前編
「共に、この国を護っていこう」
「よろしくお願いいたします」
王子ディッカルトと聖女である私ミライはこの国の未来を護るために預言者の言葉に従い婚約した。
未来を誓い合った日、彼は真っ直ぐな目をしていた。
だから信じていた。
そんな彼とならきっとどこまでも歩んでゆけると。
……だがそれは間違いだった。
「俺さ、好きな女できちゃってさ」
「え」
「だからお前との婚約は破棄するわ」
ある時、一週間ほど王都から遠く離れた地域へ行く視察のような仕事がディッカルトに入ったのだが、その先で彼は一人の女性に惚れ込んでしまったようで。
「てかさ~、聞いて? 彼女、エミリーっていうんだけど、マジで可愛いんだよ。しかも見た目だけじゃない! めちゃくちゃ家庭的なんだよ!」
ディッカルトは隣にいる金髪の女性エミリーを抱き寄せる。
エミリーは自然な流れに従うようにディッカルトの肩の方へ頭を倒し甘えているような仕草。
それから二人は見つめ合い。
まるでずっと昔から想い合っていた二人であるかのように非常に甘いお菓子のような視線を絡める。
「エミリーに出会ったらさ、お前なんてもう見えなくなったよ。だってお前パッとしないもん。やっぱ、魅力的な女性って言ったらエミリーだよ。そういうもんだよ」
「で、ですが……この国を護ろうと約束したではないですか」
するとディッカルトは「は? 知らんし」と言い、しばらく間を空けて、ぷっと吹き出しやがて大笑いする。
「国を護る? なんだそりゃ! ばっかじゃねえの! そんなん言ってただけに決まってるだろ! ……あー、ウケたわ」
「……あの言葉は偽りのものだったのですか?」
「過去のこと出してくるとかめんどくせぇ女だな。今さらそんなこと言うなよ。まだあんな言葉信じてるのか? だとしたら馬鹿だな! ミライ、お前、重度の馬鹿だよ!」
「嘘だったのですね……」
「もうどーっでもいい! だってエミリーみたいな魅力溢れる人に出会えたから! 国とか、護るとか、ほーんとーっに、どうでもいいッ!!」
エミリーは終始勝ち誇ったような笑みを唇に滲ませていた。
「ミライ、お前はもう要らねえから国外追放な」
「えっ!?」
「何驚いてんだよ。要らなくなった女にちょろちょろされたらうぜーんだよ。だから追放! つ! い! ほ! う! ……理解できたか?」
「そのようなこと……」
「聖女だからずっとここに置いてもらえるとでも思ってたのか。だとしたら馬鹿だな。お前、ほーんと、馬鹿の中の馬鹿だよ」
こうして私は婚約破棄されたうえ国外追放とされてしまった――のだが、生まれ育った国を出る出発の日に隣国の王子が私の前に現れて。
「話は聞きました。どうか、我が国へ来てはくださいませんか」
そんな提案をしてきた。
「あの……申し訳ありませんが、正直、今はそういうことを考えられる状態ではなくて……」
「行くあてはないのでしょう?」
「それは、そう、ですけど……」
「ならば我が国へ来ていただきたいのです」
「すみません、今はまだ……頭が回っていませんし……」
「何も、すごいことをしてほしいと申し上げているのではないのです。いくら聖女様といっても休む場所は必要でしょう」
はじめは乗り気ではなかった。
なぜなら心ない人に傷つけられていろんな意味で弱っていたから。
もう何も考えたくない、新しい道へ進むことも考えられない――そんな心情だったのだ。
だが数時間にわたって説得されて。
徐々に心が動き始め。
少し頼ってみようかなと思うようになっていって。




