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リスペクト

評価とブックマークをつけてくださった方がいるようで、ありがとうございます!

今後もコロナで退屈な日常の時間潰しにでもなれば幸いです。

目標1日1話!

『一色昇吾が使用! 最新モデル』


 そんなタグがついた青い子供サイズのスパイクをかけて、雅はとある少年と一対一で勝負をすることになった。


「こんなガキンチョにオレが負けるかよ」


「みやびだってあんたなんかに負けないんだから」


「二人とも少し落ち着くんだ」


 火花を散らす二人を抑えるようにして、昇吾がルールを説明する。


「勝負は三回ずつ攻防を繰り返す。PKの一対一バージョンとでもいえばわかりやすいかな?」


 相手を抜けば一点、止めれば加算なし。

 先行は少年からだった。


「あとで泣いても知らねえからな!」



 ********



 結果からいうと、雅の勝ちだった。


「わーい! この靴はみやびのだね!」


「っ!」


 少年は泣きそうだったが、年下に負けたうえに、泣き顔までは見られまいと必死にこらえていた。

 昇吾は雅の圧勝になるだろうと思っていた。そして、実際に雅は勝ったが、想像していた以上に少年が善戦した。最後の一本まで同点だった。

 雅は圧倒的なテクニックで、少年は正確なボールコントロールとドリブルスピードでお互いを抜き去る展開が続いた。

 だが、少年の三本目、やや疲れがみえた少年の足からわずかにボールが離れた瞬間を逃さず雅がかっさらった。その後、なんなく三本目も少年を抜き去った雅が勝利をおさめた。


「すみません。勝手な提案をしたのに受け入れてくださって」


「いいんですよ。あの子もずっと一人でボールを蹴ってきて、ようやく誰かと一緒にできたのですから」


「ずっと一人で?」


「ええ。うちは母子家庭で、私はサッカーなんてできなくて……」


 昇吾が話を聞くと、どうやら少年は偶然テレビで見たサッカーの試合に感銘を受けて以来サッカーにはまり、相手がいないためずっと一人で練習していたらしい。


「誰の指導も受けずにあの技術とは」


 少年の足元に吸い付くようなボールコントロールはプロの昇吾から見ても卓越した技術だった。ただ、今回はあまりにも相手が悪すぎた。

 新しいスパイクを履いて嬉しそうに跳び跳ねる自分の娘が悪魔のようにさえ感じ、少し少年を不憫に感じた。

 少年に声をかけようとしたが、その前に立ち上がった少年は、


「もうサッカーなんて嫌いだ!」


 そんな捨てセリフを吐いてその場から立ち去った。


「すみません。ご迷惑おかけしました」


 母親はペコペコと頭を下げて少年の後を追った。


「ふん、男のくせに情けないわね。それに全然上手じゃないし。口だけね」


 あまりにデリカシーのない言葉にさすがの昇吾もカチンときた。怒鳴りたくなる気持ちをぐっと抑え、静かに口を開く。


「いいかげんにしなさい」


「パパ?」


「勝って喜ぶのはいい。それは勝者の権利だから。でもね、相手をバカにするのはダメだ。サッカーは一人じゃできない。相手がいて初めて成り立つんだ。雅は一人でリフティングするのと、パパやさっきの少年とサッカーをするの、どっちが楽しかった?」


「……パパたちとするほう」


「だったら一緒にサッカーをやってくれる人は大切にしなさい。サッカーはみんなでやった方が楽しいんだから」


 それから自らの行動を悔いたのか雅はわんわんと緑の胸の中で泣いた。


「パパがみやびをいじめるよー」


「そうね、ひどいパパね」


「お、おい、それは違うだろ。俺は正しいことを……」


「いいの。大丈夫ですよ。みーちゃんはちゃんとわかってるから」


 くすりと笑う緑は雅が落ちつくまで優しく背中をさすり続けた。

 ずっと口出ししなかった緑だが、こうしてみると客観的に状況を見られる母親の存在というのは大事だなと昇吾は緑の偉大さを感じた。



 ********



 翌日、雅はこっそり家を抜け出して例の公園へとやってきた。

 バレたらめちゃくちゃ怒られるとわかっていたが、どうしても一人でやりたいことがあった。


「こないなー」


 ポンポンとリフティングをしながら誰かを探す雅。


「げっ!」


 声に反応して振り返ると、公園の入り口に例の少年がいた。


「あーっ! みつけた!」


「やべっ!」


 逃げる少年を追いかける雅。

 だが、足の速さでは上をいく少年との距離は開くばかり。じきに体力の限界を迎えた雅の足がもつれ、転んでしまった。


「いたっ!」


 気づけば知らない場所まで来ていて、知っている人は誰もいない。膝も擦りむいて、雅はどうしていいかわからなくなった。そのときだった。


「おい、オレに勝ったお前が泣くなんてダサいマネするなよな」


 涙目のまま雅が顔を上げると例の少年が立っていた。ふと振り返ったときに雅が転んでいるのを見てしまい、とっさに戻ってきてしまった。


「ったく、なんでオレがこんなこと」


「……別に頼んでないもん」


「相変わらずムカつくガキだな」


 そんな言いあいをしながら少年が雅の擦りむいた膝を洗ってあげていた。


「ねえ、名前は?」


「あ?」


「みやび、あんたの名前知らないから」


「かい、間宮海」


「かい……変な名前」


「うっせえ。お前は?」


「一色雅」


「変な名前だな」


「うるさい! バカかい!」


 膝も洗い終わり、海はふと気になったことを尋ねた。


「お前なんでオレを追いかけてきたんだ?」


「お前じゃない、みやび」


「はいはい、で、みやびはなんでオレを追いかけてきたんだ?」


 うんうんと満足した雅は、紆余曲折したが言いたかった一言をようやく口にする。


「一緒にサッカーしよ?」



 ********



 雅が家にいないことに気づいた緑は慌てて警察に届け出ようとしたが、ふと玄関に雅のサッカーボールがないことに気づく。

 おそらく公園だろうと確信はしたが、もう夕暮れだというのに帰ってこないところをみて、不安が募る。


「もしものことがあったら……」


 急ぎ足で公園に向かうと、入り口には昨日会った少年の母親がいた。


「あなたは」


「あ、先日はどうも。私、間宮早織といいます」


「どうも、一色緑です」


 謎の自己紹介を終えてから公園内を見ると、雅と海がボールを追っていた。二人ともとても楽しそうに。


「くそっ! 次は負けねえからな!」


「ふふん! みやびはいつでも相手になるよ」


 そんな二人を早織が温かく見守っていた。


「あの子があんなに笑っているの初めて見ました。よかった」


「ええ、そうですね」


 それから雅と海は二人の母親に止められるまでずっとボールを追い続けた。

 ちなみに、服を泥々にしたことで雅がしっかり怒られたのはまた別のお話。

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