第百三十七話 新たな神との邂逅
先週の更新の時に投稿できていなかったみたいなので、今週は二話分上がっています。
見覚えのある空間だったからなんとなく察してはいたが、まさか本当に出てくるとは。ボルザックと名乗った大男が目の前でふんぞり返った。『戦』の神という肩書のイメージ通り筋骨隆々のたくましい姿をしていて、武器は持っていないようだったが、露出の多い服の隙間から見える筋肉はそこらの武器よりもよっぽど凶悪な攻撃手段になり得ると感じさせるものだった。
その圧倒的なプレッシャーに押されて俺は身構えたまま何もすることができない。今まで二柱の神とここと同じような空間で会って話をしたし、なんならその度に力を貸し与えてもらって使っていた経験があるのにだ。明らかに何かが違う。
「『戦』の神……? 神様ってのはアルテナ様だけじゃないのか?」
そんな中、疑問を口にしたのはコウスケだった。独りごと、あるいは仲間に確認を取るくらいの小さな声での発言だったが、いち早くそれに反応したのはボルザックだった。聞こえていたようだ。
「アルテナ? 確かにあの女も神だが、あの女だけで世界を回すことはできぬ。なんだ、あの女、神は自分だけとでも言っているのか?」
アルテナが誰で何の神なのかは知らないが、気分を害したらしい。ボルザックから感じる圧が一層強くなった。
「い、いや、別にそういうわけじゃ……」
コウスケもそれを感じ取ったらしく、焦ったように否定する。するならもっとはっきりと否定しろよと言いたくなるようなふわっとした口ぶりだったが、この空気の中それを実際に口に出して言うことはできなかった。
きっとはっきりとは言えない理由があるのだ。コウスケなら単純に言ったかどうか覚えていなくて明言できないなんてこともありそうだし、本当に言っていないのに忘れているだけではないかと心配になるようなタイプだ。はっきりと言って嘘くさくなるよりは良いだろう。
「ふん、まぁ良い。本人に直接聞けば分かることだ」
ボルザックの方も機嫌が悪いからと当たり散らすような理不尽野郎ではなかった。とは言え、直接聞こうとしているあたり怒らせたり敵対したりしてはいけない部類の神である。神様相手だからと言って積極的にへりくだる気はないが、気に障るようなことをしないように気を付けておこう。
「それより、ライヒメル」
「はい、なんでしょうか」
「どこまで説明は済んでいるのだ? 見たところ落ち着いているのはお前だけのようだが」
執事みたいだと評価した魔王だったが、実際に仕える立場となっているらしく、今のところ見えているやり取りからは神の言うことに従って動いているということが分かる。しかし、説明という単語を聞いた瞬間、魔王は一瞬きょとんと戸惑ったような顔をし、その後思案を始めた。
「……説明、と言いますと、この空間に呼び寄せた理由についてのことでしょうか」
「それ以外に何があるというのだ」
思い当たる節があったのか、魔王は確認を取る。その通りだったようだが、魔王は再び考えを巡らせいているようだった。勇者たちがどうだったのかは知らないが、少なくとも俺は何の説明もされないままここに飛ばされてきている。とすると、言いつけを守れなかった言い訳を考えているのだろうか。言い訳をする魔王という構図は中々に珍しく面白そうなので見てみたい。そんなことを考えていたのだが、実際のところはそうではなかったみたいだ。
「恐れながら、私もここへ連れてくるように言われていただけですので、その目的はボルザック様にご説明いただければと思います」
魔王が深々と頭を下げる。その姿もシュールと言えばシュールだったが、不格好というわけではない。むしろこの時恥をかくのはボルザックの方ではないか。沈黙が恐ろしい。
「……ふむ、そうであったか。これは悪いことをしたな」
「いえ! そんなことはありません!」
そんなやり取りをしているのは面白くはあったが、よく考えると俺たちは目的を何も知らされていない奴にここに連れて来られたことになる。役者がどうとか宴がどうとか言っていたのは何だったのだろうか。単に思わせぶりなことを言いたくなってしまっただけなのだろうか。そう思うとなんだか腹が立ってきた。
神にへこへこ従っているだけの野郎が人類の敵、それも親玉として君臨しているのも気に食わない。すべて神の言う通りにしているのだとしたら、人類への攻撃は神の意思ということになる。それでは魔王討伐を目指して戦っている人たちは報われないではないか。一時的に侵攻を止めることができても、代替わりしたら全てが無駄になる。政治的な思惑も何もなく、ただ命じられたから戦争を起こす。許し難いと思った。
「お前たちを集めたのは戦のためだ」
しかも、ここに集められたのも結局戦のためだと言う。反抗するのは怖いが、流石に従う気にはなれない。どうにか断れないか探らせてもらおう。
そこで話の途切れたところを狙って交渉しようと隙を伺ったのだが、ボルザックの次の言葉に思わず反応してしまった。
「しかし、ただの戦ではない。不遜なことに神と敵対しようというただ一人の男――ヴォルム=シャーカーを殺すための戦だ」
「……え?」
ヴォルム=シャーカー。聞いたことのあるとか、そんな程度の名前ではない。俺がこの世界にやってきて初めて会った人物であり、育ての親であり、師匠であり、とにかく、一番お世話になった人の名前だ。
「ん? なんだ、知っているのか?」
「……い、いや、一人の男を殺すのにどうしてこんなところに俺が呼ばれたのかな、と」
まさか繋がりがあることが分かったうえで連れて来られたのだろうか。だとしたらみんなと一緒に戻っておくべきだった。最悪ここで拷問された挙句捨てるように殺され兼ねない。心の中に恐怖が渦巻く。
「なぜ、と言われれば答えは簡単だ。理由は二つ。強いことと、神と接触があったことだ。本当は勇者だけのつもりだったのだが、それを負かして指導までする者がいるというから探らせてみれば、神の力も授かっているではないか。これほどの適任はそうそういないぞ」
「なる、ほど……」
これは、慎重に言葉を選ばないと、本当に命がなくなってしまう案件だ。勇者たちの出方も見てからにはなるが、神と敵対するにしてもヴォルムと敵対するにしてもとんでもない危険度になるのは必至。できればヴォルムとは敵対したくないが、ここから逃げられるのだろうか。
絶望感が胸の辺りに溜まっていくような気がした。




