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復讐のスキル・イーター  作者: 鷲尾秋水
王都簒奪編

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第49話:黒王の戴冠、そして世界は蠢く(第1部 完)

王城の地下深く、王立礼拝堂で繰り広げられた凄惨な死闘。

数十万の命を飲み込み、理不尽な破壊の化身と成り果てようとした『偽神』マリアが、クロウの放った漆黒の大剣によって完全に一刀両断されたその瞬間。

王都の空を禍々しく覆い尽くしていた『赤い光』は、巨大なガラスが砕け散るような甲高い音と共に、完全に霧散した。

光が消え去ると同時、王城の地下から吸い上げられていた膨大な生命力と魔力が、淡く輝く『光の雨』となって王都の空から降り注ぎ始めた。

その慈雨は、王都の至る所で倒れ伏し、死の淵を彷徨っていた数十万の民衆たちの体へと静かに吸い込まれていく。


「あ……体が、元通りになっていく……!」


「息が、息ができるぞ……! 俺たち、助かったのか……!?」


搾取されていた命が還元され、民衆たちが次々と起き上がる。自分の手や顔を確かめ合い、涙を流して家族と抱き合う。

彼らはすぐには事態を飲み込めなかった。だが、彼らの記憶には、あの忌まわしい赤い光が王城の地下から放たれていたこと、そして、自分たちを救うために空を覆い尽くした巨大な『黒い霧の天蓋』と、その霧を展開した【黒の仮面】を被った大男の背中が、決して忘れられない鮮烈な光景としてハッキリと焼き付いていた。


「……勇者様でも、聖女様でもない。あの仮面の男が、我々を死の運命から救い出してくれたのだ……」


一人の老人が、王城に向かって深々と頭を下げる。

それが波紋のように広がり、瞬く間に数十万の民衆が王城へ向かって、まるで新たな神を崇めるかのように祈りを捧げ始めた。恐怖と絶望は、絶対的な力で自分たちを救った存在に対する『狂信的な感謝と畏敬』へと完全に反転していた。

◆ ◆ ◆

一方、王城の前——王都の正門広場では、これまでの歴史と価値観が完全にひっくり返る『究極の断罪』が静かに執り行われていた。


「離せ! 離せぇぇぇっ! 私は国最高の魔導士だぞ! この国の魔法技術の根幹を担う私に、こんな扱いが許されると思っているのか!」


「俺は世界を救う勇者だ! 神に選ばれた絶対の存在なんだぞ! 貴様らのような下級兵士が、俺の体を泥まみれの縄で縛るなど……絶対に許されない!」


広場の中心。

そこには、全身の骨を砕かれて泥にまみれた『勇者アレク』と、下半身を氷漬けにされたままの『大魔導士』、そして、戦場から逃げ遅れて捕らえられた数十名の『腐敗貴族』たちの姿があった。

彼らは皆、かつて自分たちがゴミのように見下していた王国軍の一般兵士たちによって、分厚い魔封じの縄で雁字搦めに縛り上げられ、冷たい石畳の上に無様に引きずり倒されていた。


「黙れ、この醜い偽物どもが。お前たちのせいで、王都の民は皆殺しにされるところだったのだぞ」


兵士たちを束ねる近衛騎士団の副団長が、氷のように冷たい声で吐き捨てる。

彼の瞳には、かつて彼らが勇者に向けていた尊敬の念や、貴族に向けていた畏怖など微塵も残っていない。あるのは、自分たちを平気で見捨て、私欲のために命を弄んだ者たちへの、底知れない嫌悪と軽蔑だけだ。


「我々王国軍は、先ほどの『赤い光』の惨劇をもって、現国王および勇者パーティーへの忠誠を完全に破棄した。……お前たちはもはや英雄でも貴族でもない。王国を滅ぼしかけた、万死に値する極悪人(大罪人)だ」


「な、何を馬鹿なことを……! 国王陛下が、そんなことを許すはずが……!」


大魔導士が、プライドにしがみつくように青ざめた顔で叫ぶ。


「その国王なら、貴様らが崇めていた『聖女』とやらによって、地下礼拝堂で真っ先に魔力を吸い尽くされ、干からびたミイラになって死んだよ。欲に塗れた、この上なく醜い最期だったそうだ」


