第63話 大神殿の状況
翌朝、出発の支度を整える。
オフィーリアがセレネに助言した。
「第三の目は絶対に見せないで」
セレネはうなずき、マントのフードを深くかぶる。
その横で、着替えをしていたサティエルを見たシルヴィアが首をかしげた。
「ねぇ、その“本当の姿”で、いつもの服だと……違和感あるんだけど」
「そうかな?」
「確かに」オフィーリアも同意する。
「でも、上にマントをまとうし大丈夫だよ」
「いや、それでも変だって」
「でも、これしか持ってないし」
微妙な空気をやわらげるように、セレネが口を開いた。
「もしよければ、私の服を……」
魔法袋から取り出されたのは、お嬢様風の仕立ての良い衣服だった。
「私と背格好も近いので、サイズは合うと思います」
「え、いいの……?」
「はい。助けていただいたお礼の一つと思ってください。こちらで着るよう用意された新品ですから」
シルヴィアが目を輝かせる。
「すごい! おしゃれな服だよ。サティエル、もらっちゃいな!」
「……わかった。ありがとう」
サティエルは袖を通す。
「わぁ、似合ってる! すごくいい感じ!」
「そう?」
オフィーリアは冷静に観察していた。
「似合ってはいる。ただ、これじゃ平民の冒険者には見えないわ」
お嬢様風の姿でうろつけば、いらぬ目を引くだろう。下手に貴族が絡めば、その貴族の方が滅ぶ羽目になる――。
「とりあえず、上からマントをまとってフードをかぶりなさい」
「わかった」
「なんかもったいないなぁ……」とシルヴィア。
こうして準備が整った。
* *
朝一番、神殿の近くまで足を運んだが、軍がいる気配はなかった。
慎重に歩を進めても、やはり静寂が支配している。
シルヴィアが小声でつぶやく。
「……どういうことなの?」
オフィーリアが周囲を警戒しながら答える。
「サティエルに指揮官を倒されたから撤退したのかしら?
それとも、大神殿の破壊そのものが目的だったということ?
いずれにしろ、モルキアと全面戦争する気はなさそうね。
今のうちに、その魔導具とやらを探すわよ」
セレネの案内で、祭壇にあるはずの魔導具を目指す。
しかし捜索を続けていると、別の人影が神殿に現れ、瓦礫の中をあさり始めた。
「何あれ?」シルヴィアが眉をひそめる。「軍人じゃないよね」
「ただの火事場泥棒だろう」オフィーリアが淡々と言う。
「ああ、なるほど……」
「構わず魔導具を探そう」
やがてセレネが足を止め、目を見開いた。
「……なんてこと」
祭壇そのものが崩れ、儀式に用いる道具も粉々だった。
そして、彼女の視線の先――台座に据えられた水晶玉のようなものは無残に割れていた。
呆然とするセレネにサティエルが声をかける。
「これが、逆行の魔導具?」
「はい」
サティエルは壊れた魔導具を素早く拾い、魔法袋に滑り込ませた。
その時、外が騒がしくなる。火事場泥棒たちが慌てて逃げ出し、そのすぐ後ろから武装した兵士たちが神殿にゆっくり入ってきた。
「まずいわ。モルキア軍が来たみたいね。撤退よ」
それは、大神殿が攻撃されたという報告を受けモルキア王国から派遣された者たちであった。




