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「なんで、私たち魔法使いは、魔法の存在を隠していると思う?」
「色々とまずい事があるからなんじゃないのか?」
「ずいぶん大雑把ね。まあ、それが正解なんだけど.
魔法って言うのは、現代の科学では説明しきれない物なの。でも、この世界は科学の上に成り立ってる。
当然、便利すぎる魔法はうらやみの的になるし、そのうらやみが激しくなると、魔法を巡って争いが起こるかも知れない」
「なるほどな」
「それだけじゃない。魔法を使えない人達が、魔法使いを支配したらどうなるか、解る?」
考えたくも無いが、解る気がする。大きな力を手に入れたら、人はその力を使わないでいる事なんてできないのだ。
「だからね、魔法の存在を隠すって言うのは、言ってみれば私たち魔法使いの身を護る事と同じなわけ」
何度か苦しげに細かく点滅して、場違いな明るさの街灯が点いた。真っ白な光が公園の中を丸く切り取った。
「で、魔法が使えなくなった魔法使いも、言ってみれば一般人と同じなわけ。いくら元々魔法を使えたからって、魔法を使えないなら、その人に魔法使いであるリスクは無いの。同じリスクを背負った物同士が、身を護る為の決まり事だからね。記憶を消されて普通の社会に放り込まれちゃうんだ」
「おかしいだろ」
そう言わずにはいられなかった。
「何かわかんねーけど、おかしい気がする」
だってそうだろう。さっきまで仲間だった奴が、魔法を失ったその瞬間に、仲間じゃなくなる。もちろん魔法使い達の言い分も解らない事は無いし、現にその護身の為に、今朝俺は記憶をなくす所だった。俺に取っては迷惑な事この上ないが、一番確実な方法なのだと思う。
でも、だ。むしゃくしゃした感じは消えなかった。
「だってさ、魔法を捨てたくて、魔法を無くしたわけじゃないんだろ? だったら、魔法を無くした方だって、仲間を裏切る様な事はしないだろ」
「でもね、昔はそれで色々あったんだって」
ハルは、憤る俺をいなす様に、そう一言で片付けると、
「で、相談の続きなんだけど」
と、強引に話を戻した。
「魔法を無くした事を隠すには、どうしたら良いのかなあ」
「誰からだ」
「みっちゃん」
当たり前の様な顔をして、ハルはそう言った。誰だそれ。
「ごめん、解る様に言ってくれ」
「私の相方で、私の魔法使いの方の友達」
「お前が黙ってるだけじゃだめなのか」
「だめなんだよねえ……」
ハルはベンチの上で頭を抱え込んだ。
「魔法使いってさ、魔法に関する色んな事に、自分たちで方を付けなきゃなんないわけ。で、今日は魔獣が逃げ出しちゃったから、その捕獲をしなきゃいけないんだけどね」
またまた。聞いた事も無い言葉が出て来たよ。
「んー、一応理解したけどさ。魔獣って何なんだよ」
「言ってみれば、体内に魔法の樹を持った動物かな。使い魔として使われる事が多いんだけど、その動物自体も魔法が使えるの。体の中に魔法の樹を植え付けるんだけど、動物はその魔力をコントロール出来ないから、逃げ出すと色々めんどくさいんだ」
なるほど。全く知らなかった。
「魔獣が逃げ出すのって、そんなに珍しいのか?」
「ううん、全然。一週間に一度位は逃げ出してるかな」
危ない動物なら、もっとちゃんと管理しとくべきじゃないのか。なんで飼い犬よりも高い頻度で脱走してるんだ。
一瞬、前にハルから聞いた言葉を思い出した。結婚したら家に幽閉されて、下働きをさせられるって言うやつだ。
「お前らさ、その魔獣、大切にしてやれよ」
「解ってるよ。エサはちゃんと三食出してるし、毎日ちゃんとシャワーも浴びさせてるわよ」
俺のいたわりの心は届いただろうか。まだ見ぬ魔獣に想いを馳せる。
「で、今夜の魔獣討伐はみっちゃんと組んでやるんだけど、その時にバレちゃいそうなんだよね……」
「魔法、使わなきゃいけないのか」
「うん。魔獣も魔法使ってくると思うしね」
「魔法、使えないのか」
「私はね。そんなに強いのは」
「使わなきゃいけないのか」
「うん」
俺は頭を抱えてしまった。
「八方塞がりじゃねえか」
「でしょ!」
開き直ったのか、なぜか得意げなハルの声が聞こえる。
「お前ってさ、本当に、風を吹かす位しか魔法使えないの?」
「うん。色々試してみたけど、魔法の樹の根っこくらいじゃ、だめみたい」
「なるほどなあ」
俺は深く頷いて、腕を組んだ。目を閉じる。もうとっぷりと日が暮れ、代わりにやって来た夜の風が、俺の頬を撫でて行く。冷たい空気のおかげで、頭がすっきりと晴れていた。
乗り掛かった船だ、と俺は腹を決めた。こいつが魔法使いの存在を俺に知られてしまった事で、記憶を消されてしまうのも、なんだか寝覚めが悪い。
「じゃあとにかく、その魔獣討伐には俺も着いてくから。物陰からこっそり見てる分には、問題ないだろ」
「でも、なんか当てがあるの?」
正直言って、ない。でも、いざとなったら、俺の出がらしみたいな脳みそでも、絞れば何か出てくるんじゃないか。
「無いけどな。まあ、何とかなるだろ。その時はその時だ」
「何よそれ」
ハルはそう言いながらも、小さく微笑んだ。




