25、アイリス尋問
「ふむ。間に合ったようだな」
俺はアイリスの逃げ込んだ邸宅の前にいた。二十人ばかりのアイリスに身内を殺された者たちが邸宅の主の若い女に詰め寄っている。
女は裏社会の人間で娼館の顔役だ。
「アイリス?聞いたことも見たこともないねえ」
とぼける女に遺族たちは怒る。
「こっちは嫁を殺されてるんだ!このまま館に押し入るぞッ」
「そうだッ、ヴィル様が怖かったら、さっさとアイリスを差し出せッ」
男たちの声に耳を塞ぎ、聞こえないといった態度を取る女。男たちの能力は低い。貧しい者が多く、日雇いの労働者だったりするからだ。そのため、アイリスの殺人が明るみに出ることなく、今まであの女はのうのうと勇者の婚約者をやってこれたわけだ。
やれやれ、助け船を出す他はない。俺は捕らえておいたアイリスの兄と一緒にいた商家の娘を男たちの前に差し出した。
シクラゼータに頭を踏みつけられていた娘だ。アイリスの兄とアンドレ商会の娘は俺の背後にいる。二人とも、唇を固く結んでいるだけで助けようともしない。
「みな、その娘を拷問せよ。アイリスがいないのであれば、仕方ない。その娘は奴隷商人の娘でアイリスに奴隷を売っていた。外道の娘だぞ」
男たちが少女を睨みつける。少女は違うと言いたいのか、首を振った。先程、少女に問いただしたところ、彼女の父親は普通の商人であるという。でっち上げの大嘘だが、男たちは少女を取り囲むと殴ったり、髪を引っ張ったりしている。
俺は引きつった顔の女の前に出た。
「む、無関係な人間です。ヴィル様、どうかその娘を助けてやって下さい」
「なら、アイリスを差し出せ」
顔役の女の顔が苦痛で歪む。
「・・・・・・それは」
「いるのだろう、館の中に」
「ううう・・・・・・ううう・・・・・・」
女がうめき声を漏らす。もうひと押しだろう。
「今、痛めつけている娘と同様にお前の邸宅にいる娘たちも拷問しようか。さて、どれだけ苦痛に耐えられるかな」
「ま、ママッ」
怯えた女の子の一人が顔役の女に悲痛な声を上げた。
「分かりました。アイリス・オーギュストを差し出します」
がっくりと肩を落とした女がそう言った。
アイリス・オーギュストは顔役の女に差し出され、闘技場に連れてこられた。
「あの人、生き別れた娘に似てるって、そう言ってくれたのに裏切るだなんて」
裏切られたショックでアイリスはぶつぶつと独り言を言っている。俺はアイリスを放っておいて、アイリスに親しい者たちを殺された者たちを見ていた。
「ヴィル様、その女に復讐する権利を!」
「ダメだ。と、言いたいところだが少し待て」
俺はボロ雑巾のようになった商家の娘をゴブリンたちに運んでこさせた。ピクピクと痙攣し、息をするのも苦しそうだ。
「アイリスッ」
アイリスの兄がアイリスに声をかけた。シクラゼータがアイリスの兄を監視している。妙な動きをすれば、殺される。そういう恐怖の下にある。
「ローラ様のことを話そう。な。お前に人体実験を命じたのはローラ様のはずだ」
「ローラ?」
俺はとぼけて聞いてみる。ローラは王国の秘密警察のトップだ。年は二十代前半だが、アンジェシカ王女の側近の一人で王国を腐敗させている一人である。その正体は謎に包まれ、俺も会ったことがない。
「アイリスよ、ローラがお前に人体実験を命じたのか。答えよ
「・・・・・・いえ、私の独断でございます。ローラ様とアンジェシカ王女は関係ございません」
アイリスは恐怖に怯えながらも、王国の上層部をかばった。俺にはそう思える。
「そう、か」
俺はアイリスの兄を見る。
「シクラゼータ、その男を殺せ」




