凶悪!! 惑星滅菌計画!! その14
良のいきなりの声には、愛は困惑しか出来なかった。
唐突に【出番だ!】と云われても、何がなにやらとわからない。
「あの、篠原さん。 急に云われても」
困惑する魔法少女へ、良は手を差し出す。
『触って』
そう言われた愛は、思わず良の手を取りそうになる。
が、慌てて手を引っ込めた。
「ちょっと篠原さん。 こんな場所じゃ……困ります」
相も変わらず、場違いな言葉を発する少女に、良の兜からは息が漏れていた。
今は一秒すら惜しい。
一々少女の言葉を訂正している暇はないのだ。
『何を勘違いしてるかはともかくも、良いから!』
相手の応答を待って居られない良は、スッと自分から愛の手を握った。
だが、何も起こらない。
一瞬、良以外の四人は愛を含めて首を傾げるが、直ぐに少女はハッと成っていた。
「あれ? なんで……」
良に触られた場合、魔法少女は変身が解けてしまう筈である。
その筈が、何も起こらない。
『忘れてたぜ。 俺さ、この前に此処を弄って貰ったんだ』
そう言いながら、良は空いている片手で自分の胸を叩いた。
「えーと?」
理解が追い付かない愛を、良はグイと引き起こす。
『俺は、前までは消すしか能が無かった。 でも、今は違うんだ。 消すだけじゃなくなった』
「あー、はい」
理解が追い付かない少女を、良はジッと見る。
『色々説明してる暇は無いんだ。 それは、後でするから。 今は川村さんに頼みたい』
「それって、もしかしたら……」
愛は、長く付き合う内に良が云わんとしている事が分かってしまう。
『そうだ。 外に出て彼奴をぶっ飛ばそう』
何がどうなってこうなるという、面倒くさい説明は全て省き、目的のみを伝える。
それは、在る意味酷い説明であった。
具体的に何をするという指示でもなければ、詳細すらわからないのだ。
「むちゃくちゃですよ! 宇宙空間ぐらいはどうにでも成りますけど、あんなデッカいのどうしろって云うんですか!?」
川村愛もまた、魔法少女である以上はそれなりに経験も豊富だ。
理由の如何はともかくも、大勢と戦って来てはいる。
だからといって、数百メートルは有りそうな何かと向かい合った事はない。
『前に俺に向かって大砲みたいなのぶっ放しただろ? アレをもう一回やってくれ』
良の言う大砲とは、魔法少女が用いる【魔法砲】である。
実際に使用された際には、その大技は良によって無効化されていた。
「でも、あんなデッカいのにやっても……」
相手の大きさに、愛は自身を喪失しかけていた。
それは、半ば諦めに近い。
そんな少女の細い肩に、良は手を置く。
『正直、怖いのは皆だってそうさ』
その声に、愛は顔を上げた。
『でも、今やらなきゃ、皆終わっちまうだろ? それに……』
「それに、なんです?」
『死んじまったら旅行連れて行けないぞ? 遺影じゃ意味ないだろ?』
諭す様な良の言葉に、愛は自然と拳を握り締めていた。
云われてみればその通りである。
諦めれば、其処で全ては終わる。
何もせずに居れば、大首領の勝ちであり、組織は全員が死ぬ。
「やらないで死ぬぐらいなら……」
『……やってから、考えりゃあ良いさ』
結果がどうなるか、まだわからない。 その奇跡に、良は賭けていた。
『アナスタシア! カンナ!』
唐突に、良は幹部へ声を掛ける。
いきなりの事に、二人は自然と姿勢を正していた。
『は! 首領!』「ん? なに?」
『俺達が出れば、他の操作は二人に任せちまう事になる……出来るか?』
首領の御言葉と在れば、幹部は無碍に出来る筈もない。
『お任せあれ! このアナスタシア、必ずや御期待に応えます!』
性格故か、お堅い態度の蝦蛄女がビシッと構える。
それに対して、虎女は肩を竦めて見せる。
「要はあたしら二人で四人分何とかしろってんでしょ? 余裕じゃん」
尊大な態度は、猫科の動物が相手に自分を大きく見せようとする為だ。
それは、実は不安の裏返しでもある。 怖いからこそ、強がってしまう。
それでも、良は愛から離れると幹部二人の肩へ手を置いた。
『頼むぜ? 速いとこ休みにしないとな?』
余計な事は省き、大事な事だけを伝える。
『し、首領……』
感極まった様なアナスタシアに対して、カンナの見える唇は自然と笑っていた。
「サッサと行って来なよ? 帰って来なきゃ承知しないから」
幹部二人から見送りの言葉を掛けられる良は最後に博士へと目を向けた。
『リサ! 操縦出来るのはお前だけだ。 やれるな?』
博士からすれば、良の問いは信頼に応えられるかどうかを試される気がする。
で在れば、答えは決まっていた。
『勿論ですよ! 此処はお任せください!』
