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第四十一話 腐女子 後半。

一話目

「まだ、幼さの抜けない純真無垢な義弟の要求に逆らえない義兄……」

「ひっ……」


 はあ、はあ。

 息が荒いんですが!……サキ姉さんの!


 皆を見渡すと、ほぼ全員退避完了していた。

 この裏切者共おおおおおおおっ!


 こうなった元凶のクリスは?


「うふふがな~~」


 駄目だ。

 まだ悶絶してる。

 キキとキルは?


「はあああ~~なの」

「なのなの」


 駄目だああああああああっ!

 三人共役に立たないよおおおおおおおおっ!


「ふとした切っ掛けで、自分の本能的な欲望に素直な幼い義弟が無理矢理に義兄の唇を奪う……」

「いやああああああっ! 離して離してっ!」


 サキ姉さんの目が怖い。

 なんだろう。この背中を蟲が這うようなおぞましさは……。

 酷い悪寒がするんだが……。

 なまじサキ姉さんは美少女だからこの痴態は妖艶で、僕は蛇に睨まれた蛙のように動けない!

 ここは早く逃げないとっ!


「腐…」

「なに?」


 僕はすでに涙目だ。


「腐腐……」

「何なのサキ姉さん?」


 僕はイヤイヤと首を横に振る。


「腐腐腐……」

「ひっ!」


 なんか悪寒が更に酷くなってきたんだけどっ!


「腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐っ! 来たっ!BLの神が私に降臨したあああああああああっ!」

「ぎいやああああああああああああああああああっ!」


 ようやく僕はサキ姉さんの手から脱出できた。

 その時僕は見た。

 

 サキ姉さんの周囲に漂うどす黒い蜃気楼のような何かを。


 否。


 これはサキ姉の莫大な負のオーラが溢れ出ているのだ!


 俗に言い換えれば、『腐』の高密度な気がサキ姉から放たれているというべきか。

 それは周囲の大気を腐らせて塗り替えていく!

 この豪勢な部屋の色鮮やかな豪華な絨毯に、赤や黒緑などの極彩色のカビが発生している。

 悪夢だ。

 そのまま絨毯は長い年月を経た土みたいに風化し、養分をカビに吸われ朽ち果てていった。

 高級な絹や木材をふんだんに使い作り上げられたベットも驚くべき変貌を遂げていく。

 えげつない極彩色のカビに侵食され変色した木材に絹の布。

 そんな想像を絶する色彩に染め上げられていくベット。


 否。


 それは全て幻覚だった。


 サキ姉さんから溢れ出る膨大な魔力と気の仕業だ。

 今、サキ姉の『腐』の深層風景が幻術に乗っているのを僕は見ているのだ!

 多分。

 恐らく。

 うん。

 それだけの話だと僕の精神衛生上割り切っておこう。(現実逃避)

 というかこれは見ているだけで、SAN値がガリガリ削られるんだが。

 

 ククル村でもサキ姉さんは時々幻覚を無意識に暴走させていた。

 そんな時は大抵は薄い本のネームを考えている時だ。

 そんな時に出来上がる作品は決まって傑作らしい。(村の匿名女性談)

 今回も多分そうなんだろうけど……。

 それ以上だとは考えたくもないけど。


 とにかく今は僕は呆然とする事しか出来ない。


「創作意欲が掻き立てられるううううっ!」


 サキ姉さんはそのまま自分の荷物から有る物を取り出す。

 筆記用具の木炭と草花から梳いた紙だ。

 これがサキ姉の薄い本のネーム用の定番道具だ。

 薄い本のネームが脳内に降臨したんだろう。(目が虚ろ)

 その勢いのまま鬼気迫る表情で薄い本のネームを書き始める。

 その速度は神速。

 瞬く間に紙が文字で埋まっていく。


 というか旅先にそんな物持って来ないで。(脱力)

 

 ……このペースだと今までの経験から、ネームの完成まで一時間位かなあ~~。(眼が虚ろ)


「サキちゃんっ! 新作のアイデアが浮かんだのっ!」

「腐……今度のは近親相姦! しかも調教物よっ!」

「おおおっ! モデルは誰なの」

「カイルとクリスよ」


 シスターとサラは喜色の混じった喜声を上げる。


 そうですか。

 やはりですか。

 モデルはやはり僕とクリスですか……。(魚の死んだような目)

 僕の相手が豚王子より遥かにマシだが、今クリスはどうしてる?

 僕はクリスの方を見る。


「此処はどこだがな?」


 何かのショックで今現実に戻ったクリス。


「……またサキ姉さんの暴走がな……」

 

 半眼で幻覚に犯された部屋の現状を理解し、虚ろな笑みを浮かべるクリス。

 

 フルフル。

 そしてクリスが涙目で首を横に振る。

 過酷な内容を想像し現実逃避するクリス。


「ははははははははがな~」


 お~~い。

 戻ってきてクリス。

 僕を一人にしないで。



「流石大賢者サキなの」

「サキ姉さんすご~~い」

「Z~~Z~~Z」

「やったあっ!」

「久しぶりの新作楽しみです」

「楽しみ……」

「楽しみでっしゃろ」

「べ……別に楽しみしてる訳じゃないからね」

「セリスちゃん、素直じゃないんだから」


 シスター、サラ、アカ、クレナイ、ルージュ、シンク、エン、シャル、セリス、マリは満面の笑みを浮かべる。

 その殆どが飛び跳ね全身で喜びを表す。


「腐……期待していいわよ」


 花も恥らう笑顔でサキ姉さんは返事をする。


 ……この流れに恥らうような要素が何処にある?

 この瞬間だけ切り取った絵画だったら素晴らしいのに。

 絵面だけならこの部屋に飾りたい位の物凄い美少女達の笑顔の構図なんだがよね……。

 どうして僕の嫁候補は腐る速度が早いんだ?

 クリスは例外だが。

 はあああああ~。(目が虚ろ)


 ………僕は他人の趣味をどうこう言う趣味は無い。

 だけどね。

 僕を巻き込まないで下さい。

 お願いします。

 土下座して頼みますから。

 やった所でもう意味は無いだろうけど。

 後はこれ以上、腐女子を増やさないで下さい。


 あれ?

 キルとキキは?

 確か二人もこの手の薄い本は好きなはずだけど……。

 

 ジトッ。

 キキとキルを見る。


「二倍にしたのに~~」

「四歳児に侵入されたのなの」


 人数を二倍にした自慢の警備を僕に破られたのが堪えてるみたいです。

 自我が崩壊してます。

 ……いい加減現実に戻ってきてください二人共。

 

 いや分かるよ。

 僕が悪いのは。

 でも僕の暗殺者のジョブの前ではあの警備はザルなんですけど。

 もういいや。

 ああ~~悪かったよ。

 僕が悪かったよ。

 御免なさい。

 全て僕の自業自得なんですね。

 泣いても良いよね僕……。(泣く)



 はははははははははははははっ。(自棄)

 

 

 

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