天才の片鱗
とある休日。
昇吾は雅を膝の上にのせて海外の試合を観ていた。
「雅は好きな選手とかいるのか?」
「パパ!」
「お、おう。そうか」
何気なく聞いたら即答されたもので、昇吾は少し照れてしまう。
普通子供はもっとフォワードの点取り屋とかを好きになるのになあと思いつつ、悪い気はしなかった。
「みやびね、パパみたいになりたい!」
「そうかそうか。じゃあ雅も将来はサッカー選手か」
「うん!」
「もう、みーちゃんは女の子なんだしもっとかわいらしいことを……」
「みやびはサッカー選手になるもん!」
雅の頑固さに、緑はそれ以上何も言えなかった。
一方、雅の才能に気づいていない昇吾はまだのんきだった。
「雅が元気なのはいいことだよ」
「そうだけど」
緑はただ心配だった。サッカーも含めてスポーツには怪我が常につきまとう。我が子が傷つく姿は見たくなかった。
「パパ、サッカーしたい!」
「そういえばこの前ママと公園に行ったらしいな。じゃあ今日はパパとも行こうか」
「うん!」
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試合観戦が終わって一人で突っ走りそうな雅を押さえながら公園に到着する。
「怪我しないようにね」
「「はーい!」」
ベンチに座る緑に二人で返事をして蹴り始める。
「おお! 雅上手だな」
「えへへ」
軽く正面に立ってパスを交わすだけだが、すでに昇吾は雅の才能に気づき始めた。だが、これはまだ序の口だったことを思い知ることになる。
昇吾は一旦休憩するといって雅を置いて緑のもとへ向かう。
「あら、どうしたの?」
「いや、ちょっと確認したいことがあって」
楽しそうにリフティングをする雅を見ながら昇吾が尋ねた。
「雅は最初からああだったのか?」
その表情は何か恐ろしいものを見たかのようだった。
「どういうこと?」
「隠していても意味ないよな。雅は異常だ。最初からあんなにボールをうまく操れる子供なんていない。いや、少なくとも俺は今まで知らなかった」
「確かに少し上手だと思ったけど、でも、そんなに?」
「俺たちプロが何度も練習して身につくフェイントを雅はいとも簡単にこなした。びっくりしたよ。思わず本気で止めてしまったくらいだ」
それは先ほどやった一対一、昇吾はやられるつもりだったが、雅の切れ味鋭いフェイントに思わず止めてしまったのだ。雅は悔しそうに膨れっ面を見せていたが、その一方で笑う余裕すらなく昇吾は放心していた。
雅はとんでもない可能性を秘めていた。
「緑、君が雅にサッカーをさせることに反対しているのはわかってる。だからこれは俺のわがままだ。軽蔑してくれても構わない。俺は親としてよりも、一人のサッカーファンとして雅がどんな選手になるのか見てみたいんだ。雅にサッカーをやらせてあげてくれないか?」
ただのエゴだと、父親失格だとわかっていた。
それでも昇吾は言わずにいられないほど、雅の才能に惚れてしまった。
「ダメよ」
ピシャリと緑が言い切る。だよなと昇吾は落胆するが、緑の言葉には続きがあった。
「ただのサッカーファンのおじさんなんかに大事な娘の将来を決められてたまるものですか。私はみーちゃんの味方。あの子がやりたいことを全力で応援するの。それが親ってもんじゃない?」
「ああ。そうだな。そうだよな!」
昇吾は立ち上がって走り出した。
くよくよ迷うよりも真っ直ぐに走る方が昇吾らしいと緑は思う。だからこれでいいのだと自分に言い聞かせた。
「もう、パパ遅い!」
「ごめんごめん」
娘に怒られて謝る父はほのぼのしていて思わず笑みがこぼれる。そして、この選択は間違いではないとどこか確信めいた感覚もあった。
「ダメね、私もあの人も」
父母ともに結局娘にはかなわないのだ。
その先に過酷な未来があるとわかっていても、誰も少女を止めることはできない。
********
雅がサッカーをやることに対して緑の許可が下りたことで、練習をそこそこに切り上げて早速雅の道具を買いに行くこととなった。
ちなみに再度雅にサッカーをやりたいか尋ねたところ、『やりたい!』と当然のごとく即答だった。
「えへへ」
「こらこら。フラフラしてると迷子になるから手を繋いでおきましょう?」
「はーい!」
両親に挟まれて真ん中で手を繋ぐ雅はスキップするくらい上機嫌だった。
「みやびね、パパと同じ靴がいい!」
「ふむ。でも、雅のサイズあるかな」
プロが使っているモデルということもあり昇吾のスパイクは中々の値段である。それに加えて子供サイズがあるか。
二つの問題を抱えながらいざ売り場へ向かうと、あるにはあった。が、しかし、
「おい、これはオレのだ」
「むう! みやびの方が早かったもん!」
「いいや、オレの方が早かったね。チビにこのスパイクははえーんだよ」
「あんただってみやびと変わらないじゃん!」
「んだとっ!?」
「これはみやびのだもん!」
運の悪いことに最後の一足で、それをちょうど同じくらいの年頃の少年と取り合いになってしまった。
「ねえみーちゃん? もっといいのを買ってあげるから我慢しない?」
「やだ! 絶対にこれがいい!」
頑固な雅が譲る様子はない。
「カイくん、別のやつじゃダメなの?」
「オレはこれがいいの! これはオレが好きな選手のやつなんだよ!」
少年も譲る様子はない。
こうなってしまっては埒があかない。無理にでも雅を我慢させれば解決はしただろう。しかし、雅はこれまで何か物をねだったことがなく、しかも娘に甘々の二人にそんなことはできなかった。
ダメダメな親だと自身にやや落胆しながら昇吾がある提案をした。
「よし。じゃあサッカーで勝負っていうのはどうかな?」




