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ソウルガーデン~宵に咲く花  作者: 木柚 智弥
打たれても、踏まれても
13/19

満開の花の陰で

『〈T-ショック〉圧巻! マキシシングルの三曲、オリコンチャート首位を独占!』

『年末恒例ライブコンサートチケット、発売から十分でソールドアウト』

『結成二十周年記念コンサート企画発表――東京Sホールにて三日間。チケット争奪戦の兆し』

『〈T-ショック〉マースを直撃!〈好調の秘訣はプライベートの充実〉発言の真相――タクミとの復縁が決め手?』


「それにしてもスゴいよな~。年末にきてこの誌面の賑わせ方は」

 楽屋のパイプ椅子に座り、膝に抱えたアコースティックギターを布で拭きながら、健吾が横を向いてつぶやいた。目線の先には、細長い机の上に開いた雑誌が何冊か置かれている。

 僕は自分の立つモニター前からそれに目をやり、すぐに手元のスケジュール表に目を戻した。あと二十分で恒例の年末三日間ライブの最終日も終わりだ。

 ギターを抱えた健吾がモニターの前に来た。

「雅俊さん、ホント絶好調だなぁ。色々な意味で」

 意味深な目配せをよこされ、僕は赤面しながら目を逸らした。


 僕が目黒に行くようになってから一ヶ月半。

 拓巳くんとセラの間がままならない分を補うように、俊くんの好調は誰が見ても明らかなってきていた。

「見ろよ。このノリノリなこと」

 モニターを覗いた健吾が指差した先には、今まさにクライマックスを迎えようとする、ここから数メートル先で展開されているステージの様子が映っていた。

 絞った音量ながら、凄まじい歓声で満たされたているのがわかる。光に照らされたステージで、今、拓巳くんが歌っているのは、二週間前に発売されたばかりのマキシシングルの中のひとつだ。

「イケてるよな~。とても二日で書いちゃったとは思えない。雅俊さんの才能ってどんだけ?」

「あはは。俊くんは時々芸術が爆発するから……」

 モニターの中で、黒系の衣装に身を包んだ三人がそれぞれアップに映されていく。

 長い髪をかき上げながら、ライトに照らされて熱唱する拓巳くんの横顔。

 滑るようにギターを操る祐さんの指先。そしてキーボードの上を踊る俊くんの腕。

 画面が切り替わり、正面のアングルで三人が映った。拓巳くんの声量が上がった瞬間、五ヶ所から花火が吹き上がり、場内の歓声がどよめきに変わる。

 僕はモニターを離れると、タオルを三本とスポーツドリンクを三つ脇に抱え、ひとつずつを健吾に渡した。

「行こう」

 アンコールに備え、舞台脇に控えるのだ。

 楽屋のドアを開けた途端、凄まじい歓声と迫力の重低音が耳を刺激した。

「それにしても一度に三曲を、発売まで僅か一ヶ月っていうのが凄いね。特にあの〈宵華(ヨイバナ)〉! 俺も優花にあんな曲作れるようになりてー」


 僕を目黒に迎えたあの日、一夜を過ごした俊くんは、次の日に遅い朝食を済ませると、突如として立ち上がった。

「音楽の神がおれを呼んでいる」

 そしてまともに動けずにいた僕をソファーに横たわらせると、自分はその脇のローテーブルに五線譜を持ち出し、猛然と曲を書き始めた。そしてなんと一日で三曲を書き上げてしまった。その間、ちゃんと僕の世話までしてくれたところがリッパだった。

