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幕間 王国立図書館にて 


「ふうー、アイリスちゃんは大丈夫でしょうか―」


 王国立図書館で本棚整理を手伝っていた少女はそう息をつく。


「大丈夫ではないでしょうね。ティンファネル」


 こほっこほっと咳をしながら、司書のローラ・ミルストアは答える。


「今頃は地獄の責め苦を受けているんじゃなくて。まあ、今までやってきた報いよね」

「まあ、かわいい部下を見捨てるんですね」

「ただの下っ端にそこまでの感慨(かんがい)は湧かないなあ。ティンファネル、(うじ)に愛情が湧く?私は湧かない」

「アイリスが蛆って、ちょっと適切すぎる表現ですねえ」


 くすくすとティンファネルが笑った。ティンファネル・アークライト、アンジェシカ王女の側近の一人で大魔道士である。魔法の名門貴族の出である彼女はアイリスを馬鹿にしていた。


「呪いはふんだんにかけておいたもんね。見張りもいるし、完璧よ。これで私が人体実験の責任者だって、ばれっこない」


 ローラは笑みを浮かべた。


「国王陛下に引退してもらって、次の陛下はクラウディア王女ね」

「アンジェシカ王女はもう終わり?」

「人気がなさすぎる。地道に王都の民と触れあってきた平民の気持ちもわかるお姫様の評判は高いわ。勇者パーティーなんて、魔王に負けちゃったら、そこまでよ。アンジェシカ王女には凄惨な拷問と絞首刑が待っているでしょうね」


 ローラの笑みは深まる。


「ま、私は生き残るけどねえ。すでに身がわりの“ローラ”も用意してあるし。秘密警察のトップが図書館で働いている地味な女だとは気づかないでしょう」

「そうですか。あなたはいいですよねえ。私はどうしましょう」


「私の味方になってください」


 びくっとティンファネルは肩を震わせた。振り向くと大賢者・ファルティナ・エンダ―ラッドがいた。ローラも大きく目を見開いている。


「そして魔竜とともにヴィル・テ・ウィンテッドを討ちましょう」

「魔竜!?昔、大賢者ユークラフトとともに魔王を討ったという伝説の!あ、あなたそんな大それた」

「ユークラフトは我が曽祖父。曾孫である私以外に魔竜を説き伏せることなど、できませんよ」


 ファルティナは微笑む。


「さあ。味方は多いほうがいいです。行きましょう。ティンファネル」

「いや、私は」

「ミルティ―ニュはヴィル様などと戯言を言っていました。ローラは姿が見えませんし、シ―ラさんは何かご存知ではありませんか」


 シ―ラ、というのがローラ・ミルストアのここでの偽名であり、正体はファルティナも知らない。


「いえ、存じません」


 シ―ラは真面目そうに答える。


「他の子には断られました。もうあなただけなんです。王国の興廃がかかっているんですよ!」


 ティンファネルはパシンっとファルティナの手を振り払う。


「しつこいですよ」


 冷たく言い放つと大魔道士ティンファネルは口元を歪めた。


「やるならお一人で。私はクラウディア王女の部下ですので。アンジェシカ王女は負け猫です。にゃあにゃあ」


 ティンファネルは手で肉球の形を作り、猫の真似をすると、笑いながらファルティナに背を向ける。


「売国奴が。アンジェシカ王女のおかげで大魔道士になれたくせに」


 ファルティナは愚痴をこぼした。地味な茶髪のセミロングの司書・シ―ラは分厚い眼鏡を中指で押し上げる。口元はわずかに笑みを浮かべていたが、ファルティナはそれに気づくことはない。



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