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第九十二話 報告会

「それでは、緊急会議を始めます」


 この場で一番年配であろう職員さんの言葉によって、会議――俺は心の中で勝手に魔王軍の進行に関する会議と呼んでいる――が始まった。

 まずは情報整理のために、各々が持ち寄った情報を発言してもらうようだ。


「じゃあ、私から、報酬を受け取りに来た冒険者に聞いた魔物の話をするわ。前回の会議の時は強い魔物が多いから気を付けろって言ってたけど、実際はほとんどがゴブリンとかスケルトンみたいな弱い魔物だったみたい。ただ、それにしては被害が大きいから何かあったんじゃないかと思うんだけど、これ以上のことは分からなかったわ」

「俺からそれに補足だ。ドラゴン級の大型の魔物がいたって話を聞いた。サラマンダーと見間違えたって可能性もあるが、警戒はしておいた方が良いはずだ」


 まずは魔物関連の話をするみたいだ。

 サラマンダーというのは、その名の通り火を扱うトカゲのような魔物だ。大きさは小さいものでも乗用車ほどあるらしく、普段は火山のように暑い地域に生息している。

 俺は遭遇しなかったが、街中にあった焼け跡はサラマンダーの仕業だろう。


 そんなことより、二人の発言に気になる部分がある。

 俺も補足を挿ませてもらおう。


「俺も良いか? まずゴブリンとスケルトンだが、そこらの森にいるような個体とは強さが全然違った。役割分担がされていて、複数の個体で連携を取っていた。被害拡大の原因はこれだろう。次にドラゴンだが、クリスタルからスケルトンドラゴンが現れた。倒しておいたが、今後同じように特別警戒リストに載っているような魔物が攻めて来ることも考えておいた方が良いかもしれない」


 周りの反応を伺いながら話をしていると、ゴブリンの話の時は皆やはりそうだったか、くらいの反応しかしなかったのに、スケルトンドラゴンの話をした時には一様に驚きを隠せないでいるようだった。

 本当だったのか、気付かない内に倒していたとは、なんて言う小さな声が聞こえてくる。

 少しざわつき、不穏な空気が流れる。

 それを払うように、会議が始まってからもずっと静かにしていたギルドマスターが口を開く。


「その件に関しては、後でわしが詳しく聞こう。今は話を進めて、クリスタルの話をしようじゃないか」


 彼の名はゾル。立派な白い髭を生やしている初老の男だ。

 鋭い目つきと溢れる生命力のお陰で若く見えるが、現役を引退してからもう三十年は経っているというから、見た目以上に歳は取っているのだろう。

 今回の作戦において、彼は俺たち冒険者が依頼としてこの街の魔物を狩り始める前の時点で、数人の補佐を連れてクリスタルの調査に向かっていた。

 俺がクリスタルを見付けた時にその場にはいなかったが、彼は調査ができたのだろうか。

 できていたなら、長年ギルドマスターとして色々なものを見てきた彼の眼にあの怪しいクリスタルがどう映ったのか、聞いてみたいものである。


「わしは侵攻が始まってすぐ、怪しいクリスタルから魔物が出てくると報告を受け、それを探しに出た。止められるものなら早めに止めてしまいたかったからな。情報通りの場所にあったお陰ですぐに見つかったし、魔物が出てくるところも観測できた。あれは恐らく転移系の魔術だろう」


 転移系の魔術。

 その言葉に、再び職員たちはざわついた。

 俺は訳あって見慣れているからそんなに驚きはしなかったが、転移系の魔術は相当珍しい魔術だ。

 使える人間が極端に少なく、使えたとしても実用に耐え得る性能をしていることはまずないと言っても良い。

 そのくらいに高難度で、その上燃費が悪い魔術なのだ。

 一応魔法陣を使えば低コスト化することもできるのだが、そもそも魔法陣をまじめに勉強し研究している人間が少ないのと、結局複雑で大きい魔法陣が必要になってしまうという点から難度の問題は解決できない。

 つまり転移魔術なんてものは使われていなかったと考えるのが普通なのだ。

 ギルドマスターもそれが分かっているから断定はしていない。

 だが、彼は本心では絶対に転移魔術が使われていたと思っているはずだ。

 いや、ギルドマスターだけではない。低い可能性であることを理解した上で、この場の誰もがそう思っている。

 それほどまでに、ゾルという男の眼と経験は信頼されているのだ。


 かく言う俺も皆と同意見だ。

 クリスタルを見付けた時は戦闘に集中していてあまり観察できなかったが、あのクリスタルに何か細工がされていたのだろう。

 あれは一見ただの魔力タンクのように見える。

 実際、魔石に倣って人工的に魔力を集め、固めればあれと同じようなものができる。

 問題は魔法陣の部分だが、クリスタルの内部に立体的に魔法陣が描いてあったとすると、すべての説明がつくのだ。

 より低コストで、より広範囲に、より多く、よりたくさんのものを転移させる。

 そんな転移魔術を発動させることが、圧倒的に複雑な構造を作れる立体魔法陣には可能なのだ。


「俺も同意見だ。人口クリスタルに立体魔法陣が描いてあったんだろう。それなら街に溢れた魔物の出現頻度も量も、納得できる」


 俺はざわつく職員たちに具体的な可能性を示した。

 だが、これが逆効果だったようで、


「立体魔法陣だと!? 魔術協会がそんなものを開発しているとは聞いていたが、完成したという話は聞いていないぞ!」

「完成していたとして、それをなんで魔王軍が使っているんですかね……」


 混乱は深まるばかりだった。


 転移魔術に気を取られて気付かなかったが、考えてみれば立体魔法陣も圧倒的に知らない人の方が多い技術だ。

 そもそも魔方陣自体が使われなくなってきているのだから、これくらいのことは予想できただろうに。

 今日の俺はどうにも注意力が足りていない。

 だが、いまはそんなことを嘆いている暇はない。

 どうにかしてこの混乱を収めなければ。


 そう思いながらも何を言って良いのか分からないでいると、再びギルドマスターが口を開いた。


「スマル君、君には色々と訊きたいことがある。日を改めても良いから、一度二人だけで話をしよう。それからこの会議だが……」


 ゾルは俺に拒否権はないとでも言いたげな鋭い視線を送って来た。

 そして、初めの宣言をした年配の職員さんに目配せをすると、


「そうですね。今日は一旦ここまでにしておきましょう。どうしても今言っておきたいことがある人はいますか?」


 その職員さんが会議を締めにいった。

 少しまともではなくなってしまった現状、そうするのが最善だろう。

 その原因を作ってしまった身として、落ち着いている二人には感謝しなくてはな。


 それから誰も発言しないことが確認されると、


「それでは今日の会議はここまで。また後日招集をかけることがあれば、その時はよろしくお願いしますね」


 そう言って一旦この場は解散となったのであった。

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