第百十一話 温度差
新たな仲間を二人迎えた俺は、自己紹介がてら話をしながら宿へと戻った。
「二人にはこれから、うちのパーティの前衛をやってもらう。詳しいことは実践の中ですり合わせるとして、得意なことと苦手なことを教えてくれ」
本当なら買う前にこういうことは聞いておいた方が良いのだろうが、あまり時間をかけるとリースが問題を解く時間がとんでもないことになってしまう。
考えてみれば時間が余ったところで特に問題はないような気もするのだが、長い間待たされるのも嫌だろうし、これで良いのだ。
それに、どうせ時間をかけて奴隷を選んでも、それに素質があるとは限らない。
そもそも奴隷商が部屋に連れてくるのは向こうが売りたい奴隷だ。
ある程度信頼されていて、お金を落としている客に対しては良い奴隷を見せてくれるのかもしれないが、まだ利用するのも二回目の俺の都合に合わせた奴隷を紹介してくれる道理はないのだ。
「俺は見ての通り亜人だ。硬さが売りだが、それ以上に素早さに自信がある。武器は基本的に使わないが、土属性の魔術が少し使える。盾になれと言うならやるが、そういう立ち回りの経験はほぼないから期待しないでくれ」
そう言ったのは身体の見える部分がすべて鉱物でできているオルだ。
体表がゴツゴツしている割にはスリムだからそんな気はしていたのだが、やはり防御は得意ではないらしい。
その点に関しては俺の魔術で防御は済ませるつもりなので問題ない。
近接戦闘能力と魔術に関しては今後実践や訓練の中で確認していこう。
「ボクは斥候のために雇われたんだったかニャ? 索敵は任せるニャ。罠も見つけるニャ。戦闘にニャったら剣と魔術で戦うニャ。でも難しいことはさっぱりニャから勘弁ニャ」
カーシュは要望通り斥候ができる人材だ。
索敵に関しては俺もそれなりに自信を持っているが、旅の道中いつでも気を張っていられるかと言われるとそうではない。
他にも結界の維持などに気を遣わなければならない場面などもあるだろうから、そのための人選だ。
戦闘に関しては俺みたいに近距離で魔術と物理攻撃を織り交ぜるようなタイプだろう。
ヴォルムからの受け売りにはなるが、色々と教えられることがありそうだ。
そんなこんなで宿に到着した俺たちは、受付で再び隣の部屋を取ることと人が増えることを説明し、追加料金を払った。
受付の男は何やら訝しげな目でこちらを見てきたが、俺は何もやましいことはしていない。
とは言え、こんなに短期間でパーティメンバーがガラッと変わっているのだから、何か悪さをしているのではないかと疑われてもおかしくはない。
迷惑をかけるつもりはないが、不穏な空気を感じたらすぐに出て行こう。
「ただいまー。新しい仲間を連れて来たぞー」
受付からそそくさと撤退して、俺たちはリースとフォールが待つ部屋に入った。
「おかえりなさいませ」
それをリースが迎えてくれる。
見た限りでは変わった様子も危害を加えられた様子もないし、俺が外にいる間に結界に触れた者がいたような痕跡もない。
無事なようで安心した。
「えと、そちらの方々は……」
「ああ、こいつらが新しい仲間だ」
俺はリースの視線上から外れ、二人が見えるようにする。
それからお互いに自己紹介をするように促した。
「リースです。先日スマル様に買っていただいた奴隷です。食事の用意を任されています」
「オルだ。戦闘時には前衛をする。他は特に聞いていない」
「カーシュだニャ。斥候と前衛が仕事ニャ。料理は手伝えると思うニャ」
三人の自己紹介が終わると、三人は揃って俺の方を向いた。
「俺はスマルだ。魔術師だが近接戦闘も得意だ。あと一人後衛を買うつもりだが、こうやってパーティを組んだ理由は魔王に囚われた仲間の奪還だ。他の冒険者に頼もうにも頼めなくてな、そこで奴隷の出番ってわけだ」
奴隷は主人の命令には逆らえない。
逆らうことで最悪死に至るような契約を交わしているからだ。
それ故に酷い扱いを受けているのに反抗できずにいる奴隷も多くいるらしい。
魔王という単語を聞いて彼らもそれと同じような気配を感じたのか、露骨に引き攣った顔をした。
「ま、魔王って、あの魔王ニャ?」
「ああ、絶賛戦争中の魔王軍の頭のことだ」
「無理ニャ! そんなの勇者たちに任せるニャ! ボクたちでどうこうできる相手じゃないニャ!」
見れば、オルも渋い顔をしているし、リースに至っては怯えているように見える。
確かに、そこらの冒険者や戦闘経験のある奴隷ごときでは束になっても勝てないだろう。
勇者に頼りたくなるのも分かる。
だが、俺は勇者――それも一人ではなくパーティを相手取って戦って勝った男だ。
俺と修行をして、戦場で実践の中経験を積んだ今、彼らがどれくらいの強さを手に入れているのかは知らないが、あの時の圧倒的な差から考えてパーティ相手には勝てなくなっていても、一対一ならまだ勝てるだろう。
「まぁ待てって。明日冒険者ギルドの練習場でちゃんと説明するから」
しばらく冒険者をして見て分かったことだが、俺が孤児院で学んだことは、いわゆるオーバーテクノロジーに近いものがある。
つい最近も、人類の魔術の最先端だという魔術協会が完成させられなかった立体魔法陣を使って問題を解決したが、それ以外にも魔術の理論を理解している人がいなかったり、近接戦闘時にただ自分の腕力だけに頼っていたり、とにかく俺が習ってきたことが常識の外側にあることが多いのだ。
どれも一朝一夕で身につけられるような簡単なことではないにしても、それらが身につけば誰だって格段に強くなれる。
今無理だと言っている彼らも、それが分かれば考えを改めるだろう。
となると気になるのはヴォルムが何者なのかということなのだが、それを気にしても無意味というか、どうせ探りを入れたところであの男にはかなわないので放っておこう。
いつか話してくれる時が来るなら、その時にちゃんと訊けば良いのだ。
「安心しろ。ちゃんと誰も死なずに済むように計画を立てられてる。もし死んでも生き返らせてやるから気にすんな。それより、今からリースが説いた問題の採点をするから、みんなは隣の部屋に行って、親睦を深めておいてくれ」
「分かりました」
「……」
「ニャ……」
何やらまだ不満がありそうな様子だったが、奴隷という立場上強く言えないのか、三人はとぼとぼと隣の部屋に移って行った。