 その夜再び共寝し、翌朝の目覚めも一緒だったはずなのに、いつの間に書いたのか、朝食のときには詞まで完成していた。

 食事を終えた俊くんは沖田さんに連絡を取ると、

「マキシシングルを出す。準備に入ってくれ」

 と、彼に悲鳴を上げさせていた。しかしそこは長年の付き合いの沖田さんのこと、三日後の夕方にはレコーディングの手配が整っていた。

 煮え切らなかったのは突然スケジュールを変更された拓巳くんだ。

「キサマ! 和巳を目黒に連れてまでコレかっ」

 噛みついたところを、やはり長年の付き合いで慣れている祐さんに宥められ、楽曲まで付いたそれを読み込むと、しばらくして不機嫌に言った。

「ちっ。こんな曲持ってこられちゃしょうがない」

 拓巳くんをも唸らせた曲――それが〈宵華(ヨイバナ)〉だ。


 ホールが揺れるような歓声と拍手、そして女性の悲鳴のような呼びかけが聞こえてきた。

「ヤバい。早く行こう」

 小走りに五段ほどの階段を駆け上がると、右横にステージの眩しい明かりが見えた。手前に沖田さん、奥に真嶋さんが控えている。優花の話を聞いてからは、真嶋さんを催促するような素振りを見せないよう、僕たちは気をつけていた。

「お疲れさまです」

 先に沖田さんに会釈し、真嶋さんに呼びかけると、彼は穏やかな笑顔を向けてきた。

「ご苦労様、和巳。もうすぐ終わるよ」

「はい。飲み物とタオルを持ってきました」

 彼に拓巳くんの分を渡したとき、ちょうど三人がこちらに引き上げてきた。僕たちはそばに駆け寄ると、それぞれにタオルやドリンクを差し出した。祐さんが健吾からアコースティックギターを受け取る。

「あと少しだよ。頑張って」

 黒に銀をあしらった、デザイン違いのジャケットも美々しい俊くんと拓巳くんに声をかけると、俊くんが僕に顔を寄せて聞いてきた。

「連中はいるか?」

 雑誌記者のことだ。

「うん。ホールにもバッチリ散っていったよ」

 すると拓巳くんがイヤそうな顔をした。

「キサマ。まだ何か企んでるのか」

「まあな」

 彼は汗を拭きながら拓巳くんに笑いかけると、僕に耳打ちした。

「打ち上げが終わったらすぐバックレよう」

「二次会あるでしょ? 僕、先に目黒のマンションに行ってるから」

「バカいえ。なんのためにおれは三日間も頑張ってるんだ。ご褒美くれよ」

「でも俊くんは」

「心配すんな。手は打つ。だからゴカイしないでくれよ?」

 まさか。

「いやあの、俊くん?」

「アンコールだ。行ってくる」

 俊くんは僕にタオルを戻すと、真嶋さんに髪を直されたり汗を拭いてもらったりしながら、スポーツドリンクを飲んでいる拓巳くんの腕をつかんだ。

「ラストだ。行くぞ拓巳。祐司はいいか?」

「ああ」

 祐さんの返事を合図に俊くんが拓巳くんを半ば引っぱりながらステージに戻ると、歓声が悲鳴混じりの嬌声に変わった。

 俊くんのMCに被って祐さんのアコースティックギターが音を奏で出す。その少し哀愁を帯びた旋律に拓巳くんが声を乗せていった。


宵華(ヨイバナ)〉――それは〈宵月〉の花。あの日の夜、俊くんの胸に咲いた花。


 歌詞に込められた想いが拓巳くんの歌声に乗ってホールの隅々まで響き渡り、聴衆がうっとりと聴き入る。伸びやかな高音にアコースティックが重なり、やがて静かに音が消えると、ホール全体から割れるような拍手が鳴り響いた。

 鳴りやまない拍手と歓声に応え、俊くんを中心に三人が並ぶ。両手を上げて観客に応えた俊くんはまず右隣の祐さんと抱擁を交わすと、次に左隣の拓巳くんに抱きついて頬に軽く口づけた!

