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23、アイリス・オーギュストという少女

 アイリス・オーギュストは足をもつれさせながら、よく整備された歩道を走っていた。通行人たちがアイリスを異様なものを見る目で見ていく。アイリスは息を切らしながら、路地裏を見つけ、そこに身を隠した。


「はあはあ、ひいひい、な、何で私がこんな目に」


 アイリスは自問自答する。そして、アイリスは自分の過去を振り返っていた。






「おお、アイリスよ。さすがだぞ。さすがは我が娘だ」

「この程度の魔法陣の形成、造作もございません」


 アイリスはツンと澄ました態度で言った。父親の褒め言葉にも嬉しがる素振りはない。


「むう、アイリス君。君に与える課題はもうないよ。私は君に教えることはもうない。こんな生徒は大賢者となったファルティナ君以来だ」


 王都魔術学院の教授は十二歳のアイリス・オーギュストに対しては賛辞を惜しむことはない。天才少女、アイリスはそう呼ばれるようになっていた。


「アイリスさん、いらっしゃい」


 アンジェシカ王女の優雅なティータイムにお呼ばれしたアイリスは王女とその取り巻きたちと出会う。アイリスは十三歳になっていた。


「ファルティマさ・・・・・・ま・・・・・・」


 アイリスは憧れの先輩・ファルティナ・エンダ―ラッドと会うことができた。碧い目に金髪の美しい貴族令嬢のファルティナは王都魔術学院の学生たち、特に女子の間では羨望の的だ。今は亡き曾祖父の大賢者に匹敵すると言われる実力を買われ、北の魔王と西の魔王・ザウラスはファルティナに怯えて、自分の城に引っ込んでいるとも言われる。最強の少女。


「アイリスさんが会いたいだろうと思って、私が事前にファルティナを呼んでおいたんですよ」


 アンジェシカ王女がにっこりと微笑みかける。アイリスは喜んで、ファルティナに握手を求めた。


「ファルティナ様にお会いできて、アイリスは感激しております」


 アイリスの目から涙が零れおちた。ファルティナは布を取り出すと、そっとアイリスの目元をぬぐう。


「まあ、アイリス。私はそんな大層な人間ではありませんよ。勇者様たちが命がけで戦っているのです。勇者様こそ、この国の最も優れたお方だと思います」


「そ、そうでしょうか」


「ええ、アイリス。もし勇者様と会うことがあれば、必ず助けてあげて下さいね。あなたの魔術師としての腕はこのファルティナが保障します」


 アイリスはぶんぶんと首を縦に振る。こうして、アイリスはアンジェシカ王女の派閥に属する事になった。


 そして、アイリスはアンジェシカ王女のお茶会で衝撃的なお誘いを受けることになる。


「わ、私めが勇者様の婚約者に?そ、そんな私ごとき低能が、でございますか」


 謙遜するアイリスに年上の少女たちは笑う。


「アスコット卿の息子だって、十八歳のイケメンだよ。やったね、アイリス!」


 女騎士のシ―リンが軽く肩を叩いてくる。普段はかしこまっているが、このお茶会ではアイリスの姉貴分だ。


「まあ、待ちなさいよ。アイリスの意見を聞かないと」


 冷静にシ―リンを制したのは秘密警察に属するローラだった。青い髪の美少女で冷酷な仕事もやる。しかし、お茶会においては物静かな深窓の令嬢といった感じだ。新入りのアイリスにも優しく接してくれる。


「どうかしら、アイリス。とってもいいお話だと思うのです。受けてくれると、このアンジェシカ、とーーーーーっても助かるのですが」


「王女殿下、無理に勧めるのは」


 聖女ミルティ―ニュが苦笑いを浮かべて、口を出す。王国最大の宗教団体パルス教の幹部の娘だ。聡明で王女の参謀ともいうべき少女だ。


「受けます」


「アイリス、即断は良くないです。女の子にとって、一生に一度の大切なことなのですよ。婚約、そして結婚とは。その殿方(とのがた)と愛を(はぐく)み、こほん、えーーーと子作りをですねえ」


「ミルティ―ニュ、顔、真っ赤っかですよ」


 マイペースに茶を飲んでいた剣聖の少女が指摘する。


「こ、これは人間の雄と雌における正常な行為であってですねー」


 ぶんぶんと両手を振りながら、ミルティ―ニュは熱弁する。


「アイリスは聡い子なんだから、それくらい説明されずとも理解してくれていますよ。ねえ?」


 剣聖の少女が問うと、アイリスは小さくうなずいた。


「はい。王国のため、未来の旦那様であるアスコット様と愛を育んでいきます。ファルティナ様にも勇者様のために尽くせ、と言われていますから」

「ええ、じゃあ私の超恥ずかしい説明は一体何だったんですか―」


 ミルティ―ニュが涙目でぶんぶんと両手を振ると、みんなが笑い声を上げる。アイリスは微笑んで先輩たちを見る。そこは暖かい空間、まるで家族と過ごすようなゆったりとした雰囲気をアイリスは気に入っていた。











「はあ~、冷静だけどポンコツな先輩の役は疲れます」


 アイリスが去った後、ミルティ―ニュは椅子の背もたれにもたれていた。


「アイリスをもっとおだてて、その気にさせないといけません。せっかく魔術学院の指導教授にファルティナ以来の天才少女と褒めるように指示しておいたのですから」


「本当は大したことない平凡よりちょっと上の能力っていうのに、プッ、クックック。あの馬鹿、はしゃいじゃって滑稽」


 無口な剣聖の少女が(あざけ)るように言った。


「ホント、私たちの仲間に入るのが不思議なくらいの低能ですもんねー。クラウディア王女なら気に入りそう」


 女騎士のシ―リンも馬鹿にしたように同調する。クラウディア王女はアンジェシカ王女の妹で孤児院経営など貧民救済に熱心で慈愛の王女とも呼ばれている。


「でもこれで勇者に婚約者という体裁が取れました」


「勇者は冒険先の村娘や町娘に手を出してるから、丁度いい。適当なおっぱいの大きい貴族令嬢を押しつけてやって、性欲を発散させないと」


 剣聖の少女が意地悪そうに言う。


「あんまり勇者が女たらしだと困りますし」


 王女の言葉に一同はどっと笑った。


「しかし、ファルティナを呼ばなくて、正解でした。あの真面目っ娘なら『アイリス、考え直して、あの野獣の婚約者なんて断りなさい~っ』って言うでしょうしね」


 ミルティ―ニュがファルティナの声真似をすると一同はまた笑う。


「アーッハッハッハ。ミルティ―ニュ、似てますわ~、くすくす」


 王女は大受けで腹を抱えて笑っていた。



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