなったのか、男は眉間に深いしわを刻む。
「…これ以上の問答は、公務執行妨害ととるぞ」
それは明確な脅しだった。
男としては当然の発言だったのだろうが、女性や周囲の一部にとっては違う。野次馬のほとんどは喧嘩の内容など知らない者達だが、知っている者も中に入る。そういった者達にとって、男の発言は理不尽が混じっているとしか考えられない。ただ、自分達まで公務執行妨害で取り締まられては困るからそそくさと去っていく。
女性はさっと表情を青ざめて、沈黙する。店主はよろめきながらも立ち上がり、男に対して頭を下げている。
公務執行妨害は重罪で、確実に犯罪者としての烙印を押される。喧嘩などの個人的騒動なら説教と一日二日の禁固で済むが、重犯罪者に施される諸々の処置と懲役が課される。その中に、頬に茨の刺青を施すというものがある。一目でそうとわかれば、犯罪の抑止になるという考えだが、それは逆に更生の芽を摘み差別を生むことになっており、最近問題になっていたりする。
ともあれ、これでようやく仕事に戻れると言いたげにため息をついた男に対して、一歩踏み出した者がいた。
「権力行使による弱者虐待は、士官候補生と見過ごせません」
きっぱりと言い切った声に、振り返った男は驚いたように瞳を見開いた。
「セラ? なぜここにいる」
男の言葉に、アイカ達はああやっぱりなと思ったが口にしない。
セラの雰囲気が、男が登場したあたりで気まずげなものになり、発言を重ねるごとにじわじわと険しいものになっていったからだ。
知り合いか、と思ったが状況的に考えれば、該当する人物は三人ほどだ。そのうち、年齢的に合致するのは一人しかいない。
「夏季休暇だから、友人と祭り見物に来てたのよ。父さん」
男―――フェイド=フォルクリアは、セラと同じく黒髪に翡翠色の瞳をしている。だが、顔だちは似ていない。セラは母親似なのだろう。
「そうか…。それで、さっきのはどういう意味だ」
「そのままよ。弱者虐待は見過ごせないわ」
「だから、引っ立てただろうが」
「誰があの男達のことを言ってるのよ。わたしが言ってるのは、父さんのことよ」
「…わしがいつ…」
「今、この場で」
親子らしい二人の様子に、散りかけていた野次馬がなんだなんだと再び集まりだす。
店主と女性はオロオロと親子を交互に見ている。
「…フォルクリア少尉」
改まった娘の様子に、フェイドは違和感を感じて沈黙し続きをまつ。
「わたしは所詮士官候補生ですので、軍の業務に口出しする権利はありません。ですが、意見することはできるはずで」
「…そうだな」
「なら、お聞きいただけますか?」
「いいだろう」
事前に了承を取る念の入れように、アイカ達は一歩下がった。なんとなく、セラが怖い。
「被害者の証言が必要であることは事実です。そのため、兵の詰所まで同行してもらい、調書を取ることも。ですが、調書を取った後に出されるべき判断を今ここで、しかも、被害者であるはずなのに加害者であるかのような判断を押し付けるのは間違っていると思われます。さらに、それに対して抗議した者に対する脅迫行為は、れっきとした犯罪です」
「脅迫など…」
「理不尽と思われることに抗議した。それなのに、その行動を公務執行妨害だと言われれば、誰もがだまってしまうでしょう。そして、これを前例にして、今後は被害者が声を上げられなくなるでしょうね。軍に助けを求めて声を上げても、公務執行妨害、とされれば被害者はたやすく加害者になってしまうのですから」
セラの言いたいことが分かったのか、フェイドは沈黙した。
「…下手の言い逃れをしようとして食い下がっているのであれば、確かに彼女は少尉の公務を妨害したといえるでしょう。ですが、事情を知る者が理不尽に憤って抗議したことは間違っていません」
一拍の間をおいて、セラは挑むように父を見上げた。
「祭りで騒動も多く、疲れているのかもしれませんが、ちゃんと公平に行動してほしいのです。疲労を理由におざなりになり、理不尽を強いてしまえば、軍への不信と反発を生みます。…暴力を振るわれ商売を邪魔された彼女の怒りは正当であり、彼女は現時点で明らかな被害者です。それらの事情を考慮の上で(・・・・・・・・)判断していただきたい―――と思うのですがいかがでしょうか」
まるで原稿を与えられていたかのように披露された長広舌に、周囲が妙な関心を示す。アイカ達は常にない様子のセラに対して引き気味だ。
店主と女性はポカンとしていたが、セラが自分達を擁護してくれたのだと理解すると、キラキラした視線を向けてきた。
フェイドは娘を見下ろして、十数秒考え込み、ふぅと息をつく。
「…そうだな。少し疲れていたのかもしれん。いや、それは理由にはならんな。―――気遣い至らぬうえ、理不尽を強いてしまった。申し訳ない」
非を認めて店主と女性に対して素直に頭を下げたフェイドは、やはり疲れていたのだろう。
セラに言われて自覚したのか肩を落として目じりを下げた。元々たれ目なのか、力を抜いた状態では人が良さそうな印象が強くなる。
頭を下げられた店主と女性は、少々困惑している。
どこでも軍人は横暴な振る舞いが多くなるものだ。例外はあるが、ここまであっさりと頭を下げる軍人は滅多にいない。
謝罪をぎくしゃくと受け入れた店主と女性から視線を外したフェイドは、娘を肩越しに振り返って苦笑した。
「…次の休暇には、一度戻ってこい。皆、心配している」
「気が向けば」
さっきまでの他人行儀を脱ぎ捨てて、セラは気のなさそうに返す。それが通常なのか、フェイドはもう何も言わずに背を向け、店主と女性を促して歩いていく。
その際、店主と女性がセラに対して何度も頭を下げていた。
「悪い人物ではないけど、ちょっとせっかち、かな…」
アイカのどうでも良さそうな評価に、セラは肩をすくめる。
「家ではのんびりした昼行燈よ」
「…ギャップが激しすぎるだろ」
思わず突っ込んだアイルの眉間には、しわが寄っている。
同じ商家出身者として、フェイドの態度は少々むかついたらしい。
「職務で気を張ってる分、家で気を抜いてるだけよ。ただ、ああいう感じだから、兄さん達は妙に堅物なのよね」
『あぁ…』
心底嫌そうにため息をつくセラに、アイカ達は何とも言えなくて力の入らない相槌を打つ。
何か嫌なことを思い出したらしいセラがずどんと落ち込んだので、近くのカフェに入って一息つくことにした。
家庭環境が破たんしていないアイカがケーキをおごったことで浮上(安い)し、その後、言っていた魔石のお店へ向かった。
ちなみに、アイルとコールも家庭環境は破たんしていないが、懐の事情でおごらなかった。自分のことで精いっぱいなのだ。
王都の祭り初参加(諸々の事情で)だったアイカ達は、満足して寮に帰って行った。
ほとんど食べ歩きしただけで、物品は何も買っていないのがアイカ達らしかった。
ミゲルとラス(二人は顔が知られているので不参加)には呆れられたが。