 途端、場内のあちこちからつんざくような悲鳴が上がった。

 あちゃー。

「ひいぃ、雅俊君やり過ぎ!」

 僕の背後から沖田さんの嘆きが聞こえる。

「あのっ、ちょっと和巳! アレッて一体……?」

 目を真ん丸にした健吾に僕はボソリと耳打ちした。

「あの〈プライベート充実〉発言は、実は拓巳くんの失言なんだ」

「えっ? あれ拓巳さんの口から出たのか?」

「そ。だから責任取らされてるの」

 折しも俊くんが、頭の中真っ白な拓巳くんの腕を取り、消えゆくライトの中を、悲鳴のやまない観客に手を振りながら上機嫌で下がってきた。すぐ後ろの祐さんが苦笑している。

「どゆこと?」

「この新曲をリリースするとき、早すぎて宣伝の期間が取れなかったから、いつもより多く雑誌記者のインタビューを受けたんだ。そのとき俊くんの爆発ぶりが話題に出て、拓巳くんがポロッと言っちゃったんだよ」


 Gプロの応接スペースで行った、複数の雑誌社によるインタビューのあと、最後に残っていた顔馴染みの音楽雑誌記者が帰り際にこう漏らした。

「しかしマースは無茶するなぁ。たった一ヶ月間でマキシシングルを出すだなんて。さぞかしみんな振り回されたでしょ?」

 拓巳くんが首を縦にぶんぶん振っていると、俊くんが笑いながらアッサリ言った。

「しょーがないんだ。神に呼ばれちゃうんだから」

 それについ拓巳くんが反発した。

「オマエはプライベートが充実するたびに神に呼ばれるのか。少しは控えやがれ!」

 あっ、ウソッ。

 僕や沖田さんをはじめ、その場にいたGプロ側の誰もが固まった。

「えっ、そうなの? マースはいい人できたんだ。どおりでいつもよりテンション高いと思った」

 記者はにっこり笑って道具をしまい終えたカメラマンと頷き合った。

「最後にいい話聞けたよ。お礼にしっかり宣伝しとくからね。じゃ」

 そして、青ざめる拓巳くんをよそに、彼らは爽やかに挨拶を残して行ってしまった。当然、俊くんはおかんむりだ。

「おいテメー。どうしてくれるんだ!」

 不幸なことに、その音楽雑誌は発売日が四日後だった。滑り込みのように特集を組まれた記事には、大変良心的な文章ながら、輝くような俊くんの顔写真とともに、そのことがばっちり載っていた。むろんマスコミ各社は色めき立った。

「まずいぞ。これでこの前の件まで蒸し返されたら厄介なことになるんじゃないのか?」

 祐さんの忠告に、沖田さんも頷いた。

「和巳君は同じ学園の生徒です。この前は運よくそこには気づかれませんでしたが、夜まで二人きりでいるところをマスコミにでも目撃されたら、いくら付き人でも勘ぐられてしまうかも知れません。しばらく目黒には近づかないほうが……」

 それを聞いた俊くんは、拓巳くんに据わった目を向けた。

「……いいだろう。テメーが妨害しようってんならおれにも覚悟があるぞ」

「ゴカイだ。わざとじゃない!」

「なら、挽回に協力してもらおうか。それも直ちに。異存はないだろうな?」

「……な、ナニする気だ?」

「それは任せてもらうぜ。おれが付き人と二人きりでいてもマスコミが勘ぐらなくなるまで、しっかり協力してもらおうじゃねーか」

 そうして俊くんはちゃっかり年末に僕を目黒に連れることまで承諾させると、その日からマスコミの前で拓巳くんにベタベタしだしたのだ。

「つまり、拓巳くんを犠牲にして、いかにも〈プライベート充実〉の相手はタクミだと思わせる作戦」

「マ、マジ? 拓巳さんは大丈夫なの?」

「うーん。ヤなんだろうけど我慢してる」

「その手のことで騒がれるのをもっとも嫌う拓巳さんが、おまえのために我慢を」

「だから、反動で真嶋さんに甘える頻度が増えてるんだけど、俊くんに引きずっていかれてるよ」

 なにしろ今日までの十日間、沖田さんから「そうはいっても警戒してください」と釘を刺され、俊くんは目黒の週末が二度もお預けになった。我慢の限界に達した彼は年末のオフに賭けているわけで、ここで〈本命〉の噂も高い真嶋さんに出てこられては作戦が台無しになるのだ。