その冷酷な事実を告げられ、勇者と大魔導士、そして周囲の貴族たちの顔から完全に血の気が引いた。


「そ、そんな……嘘だ、嘘だァァァァッ!! 俺は勇者なんだ! これから富も名声も、世界の全てを手に入れるはずだったんだァァッ!!」


勇者アレクが狂ったように叫びながら、芋虫のように地面をのたうち回る。

名声、権力、富、そして彼自身のプライド。彼が「自分は特別だ」と信じて疑わなかった全てのものが、音を立てて崩れ去っていく。


「連れて行け。王城の最下層にある、光すら届かない『奈落の地下牢獄』へ。……彼らにはそこで、自分たちの犯した罪の重さと、偽りの栄光の残骸を永遠に噛み締めながら、死ぬことすら許されない一生を終えてもらう」


副団長の無慈悲な命令により、兵士たちが彼らを引きずり起こす。


「やめろ! 嫌だ、暗いところは嫌だァァッ!」


「誰か! 誰か私を助けなさい! 金ならいくらでも払う!」


勇者パーティーの生き残りと腐敗貴族たちは、民衆たちの冷ややかな視線と、憎悪に満ちた絶え間ない罵声を浴びながら、暗く冷たい地下牢獄へと引き立てられていった。処刑という一瞬の苦痛すら彼らには与えられない。

彼らは死よりも残酷な『完全な社会的抹殺』と『終わりのない絶望』を与えられたのだ。それは、彼らがかつてクロウやセリア、シルヴィアに与えた絶望に対する、正当で完璧な報いであった。

◆ ◆ ◆

外の凄惨な断罪劇の喧騒は、分厚い城壁と強固な魔力障壁に阻まれ、王城の最上階までは届かない。

静寂に包まれた王城の最奥。かつてこの国を支配していた国王が座る、豪奢な『玉座の間』。

重厚なオーク材の扉が、ギィィィィッと重々しい音を立てて開かれた。

夕日が巨大なステンドグラスから差し込み、赤く染まった荘厳な空間。

その一番奥に鎮座する、黄金と赤のビロードで飾られた巨大な玉座。

主を失ったその絶対的な権力の象徴の前に、血と泥にまみれた三人の簒奪者——クロウ、シルヴィア、セリアが、ゆっくりとした足取りで歩み寄る。


「……随分と、趣味の悪くて窮屈そうな椅子だな」


クロウは、玉座の前に立つと、片手でその背もたれを軽く叩き、低く笑った。

彼の顔を覆っていた【黒の仮面】は、マリアとの死闘の中で真の力を解放した際に砕け散り、今はその鋭く獰猛な素顔が完全に露わになっている。


「ええ。でも、今のこの国で、その椅子に座る資格があるのは、あなただけよ。クロウ」


シルヴィアが、魔杖を杖代わりにして足を引きずりながらも、慈愛と、底知れない深い信頼を込めた瞳で彼を見つめる。


「クロウ様。私たちの……いえ、あなたの国です」


セリアもまた、全身包帯だらけの痛々しい姿でありながら、クロウの前に片膝をつき、絶対の忠誠を示すように深く、美しく頭を垂れた。

二人の言葉を受け、クロウは静かに目を閉じ、そして、ゆっくりと長く息を吐き出した。

理不尽な理由で全てを奪われ、底なしの嘆きの谷へ突き落とされたあの日。絶望の底でこの二人と出会い、血反吐を吐くような努力と、狂気にも似た執念で這い上がってきた。

全ては、彼らを虐げた者たちを叩き潰し、世界の頂点に立つ、この瞬間のためにあったのだ。

クロウは身を翻し、王国の歴史上、いかなる王よりも堂々とした、圧倒的な覇者の態度で、その玉座に深く腰を下ろした。


「……悪くねぇな」


クロウは玉座の肘掛けに腕を預け、玉座の間の巨大な窓から見える、夕日に染まった広大な王都の景色を見下ろした。

眼下には、彼を神と崇める数十万の民衆がひしめき合っている。


「セリア。地下牢に放り込まれた残党どもの監視と、城の財宝の接収は任せる。あいつらには、死ぬことすら許されない『生きた地獄』を徹底的に味わわせてやれ。少しでも楽になろうとしたら、お前の幻影で終わらない悪夢を見せ続けてやれ」


