第68話◇三人に贈る
その日、俺は三人を庭に呼び出していた。
シュノン、マーナルム、クエレの三人だ。
「ロうさま? どうしたんですか?」
「執務室ではなく、何故庭なのでしょう……?」
「この前のご褒美くれるとか?」
俺は、柄にもなく緊張しているのを自覚していた。
白銀狼族を助けるべく奔走した時も、シュラッドたちとの戦いでも、先日の戦いだって、ここまで緊張したことはない。
「前々から考えねばとは思っていたんだが、最近きっかけがあってな。真剣に検討し、決断した」
俺があまりに真面目な顔をしていたから、三人も口を挟めないようだった。
「シュノン」
「は、はい」
シュノンは緊張している。
「お前の笑顔に、昔から救われていた。あの貧民窟での生活を耐えられたのは、お前がいたからだ。家を出た時についてきてくれたこと、ずっと言えていなかったが、嬉しく思っている。そして、これからも一緒にいてほしい」
「ろ、ロウさま? まさか……」
「マーナルム」
「ハッ」
マーナルムの声が裏返る。それほど動揺しているのかもしれない。
「お前の忠義に、いつも助けられている。俺が無茶をできるのは、心強い仲間がいるからだが、その筆頭は五年前からずっとマーナルムなんだ。お前が向けてくれる、忠義以上の感情には気づいていたし、俺も同じ思いだ」
「あ、主殿……っ」
彼女の瞳が潤んだ。
「クエレ」
「はいはーい!」
クエレは待ち切れないとばかりにそわそわしていた。
「お前の天真爛漫さは、俺たちの救いだ。どんな時も明るく、いつだって力を貸してくれるお前を嫌いな者はいないだろう。もちろん、俺もだ。ツガイツガイと言われる度に、内心で心臓が跳ねていたのだぞ? これが、ささやかな仕返しになればいいのだが」
「えへ、すごくドキドキしてるよ」
俺は懐から、三つの指輪を取り出す。
どれも意匠は似通っているが、それぞれ魔法具で、効果が違う。
シュノンのものは疲れにくくなり、マーナルムのものは俊敏性が上がり、クエレのものは膂力が上がる。
「俺に誰か一人を選ぶことはできない。お前達全員が好きだからだ」
色々と悩みはあった。
幼い頃は父親というものを知らずに育ち、いざ出逢えば貴族として厳しく鍛えられるのみ。
誰かと夫婦になり、いずれ子を為したとして。
己が手本にできるような存在はいない。
しかし、よく考えたら手本がないものなど、無数にある。
空中移動要塞の主、複数の種族を率いる者、伝承再演習得など、慣れないことはいくらでもあった。
それでも出来たのは、関心があったからだ。
ならば、それは恋愛や結婚についても、同じ筈。
シュノンやマーナルムやクエレのことを、俺は好いている。
これから先待ち受ける数多くの未経験、初体験は、彼女たちと共に突破すればいい。
そのことに気づくのに、長くかかってしまった。
「みんなも同じ気持ちなら、嬉し――うぐっ」
瞬間、俺の視界が天を向く。
シュノンとクエレが胸に飛び込んできて、受け止めきれずに倒れたからだ。
「ロウさま! 遅いですよ! でももちろんオッケーです!」
「やったー! これでももうツガイだね!」
二人に受け入れてもらえた安堵と幸福感と共に、マーナルムのことが気になる。
「ま、マーナルム……?」
「あ、は、はい……! そ、その……本当に、私もよろしいのでしょうか?」
「断られると、俺はとても傷つくんだが。それとも、他に気になる奴がいるのか?」
「滅相もございません! 不肖マーナルム、主殿の妻という大役、見事務めきってみせます!」
「マナちゃん! そうしたらほらほら~」
「来なよ~」
「うっ……で、では失礼して。えいっ」
マーナルムまで乗ってきたので、いよいよ苦しくなってくる。
だがこの幸せな重みに、しばらく浸っていたかった。
◇
三人との結婚の報は、空中移動要塞上を瞬く間に駆け巡った。
ちなみに、エイールについては、本人とも話し合い、まずは互いをよく知るところから始めようという話に落ち着いている。
そんな彼女の双子の娘、リヴとミヨルは、最近はモルテやリュシー、ファレンと仲良くしている。
『紅獅子族』のネメアは『トイグリマーラ』の地を気に入ったようで、日々マーナルムやその他の強者に鍛錬と称して勝負を挑んでいた。
最近、クリアがやたらと姿を現して話しかけてくるのだが、もしかして何かあるのだろうか。
「さすが族長さま、三人同時に娶るとは豪気だ!」
「にしても、めでたいことだ。うちのマーナルムが族長の嫁とは!」
「メイド長が報われてよかったぁ……」
「もちろんそれもあるけど……メイドでも受け入れてもらえるなら、私達にもチャンスが……?」
「族長とクエレ様の子なら、強く優れた子になるでしょうな!」
「姉貴! 族長! おめでとうございまっす!」
その日は『黒角兎族』の歓迎パーティーという名目で、みんなを集めたのだが……。
誰もが俺たちの結婚の話ばかりしている。
みんなが代わる代わる俺たちの元へ訪れ、祝福の言葉を贈ってくれた。
シュノンとクエレははしゃいでいるが、マーナルムは照れていた。
『ロウよ』
純白の毛並みの巨狼が、こちらに近づいてくる。
「リアン! お前も来てくれたのか」
彼とシュノンとマーナルムと俺。
旅はこのメンバーで始まったのだ。
『お前は眷属ではないが、大事な友だ。人間は、ツガイを作り、子を育まぬことには次の世代を作れない。お前は、未来を紡ぐ決断をしたのだ。我にも祝福させてくれ』
「ははは、ありがとうな」
存分にリアンをモフり、英気を養う。
『ロウよ。ここが、お前の旅の終着点か?』
確かに、結婚は大きな契機だ。
「いいや、まだだよ。まだまだ、この世の全てを見たとは言えないからな」
『そうか。まだ続くか』
『八大幻想種』に限っても、『黄雷虎族』、『紫煙鬼族』、『橙管狐族』には巡り会えていない。
この世界にはまだ見ぬ希少な品々、幻の種族、未開の地が残っている。
蒐集の旅は、終わらない。
これにて第二部完です。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
がらぴい先生の描かれるコミカライズ第一巻は
7月24日発売予定です!
素晴らしいクオリティですので、是非お手にとって頂ければと思います。