「だから今日は注目をこっちに集めるために必死なんだよ」

 このコンサートは露出度が最大なので、気合いが入ることこの上ない。その一端がさっきのアレだ。今夜の打ち上げでは仕上げとばかりにハデにやるだろう。

「だから明日の二年参りで優花に会ったら、しばらくお父さんをお借りしますって言っておいてね。多分、お正月の三日間はそちらにお邪魔したまま一歩も外に出ないと思うから」

 今日のダメージを癒してもらうに違いない。

「正月におまえが三日間も家を空けて大丈夫なのか?」

 今まで僕は、お正月に拓巳くんのもとを離れたことはない。彼の寂しさが募るからだ。

「俊くんが承知させたからね。それに僕も、できればこの三日の間に二人でセラのことを話してくれたらな、なんて思ってる。年末までバタバタしてたからじっくり話す機会もなかっただろうし」

「ああ、なるほど。それは大事だよな」

「だから健吾は優花のこと頼むね」

 健吾は「そこは心配なしだ」と請け合った。


 そのあとの忘年会を兼ねた打ち上げパーティーでは、予定どおり展開でことが運んだ。

 拓巳くんを連れ、会場の奥の一角に陣取った俊くんは、挨拶に来るスタッフに上機嫌で応えながら、こっそり沖田さんに指示を出してマスコミ関係者を近くに来させ、さりげなくアピールしていた。そしてある程度成果が出たと確信してから、祐さんや真嶋さんに混ぜて僕をそばに寄んだ。しかし、あくまでも〈付き人兼、絵画の弟子〉として言葉をかける慎重さだった。

 そんな風にして作戦も成果を上げた終盤の頃に、その姿が僕の前に現れた。


 会場の隅、壁際のドリンクバーで俊くんとともに飲み物を手に取っていると、意外な人物から声をかけられた。

「今日はご成功おめでとう。相変わらず華やかですな、蒼雅先生」

「柏原さん。北斗」

 それは〈ギャラリー・柏原〉のオーナーと、その息子の二人だった。

 そうか。柏原さんはGプロの社長と親しいんだった。

 俊くんを介してのやり取りもあるため、この席に呼ばれていたようだ。

「ありがとうございます。今年もお世話になりました」

 俊くんの言葉に柏原オーナーが表情を緩めた。

「残念ですよ。あんなに素晴らしい新境地を開拓したのに、この先二年は個展をやらないなんて」

 え……?

