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24、アイリス包囲網

 商業都市リュウトルド。この街の商店街を百人以上の冒険者とみまごう者たちが鬼気迫る様子で人探しをしていた。


「伯爵の娘のアイリスが人を殺してたんだってよ。恐ろしい話だ」

「私しゃ、前から疑ってたよ。あの娘には人を人とも思わない(ごう)(がん)さがあったからね」


 商店主たちが口々にアイリスの外道を非難する。ヴィルは人間に化けているシクラゼータを引き連れ、街道を歩いていた。シクラゼータは豊満な胸を持つ美女だが、その肢体は地味な冒険者服に包まれている。露出度は控え目に眼鏡をかけた女魔法使いといったいでたちだ。若いヴィルがいると、姉と弟に見えなくもない。


「シクラゼータ、僕の姿はこの国の者たちには知られていない。どうだい。こういう風に歩いていてもただの冒険者にしか、受け取られない」

「そうですね。我がある・・・・・・いえ、ヴィル君」

「今の僕はただの冒険者だ。シクラゼータさん、奴の居場所は分かったかい?」


 シクラゼータはこくりとうなずくと、羊皮紙を取り出す。


「連中がアイリスを見つける前に兄を確保しようではないか」


 アイリスの兄はこの都市の高級ホテルにチェックインしている。シクラゼータとともにヴィルはホテルに向かうことにした。


*****


 ホテルには金貨五枚の値が張る富裕層が宿泊するスイートルームが存在する。そのような部屋に泊まるのは貴族の子弟や冒険者の中でも名うての者、あるいは大商人の縁者に限られていた。


「ひい、何なんだ。貴様らは!」


 金髪の青年が情けない声を上げる。青年は上半身裸で、少女二人が青い顔でベッドのシーツにその体を包んでいた。行為の後なのか、二人の顔は赤く、息も乱れている。


「おや、親の金で女遊びとは優雅な御身分ですね」

「誰なんだ!ローラ様に言いつけて殺してやるぞ!あのお方は拷問がお好きだからなあ。ああ、忌々しいっ」


 ヴィルが興味深そうに青年を見る。


「ヴィル・テ・ウィンテッド様・・・・・・」


 少女の一人が呻くようにつぶやいた。青年が少女の言葉に驚く。


「あ、あの西の魔王の参謀であ、あられるヴィル様が、ま、まさか」


「ヴィル様、ですよね?」


 少女がおそるおそると言った感じでヴィルに聞く。ヴィルはうなずいた。


「わ、私めはアンドレ商会の会頭が娘にございます。父も私もヴィル様に深く忠誠を誓っております」


「ほう、アンドレ商会か。そなたの父は私のためによく働いてくれている。ふむ。そなたには危害は加えぬ。安心せよ」

「あ、ありがとうございますっ」


 びくびくしながら少女が頭を下げる。もう一人の少女も素早く土下座すると、上目遣いでヴィルを見る。


「私もリュウトルドの商家の娘でございます。ご高名はかねがね」


 へらへらと笑う少女の頭をシクラゼータがガシッと踏みつける。


「若い行きづりの男と寝るような馬鹿娘が。我が主にその媚びた顔を向けるとは、無礼であろう」


「そ、そんなわだしはちゅ、忠誠を誓っていますッ、お、お許しをッ」


「シクラゼータ、そのくらいにしておけ。私は忠誠を誓う者には寛大だぞ」


 シクラゼータは不満そうに足をどけた。


「さて、アイリスの兄よ。この娘たちと同様にそなたも私に忠誠を誓うか」


 アイリスの兄は青くなり、しきりにうなずいていた。


*****


「もう、ここなら追ってこないよ。お嬢ちゃん」


 アイリスは高級そうな服の女に助けられていた。女は自分の邸宅にアイリスを引き入れていた。


「ありがとう。あなたは」


 女は首を振る。


「名前なんかとっくに捨てたよ。さて、お腹空いたでしょ。お食べ」


 そこには女が作ったと思われる料理が湯気を立てていた。アイリスはお礼を言うと、料理に手をつける。ス―プに魚介類を交えた料理。女の身分が高いことを窺わせた。


「わ、私は日暮れまで逃げ切らないといけなんです。人殺しの汚名を着せられ、魔族に煽られた人々が私を探しています。どうか、どうか匿って下さいッ」


 床に両手と頭をつき、アイリスは女に助けを求める。


「いいよ。私はこの街の娼館を仕切っている者さ。誰が尋ねてこようと知らぬ存ぜぬで通すさ」

「ありがとうございます。このお礼は命に代えても」

「いいってことよ。お嬢ちゃんは私が生き別れた娘にそっくりでね。ああ、久しぶりに娘と話してるみたいでとっても楽しいんだ。日暮れまでならお安い御用さ」


 クスッと笑うと女は少女の髪を撫でる。


 その時のことだった。若い女が駆けこんでくる。


「お、男たちが門の前で騒いでいます。アイリス・オーギュストを差し出せ、と」

「全く連中と来たら、こんなお嬢ちゃんをいじめて、恥ずかしくないのかい」


「どうなさいますか」

「私が対応する。みんなもついてきな。お嬢ちゃんをあなたたちがしっかりと守っておやり」


 娼婦と思われる女たちがうなずく。女たちは武装した者たちもいた。その者たちが五人ばかりアイリスを守るように彼女に近寄った。


「さ、地下室へ」


 女の一人がアイリスに声をかけた。


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