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天才の一時帰還

こんなに長いこと空いてしまい、誰か読んでくれる人いるかわかりませんが、よければ読んでください!

 後半開始早々、ブルースターズは奇策を仕掛けた。

 いつもは中盤の核を担っていた昇吾をなんと最前線にしかもワントップに配置してきたのだ。

 普段運動量が豊富であるものの、鋭いスプリントを見せるわけでもなく、特別フィジカルが強いわけでもない昇吾を見てフォワードが適正だと思う人間は誰もいなかった。彼の過去を知る一部の人間を除いて。


「おかえりなさい、天才!」


 過去を知る一人である橋本はキックオフ直後、早速前線へ走り出した昇吾めがけてロングボールを蹴りこむ。


「おいおい、おっさん、競り合いで日本代表の俺に勝てると思ってるのか?」


「競り合いにもならないな」


 橋本が蹴ったボールは強烈な縦回転がかけられており、ちょうど昇吾の足元に吸い付くように落ちてくる。異常なボールの軌道にスタジアムがざわついた。

 しかし、昇吾がそのボールをワンタッチで相手の裏のスペースへトラップし抜け出した瞬間、一気に会場のボルテージは最高潮へ向かう。


「頭に意図が送り込まれてくるいいボールだったぜ、ハッシー」


 裏へ抜け出した昇吾はキーパーとの一対一も難なく決め、ブルースターズは後半開始早々一点返すことに成功した。


「おい、あと二点、いや三点取るぞ!」


 昇吾は近づいてくるチームメイトを鼓舞するようにすぐにボールを抱えてセンターサークルへ戻る。

 そのワンプレーは明らかにスタジアムの空気を一変させた。

 それまで防戦一方だったブルースターズの動きが明らかに良くなり、橋本を中心に中盤を完全に掌握、前線に送れば無双状態の昇吾が待っている。ブルースターズは前半と後半で全くの別チームになっていた。



 ********



 後半四十五分、ついにブルースターズは昇吾のこの日二点目のゴールで三対三の同点に追いついた。

 しかし、残り時間は少なく、さらに前線で躍動していた昇吾は明らかに疲弊していた。


「完全に歳だな」


 偉そうに名乗り出たフォワードだったが、結局はいつものボールコントロールと橋本の完璧なラストパスがあったからこその活躍だった。

 一人で打開できる能力もない自分にフォワードはもう無理だろうと昇吾は悟った。

 ここまでかと諦めかけた瞬間、頭に思い浮かぶのは必死に応援しているであろう娘の姿だった。


「そうだったな。同点じゃだめだよな、雅」


 優勝の望みをつなぐには勝利しかない。父親としてどんな場面でも諦めない姿を雅に見せたかった。

 時間的にはラストプレー。

 左サイドからクロスが上げられる。

 昇吾はニアサイドで合わせようとするが、足が思うように動かず、わずかにジャンプが足りない。ただ、その裏には橋本が走りこんできていた。

 刹那に目が合う。

 昇吾はなんとか体勢を立て直して着地、橋本がゴールタッチラインギリギリのところをスライディングで折り返す。

 そのボールが昇吾の前へ流れてきたのは必然だった。

 昇吾は丁寧に浮かさないように、慎重にゴールへと流し込む。そして、スタジアムはこの日一番の盛り上がりを見せた。

 昇吾はテレビの向こうで見ているであろう娘に届くように、渾身のガッツポーズをした。

 こうして歴史的な逆転勝利でブルースターズは逆転優勝への望みをつないだ。



 ********



 試合後帰宅すると、いつもはなんとか起きている雅も今日はさすがに興奮しすぎて眠ってしまっていた。


「あなたお疲れ様」


「ありがとう。雅はぐっすりか」


「ええ。とても幸せそう」


 二人して雅の寝顔にほっこりするのもつかの間、緑がじっと昇吾を睨む。


「それよりもあなた、また無理をしたでしょう?」


「それはロベルトが怪我して仕方なくだな……」


御託(ごたく)は結構。もうあなたは昔のあなたとは違うのよ」


「ああ、すまなかった」


 冗談が許されない空気だと悟り、昇吾も素直に謝る。


「俺も今日やっとわかったよ。もうフォワードは無理だなって」


 かつて天才と呼ばれた男は一日限りの帰還を果たし、それ以降男は一度も最前線へ戻ることはなかった。

またぼちぼち書いてみようかと思います。

感想でもダメ出しでも何か反応もらえると嬉しいです。

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