 思わず目を向けると、俊くんは柏原オーナーに笑いかけた。

「すみません。来年は音楽のほうに専念したいので」

「二十周年の企画があるんでしたな。お忙しいとは思いますが、二年後にはすぐ開けるように描き溜めておいてください」

「ええ。こちらこそぜひ」

 柏原オーナーは僕を見上げた。

「これからは先生が忙しい分、君が頑張りなさい。実は先日、君の絵を注文してくれたレストランのオーナーから『お客様に聞かれたので紹介した』と連絡をいただいたんだよ」

「本当ですか?」

 僕の初受注、深海をテーマにした抽象画はついこの前納めたばかりだ。

「今日、その方からも連絡が来てね。今度、店を大幅に改装するから、ぜひ同じタイプの色違いが欲しいのだそうだ。なんでも店内のトーンに合わせたいとか」

「色違いを」

「それで、改装が済んだら一度店の感じを見に来てほしいということでね。どうだろう。三月頃の話になるようだが、受けてみるかい?」

 僕が俊くんを振り向くと、彼は微笑んで頷いた。

「やれそうなら受けるといい。すでにおまえの作品を見ているなら大丈夫だろう」

 その言葉に背中を押され、僕はオーナーに向き直った。

「ありがとうございます。頑張ります」

 頭を下げると、柏原オーナーは頷いてから目線を横に下げた。

「では、北斗。この件はおまえが責任を持って連絡を取り持ちなさい」

 あっ……。

 僕が内心で狼狽している間に、北斗がオーナーに答えた。

「承知しました」

「制作に必要なことは、なんでも北斗に聞いてくれて構わないよ。では、蒼雅先生からもアドバイスをよろしく」

 柏原オーナーは軽く頭を下げるとその場を離れていった。僕が複雑な思いでその後ろ姿を見送っていると、北斗の声がした。

「二年も個展をやらないなんて、雅俊さんらしくありません」

 相変わらずスーツ姿が高校生ほどにしか見えない北斗は、小夜子さんに似た幼顔に冷めた表情を浮かべた。

「雅俊さんは天性の芸術家。作品は自然に内側から出てくるはず。なのにやらないのは意図があってのことですね?」

 俊くんは表情を改めた。

「そんなことはない。これは自分の都合だ。バンドに集中したいから」

「嘘です」

 北斗の黒い瞳が強い光を放った。

「二年もなんてあり得ない。わかってますよ。その弟子のためだ」

「北斗」

「タクミとの噂なんて、僕は騙されませんよ。あなたは気づいている。僕を見たら、僕と触れたら自分が揺れることを。だから距離をおこうとしているんだ」

 でも、と北斗は口元に笑みを浮かべた。

「あいにくと僕も本気なんです。この弟子に絵画の才能があることは明白な事実。それを一番バックアップできるのは僕の父だ。あなたはこの先も、ギャラリー・柏原と手を切ることはできない」

「………」

 俊くんの表情に焦燥が滲んだ。北斗は脇に立つ僕には目もくれずに俊くんの腕をつかんで顔を見上げた。

「逃げても無駄ですよ。ほら、あなたには僕を振り払えないでしょう」

「離せ、北斗」

「別に振り払っていいですよ? つかんで、引き離せばいいだけだ。あなたを愛する僕を。かつて、あなたがそのすべてで愛した姿を」

 その瞬間、俊くんの腕が震えた。

「あなたを守り、命を賭した人と同じの姿の僕を、振り払ってみてはどうですか?」

「やめろ。そんな言い方をするな。おまえは小夜子じゃない!」

「そんな風に目を逸らして言われても説得力がありませんよ。僕を無視できない証拠だ。そんな姿を見せられて、どうして身を引けるというんですか。あなたが逃げるなら、僕は追いかけますよ……?」

 俊くんは追い詰められた表情を北斗に向けた。そんな二人の姿に僕の心が(しぼ)みはじめたとき。

「困るな。うちの嫁に手を出されちゃ」

 拓巳くんの片腕が俊くんを後ろから抱きすくめ、もう片ほうの手が北斗の腕をつかんだ。

「タクミ……!」

 北斗の目が見開かれた。拓巳くんはさらに俊くんを胸に抱くようにして北斗の腕を引き剥がした。

「雅俊。俺をいつまで待たせる気だ。一人にされると困るぜ?」

 わざと北斗に聞かせているような言い方に、俊くんはハッとして拓巳くんを見上げ、気を取り直した様子で答えた。

「ああ悪い。つい絵のことで話し込んでいたんだ。戻ろう」

 俊くんに促され、一礼して通り過ぎようとすると、彼から声がかかった。

「また連絡させてもらうよ、和巳君。なんなら目黒を訪ねさせてもらおうかな」

 俊くんが振り返った。

「それは遠慮してくれ。あそこはプライベートだ。他のことに使われたくはない」

 僕は北斗に向き直り、はっきりと伝えた。

「連絡をいただければこちらから伺います」

「ああ、そうだね。目黒は本来、君の居場所じゃないものね」

「………」

「何が言いたいんだ、北斗」

 俊くんの鋭い声音に北斗は笑って答えた。

「別に? 和巳君の自宅は横浜駅の近くだったよねっていう話ですよ」

 そして彼は頭を軽く下げ、会場の中央へと去っていった。

「いよいよ本性を現したようだな」

 拓巳くんが俊くんをじっと見つめた。

「外見は似ていても、魂の色が小夜子さんとは真逆だ。それが見えていてもまだ、やつを退けることができないか」

「………」

「これで俺の借りはずいぶん減ったはずだ」

「エラソーに言うんじゃない……」

 拓巳くんに反論する俊くんは、けれども力なく俯いていた。


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