「御意のままに、私の王(クロウ様)。あの者たちの精神が完全に擦り切れるまで、極上の絶望を管理してみせます」


セリアは、これ以上ないほど残酷で、そして幸せそうな笑みを浮かべて頷いた。


「シルヴィア。お前は表向きの『女王』として、外で騒いでる民衆と兵士どもを完全に掌握しろ。お前なら、頭の悪い連中を手のひらで転がすくらい造作もないだろ?」


「ええ、任せて。私がこの国の『正当な血筋』として頂点に立ち、あなたが裏から全てを支配する【黒の王】になる。……最高の国作りになりそうね。私を追放した連中が築いた腐った法律は、明日までに全て焼き捨てて新しく書き直すわ」


シルヴィアもまた、玉座に座るクロウの隣に立ち、王都を見下ろす窓の外へと視線を向けた。

たった三人の復讐者として始まった彼らの旅は、ついに一国を完全に奪い取る(成り上がる)という形で結実した。勇者の名声は地に落ち、腐敗した貴族たちは永遠の牢獄に繋がれ、民衆は彼らを救世主として崇めている。

完全なる勝利。

だが、玉座に座るクロウの瞳に、慢心や、目的を達成したことによる気の緩みは一切ない。

彼の視線は、王都の強固な城壁を越え、さらにその先の『広大で未知なる世界』へと向けられていた。


「……ここからが本番だ。腐りかけの小国を一つ潰したくらいで、俺の飢え(覇道)は満たされねぇよ」


クロウが、砕けた仮面の奥の瞳で、獲物を見つけた猛獣のように獰猛に笑った。

その漆黒の瞳には、まだ見ぬ強敵たちとの、血湧き肉躍る闘争への激しい渇望が、爛々と燃え盛っている。

◆ ◆ ◆

クロウたちが王国を簒奪し、新たな支配体制を築き始めようとしていたその頃。

彼らが王城の地下で放った『規格外の魔力の余波』は、既に王国の国境を遥かに越え、世界中の『真の強者たち』の耳に届き始めていた。

王国の北に広がる、大陸の半分を支配する巨大な軍事国家『神聖ルシフェリア帝国』。

その大宮殿の最奥、機械仕掛けの巨大な歯車が回る謁見の間で、巨大な世界地図を睨みつける初老の男——数百万の精鋭軍を束ねる『剣帝』が、密偵からの緊急報告書を読み上げ、低い歓喜の笑い声を漏らした。


「たった三人で、あの『聖剣の勇者』と五万の軍勢をすり潰し、一国を乗っ取っただと……? ククッ、フハハハッ! 辺境の小国とはいえ、とんでもない化け物が生まれたものだ。平和ボケした我ら帝国の『六機将』にとって、これ以上ない極上の獲物になるぞ」


剣帝の背後に控える、帝国の誇る最強の六人の騎士たち——全身を魔導装甲で覆った歴戦の猛者たちが、血の匂いを嗅ぎつけた獣のように一斉にその武器を鳴らし、闘気を爆発させた。

そして、遥か西の果て。

人類の生存圏を完全に脅かす、猛毒の瘴気に満ちた『魔の大陸』。

無数の白骨で作られた巨大な玉座に座る、圧倒的な魔力を放つ影——【魔王】が、王国の方向から感じ取った『同質の闇(クロウの黒霧)』に、その禍々しい赤い双眸をカッと見開いていた。


「……面白い。我の瘴気を上回るほどの『純粋で破壊的な闇』を抱えた人間がいるとはな。四天王よ、東の小国へ向かえ。その闇の主が、我の玉座を脅かす存在か……それとも我の新たな『右腕』となる器か、見極めてこい。抵抗するなら、国ごと灰にしても構わん」


魔王の無慈悲な命を受け、魔の大陸から、空を黒く染め上げるほどの数万の強力な魔物の軍勢が、静かに進軍を開始した。

世界の歯車が、一人の【黒の王】を中心に、大きく狂い始めていた。

温室育ちの勇者パーティーなど比較にならない、文字通り世界を支配する本物の強者たち。

力と軍略の限りを尽くす、帝国が誇る最強の『六機将』か。

それとも、人類を滅ぼさんとする魔王軍の『四天王』が率いる絶望的な軍勢か。

強者たちの熱い視線と恐るべき野望が交錯する中、世界全体を巻き込む『真の覇権争い』の幕が、今、静かに上がろうとしていた——。

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