博士の声を受け止めた良は、ぐっと肩を回す。
『よっしゃ! そうと決まればサッサと終わらせるぞ!』
良の気合いに四人も応じて声を上げていた。
*
宇宙空間とは、通常無重力である。
当たり前だが其処では生身の人間は生きられない。
が、魔法少女とも成れば話は違う。
如何なる原理にて、パッと見生身の少女が平然と居られるかは不明だ。
ただ分かるのは、川村愛の全身は淡く青い光が覆う。
それ以上に、無重力には良が悩まされていた。
『ぬぁあ……なんだコレ!?』
今の今まで、地球から離れた経験が無い良に取って、体が自然と浮いてしまう事は未知の体験である。
そんな良の手を、愛が掴んだ。
『ちょっと篠原さん! 頑張って! ほら!』
触れて居るからか、はたまた別の原因かはともかくも、愛の声は其処が無重力にも関わらず良へと届く。
『悪い、俺此処じゃろくに動けそうもないわ。 なんか、浮く』
フワフワと浮いてしまう良を、愛はまるで風船の様に引っ張った。
在る意味、それは不可思議な光景である。
巨大なロボットの上を、変わった服装の少女が怪しい風船を引いている。
重力という抵抗が無いからか、愛は軽い足取りでロボットの腕の先まで来た。
外へ出たからこそ、見えるモノも在る。
今まで共に戦ったロボットは、初めて見た時に比べると随分と痛んでいた。
それでも、頼もしさは消えてない。
『で、どうするんですか?』
愛の声に、良はソッとロボットの表面へ降り立つ。
『なんか無いかな……充電器みたいなの在るか!?』
良の声に、巨人の中のマシンが応える。
巨大なロボットに成っても、その忠誠心は変わっては居ない。
装甲の亀裂から、一本の線が延びてきた。
それは、断線してしまったモノだが、良は構わず線を掴む。
『そんなの、どうする気ですか』
『こうすんの……さ!』
愛の疑問に、良は動きで答えを見せる。
背中の一部を開くと、其処へ半ば無理やり線を押し込んだ。
『ぐぇ!?』
良の行動は、巨大なロボットを自分の動力源とする事に等しい。
ただ、大きさの違い故か、良の全身が震えた。
『ちょ、篠原さん!?』
心配を隠さない少女に、良の震えは止まる。
『いゃ……何度か充電ってのはやったけど……好きにはなれねぇなぁ』
色々と思う事や云いたい事も在るが、良はそれを飲み込む。
この際、贅沢を云っている余裕等は無い。
『さ、急いで奴らをぶっ飛ばすぞ!』
そう言うと、良は愛の肩に手を置いた。
不思議な話なのだが、良の手が触れているだけで、愛は何かの変化を感じる。
魔法少女と成って以来、力を得たことは感じていた。
だが、今はその時以上の何かを感じる。
内側から湧き出す様な、沸き立つ様な何かを。
宇宙空間で息を吸い込むというのも奇妙だが、川村愛は気合いを入れる様にそうしていた。
『お願い、皆の為だから……』自分へとそう言い聞かせる愛。
手に持参の杖を持ち出し、構える。 狙うは、巨大な球体。
よくよく見れば、球体もまた、赤く光っていた。
『……行っけぇ!! 魔法砲!!』
愛の声に、杖の先から青い光が砲となって飛び出した。
ロボットから一条の青い光が伸びていく。
それに呼応するかの如く、球体もまた赤い光を放った。
両者の放つ光の強さに関して言えば、比べるのも馬鹿らしい程に差が在る。
球体が放つ光が9ならば、愛が放つそれは1程しかない。
赤と青の光が、ぶつかり合う。
かち合った光は、辺りの暗闇を払う程の光を発した。
強さのは歴然であり、一気に青い光は赤のソレに飲み込まれてしまう。
無論、愛からもそれは見えていた。
『くぅ!? こんなの……』
必死に全力を出して居るにも関わらず、圧倒的な力の差。
思わず、愛が【無理だ】と叫びそうになるが、そんな少女の背中を良が支えた。
『大丈夫だ。 俺がついてる。 いや、俺だけじゃないな、皆がだ』
良の声に、胸の中の機関が動き出す。
本来で在れば、魔法や奇跡といった異変を消し去ってしまう筈の力。
魔法を殺す為のソレ。
それを、良は改造して逆の働きが出来る様にしていた。
マイナスからプラスへと。
機関の使用には莫大な出力が必要であり、本気で動かそうモノなら、瞬き程の間で良の中の蓄電の全ては無くなってしまう。
事実、そんな経験は良にも在った。
だが、今の良は独りではない。
仲間とも呼べるロボットを、自らへ繋ぎ動力源としていた。
自分の何十倍も在る巨大な力が、良の力を更に増幅させる。
そして、それはそっくりそのまま愛にも伝わって居た。
青かった光は強くなると同時に色が変わる。 青から緑、そして金色へと。
元々は9体1程も在った力の差は、瞬く間に対等へと変わり、圧されて居たはずの光は拮抗していた。




