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第百四十三話 今後のこと

 一通りモミジとユキの攻撃を受け切った後、みんなで詳しい事情を説明し誤解を解いた。その時点ではまだ怒りは収まっていなさそうに見えたが、とりあえずこれ以上攻撃をしてくる様子はない。今はそれだけで十分な成果だと思えた。


「今後について、ちゃんと話すぞ」


 そこでようやく、集まって食事をしている本来の目的である話し合いが始まった。まずは買った奴隷たちについて、事前に決めていた通り解放する旨を伝える。後に凶悪な犯罪者になったりすると解き放った俺にも責任があるとかなんとか追及されるらしいが、その辺りの問題はないだろう。


「とりあえずみんな一人でも生きていけそうだからな。やりたいことするも良し、せっかく強くなったんだからって腕っぷしを活かすも良し。また奴隷をやりたければ言ってくれ」


 日本にいた頃の一般的な価値観からすると、奴隷という制度はあまり好ましくない。何というか、酷い扱いをされていたイメージがあるからだ。しかし、この世界では一部の地域を除いて当たり前のように奴隷が存在している。郷に入っては郷に従え。この世界で認められている文化なら、それを否定はしない。今の所俺の観測できた範囲では酷い扱いをされていたような話も聞かないので、こちらから積極的に働きかけることもないだろう。

 とはいえ、やはり染みついた価値観が変わるわけではない。自由になれるのなら自由になったほうが良い。そう考えると自分の所にいる奴隷は開放してやりたかった。その上でもう一度奴隷をしたいというのならそれも尊重するつもりだ。


「俺は行く当てがある。そこで守衛をさせてもらう」


 そう言ったのはオル。戦闘面で成長を感じたということでそれが活かせる仕事で考えたみたいだ。冒険者とも迷ったそうだが、自ら赴いて積極的に戦いに身を投じるよりは何かを守るために一つの場所に留まるほうが性に合っているらしい。前衛でタンクの立ち回りについて教えたから、丁度それが活かせそうで教えた身としてもなんだか嬉しい。


「ボクは……お店を開きたいニャ。ボクみたいな小柄の獣人が使うのに丁度良い武器が少ないから、そういうのを扱う店にしたいニャ」


 戦闘において相手より大きな体格というのは大抵の場合アドバンテージになる。魔術が使えればまだ良いが、カーシュと同じくらい――人間の子供くらいの体躯では近接攻撃だと火力不足に陥ってしまうことが多いのだろう。そこでそんな人たちが扱うのに適した武器を扱う店を開きたいそうだが、その資金集めのためにもうしばらくは冒険者を続けるそうだ。小柄な自分がアタッカーとして有名になれれば小柄な冒険者が増えて店の利益も増えるなんてことも言っていたが、そんなに上手くいくものなのだろうか。カーシュを見るとついいじめたくなってしまうので心配だ。


「私は、奴隷のままが良いです。まだ……子供だから」


 希望を語ったカーシュとは対照的に、リースは暗かった。予定より早い行軍だったせいで算術について教えきれていないとはいえ、彼女は読み書き計算に生活に役立つ魔術と家事ができる。同年代の中ではとびぬけて賢く仕事ができる部類だろう。だが、そんなことは外から見ただけでは分からない。働いてお金を得ようにもまだ子供だからというだけで雇ってもらえない可能性が高いのだ。コネがあればどうにかなったのかもしれないが、奴隷だった彼女にそんなものはない。だから次に買ってくれる人がどんな人になるかは少し気になる点だとしても奴隷でいるのが現実的な選択なのだ。

 はっきり言ってリースはモミジとユキの奪還には直接必要な人材ではなかった。建前上は雑務をやってもらうことでストレス軽減につながるみたいなことを言っていたが、実際は奴隷商がどんなものなのかの確認と、ちゃんと金を落とす客だという印象を持たせるために買ったようなものだ。だからこうして自由にしてやろうという時に実質的に選択肢がないのは申し訳ない気がしてくる。精一杯良い人のもとへ行けるように奴隷商に働きかけておこう。

 最後はベネッサ。どこで何をしてもやっていけそうだが、何をするつもりなのだろうか。話を聞くために彼女の方を見ると、まだ考えているのか思案顔で固まっていた。声をかけて促すと「私の番かしら?」なんて言って話を始めた。他のメンバーの話は気にならなかったのだろうか。


「そうねぇ、冒険者を続けるつもりではいるのだけれど……カーシュと違ってそこらの三流たちと組むつもりはないのよねぇ。スマルのところに入れてはもらえないかしら」


 とっさにカーシュが非難の声を上げようとしたが、また膨らんだ二人の殺気に口を噤んだ。再び剣呑な空気になる。


「えっと、もうちょっと説明してもらえるか?」

「簡単な話よ。私、強さにはそれなりの自信があるから、そこらの三流パーティで使いつぶされるなんてのは嫌なのよ。スマルとしてもメンバーが増えるのは悪くない話じゃない? あっ、もちろんさっきみたいなおふざけはなしよ。ちゃんと本気で言っているわ」

「本気なのがダメなのに……」


 小声のモミジのことは一旦無視して、要約すると三流と言うと言い方は悪いが強くもない人に囲まれて冒険者をやるのは嫌だと。セオルドともなると強い冒険者もたくさんいそうなものだが、探すのも手間だしパーティが固定されていることが多いからここに残るのが得策、と言ったところか。正直、俺に断る理由はない。モミジとユキの奪還作戦では誰よりも活躍してくれたと思っている。

 だからこそ、俺のパーティに残って神との戦いに巻き込んでしまっても良いのか。悩みどころだった。モミジとユキの二人はヴォルムに直接指示していた過去があるから、一緒に戦おうと言えば戦ってくれるはずだし、元々パーティを組んでいたこともあり説明をしないままにしておくことはできない。申し訳ないが巻き込むことが確定してしまっている。

 だがベネッサは違う。一応フィオとイチョウのこともあるから全くの無関係ではないが、普通に冒険者として名を残したいのなら俺たちと一緒に来るべきではない。どうしたって神と戦うことを見据えたら、冒険者活動の頻度は減らさざるを得ないからだ。

 どうしたものか、人生は選択の連続とはよく言ったものだ。悩んでいると、勘違いしたベネッサが口を開いた。


「そっちの二人が嫌だって言うなら無理は言わないわよ。元々三人のパーティでしょ?」


 そっちの二人。確かに二人はあまり歓迎していないように見える。しかしそれはさっきのおふざけがあったからで、ベネッサを心の底から排斥したいとは思っていないだろう。


「……別に、変なことしなければ、いても良い」


 ユキが言ったように、俺も変なことをされると毎回大変だからそれはやめてほしいところだが、


「悩んでるのは別件なんだよ」


 問題はこの場で話せないということ。しかし、これを説明しないことにはベネッサをパーティに入れることはできないし、説明もなしに退けるのはかわいそうだ。そこで、俺は一旦二人で話をする機会を設けることにした。


「夜だ。今日の夜。事情を説明する。モミジとユキ、それからベネッサは集まれるようにしておいてくれ」

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