後編
「分かりました、よろしくお願いします」
最終的には彼の提案に乗ることに決めた。
そうして隣国で暮らし始めた私は、そこへ行くことを勧めてくれた王子バランシオはじめ多くの人たちに温かく迎え入れてもらうことができ、次第に心身の健康を取り戻していった。
文化の違いやちょっとしたことについての考え方の差など、時に戸惑うこともあったけれど、ゆっくりと理解を深めていくことで壁は乗り越えることができた。
寄り添ってくれ、励ましてくれた、優しい人たちと生きていくためなら少々の努力など苦痛ではない。
彼らが受け入れてくれたからこそ今があるのだ。捨てられた私がこうして穏やかに暮らせているのは彼らのおかげ。ならば私も彼らのために何かをしたいし変に反発するつもりなんて欠片もない。
そうしてやがて、私は、その国で聖女として生きていくことを決意する。
決意を打ち明けた時、バランシオはすごく喜んでくれたので、とても温かい気持ちになることができた。
◆
あの後色々あって元々住んでいたあの国は滅んだ。
何でも魔物の襲撃が多発するようになったらしく、王家も軍も対応しきれず、あっという間に魔物に占領されてしまったようだ。
旧支配者である王族らは、皆、揃って処刑された。
一部女性王族は魔物の妻にされるといった形で命だけは助かった者もいたようだが。ただ、それも、その人にとって幸せなことではなかっただろう。人としての尊厳を踏みにじられ、生涯、憎い魔物に従い生きていくのだから。魔物と結婚して幸せになれた、なんて、絵本的ハッピーエンドではなかったはずだ。
そして処刑された中には当然ディッカルトも含まれていた。
王子である彼は、魔物に迫られると「この女をやる! だから俺だけは見逃してくれ!」などと言ってエミリーを魔物に差し出し命乞いしたそうだが、結局許してもらえずその場で命を刈り取られてしまったそうだ。
ちなみにエミリーはというと、高位魔物のもとへ嫁がされたらしいのだが、夫となったのが凶暴な魔物だったために虐待され落命してしまったらしい。
ディッカルトも、エミリーも、幸せな未来にはたどり着けなかったようだ。
◆
移住から十年が経った。
時の流れはあっという間だった。
今ではもうこの国で生まれ育ったかのような感覚だ。
私は今、聖女として、そして王子バランシオの妻として、国を護るべく日々働いている。
「ミライ、この前の作戦の件なのだけれど」
「どうかした?」
「北側の軍の消耗が激しかったんだ、今度は少し形を変えようか」
「そうね……じゃあ北側はあの人に頼んでみたら?」
「確かにそうだね。けど、あの人、今ちょっと遠くへ行っていて。帰ってこいとは言いづらいんだ」
この国にも魔物による襲撃は時折起こっている。だが、皆が懸命に戦い抜くことで、毎回返り討ちにできている。気を抜くことは許されないが、未来への希望は見えている。
「なら私が支援するわ」
「え」
「北の町のところでしょう?」
「でも……」
「任せて! 前はバランシオに頼んでしまったし。今度は私がぶっ潰してみせるわ!」
どこまでやれるかは分からない。
けれど諦めはしない。
やる前から無理だと決めつけることもしない。
「ミライは強いね」
「もう色々あったもの! 散々だったから! 怖いものなんてないの」
「そっか、すごいなぁ。尊敬するよ」
「それにね、私、この国にお返しがしたいの」
「どういうこと?」
「あの時……私が追放されて困っていた時、この国の人たちは温かく受け入れてくれたでしょう。嬉しかった。本当に」
愛しいこの国を潰そうとする者には容赦しない。
「だから、聖女として、できることはすべてすることでお礼がしたいの」
何者であろうとも。
目的がどんなものだとしても。
この国に刃を向ける者は倒すのみ。
戦いなんて起こらない方がいい。
それは事実だけれど。
仕掛けてくる者がいるなら対抗する。
狼狽えるだけで情けなく負けてあげる気は一切ない。
◆終わり◆




