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第40話:二対の門番と、調和の果実

精霊たちが開いてくれた光の道を、僕たちは進んでいった。

周囲の景色は、一歩進むごとに、その幻想的な美しさを増していく。地面には、歩くたびに微かな音色を奏でる水晶の砂が敷き詰められ、頭上では、星屑を散りばめたような光る蔓が、天蓋のように僕たちを覆っている。空気は、もはやただの魔力ではない。それは、純粋な生命エネルギーそのものだった。ここにいるだけで、魂が浄化され、力が湧き上がってくるのを感じる。


「…まるで、神々の御苑を歩いているようです」

セレスティーナが、恍惚とした表情で呟く。彼女の全身からは、周囲の清浄な気に共鳴して、淡い聖なるオーラが立ち上っていた。

「カイ殿。油断はできません。この穏やかさは、逆に、我々のような異分子を際立たせる」

リナは、その美しさに目を奪われながらも、決して警戒を解こうとはしない。彼女の戦士としての本能が、この先に、人知を超えた何かが待ち受けていることを感じ取っているのだ。


僕の『マナ・サーベイメーター』は、もはや意味をなさなかった。針はとっくに振り切れ、ただ、カタカタと小刻みに震えているだけだ。僕自身の創成魔法の感覚だけが、この空間の異常なまでの魔力構造を、かろうじて捉えていた。

森の鼓動が、少しずつ、大きくなっていく。僕たちは、間違いなく、その心臓部へと近づいていた。


やがて、光の道は、一つの巨大な円形の広場へと続いていた。

そこは、地下に広がる、巨大なドーム状の空間だった。天井には、本物の星空のように、青白く輝く鉱石が点在し、広場全体を、静かに照らしている。

そして、その広場の最奥。僕たちの目の前に、巨大な扉が、その威容を誇っていた。

それは、生きているかのように脈打つ、巨大な古木と、滑らかな黒曜石が、完璧に融合してできた扉だった。扉そのものから、計り知れないほどの魔力が放たれている。


その、扉の前を守るように、二つの巨大な像が、静かに佇んでいた。

向かって右に立つのは、全身が、光り輝く純白の水晶でできた、美しい人型のゴーレム。その姿は、生命の誕生や、成長といった、創造の力を象徴しているようだった。

向かって左に立つのは、対照的に、風化し、崩れかけた、漆黒の岩石でできた、禍々しい人型のゴーレム。その姿は、死や、腐敗といった、終焉の力を象徴している。


創造と破壊。生命と死。

二対の門番が、僕たちの行く手を、静かに、しかし、絶対的に、塞いでいた。


僕たちが、広場に足を踏み入れた瞬間、二体のゴーレムが、ゆっくりと動き出した。

そして、再び、あの思念の波が、僕たちの魂に直接響き渡る。


『――聖域は、調和の地』

『――創造と破壊、生命と死、その円環こそが、世界の理』

『――門を通りたければ、我ら二対に、汝らの『理解』を示せ』


二体のゴーレムは、それぞれ、その巨大な手のひらを、僕たちの前に差し出した。その掌には、供物を捧げるための、石の器が置かれている。

これは、試練だ。この森の、第二の試練。

僕たちは、この二体の門番に、創造と破壊の「調和」を理解していることを、証明しなくてはならない。


「…私に、やらせてください」

セレスティーナが、一歩、前へ進み出た。彼女は、創造を司る、白水晶のゴーレムへと向かう。

「生命の営みを司る、聖なる門番よ。我が祈りを受け取りたまえ」

彼女は、その手に、自らの聖なる魔力を集束させ、温かい光の塊を、ゴーレムの器へと捧げた。

白水晶のゴーレムは、その光を受け取ると、心地よさそうに、その輝きを増した。


だが、その瞬間。

反対側に立つ、漆黒のゴーレムが、ギシリ、と音を立てて、その敵意を増大させた。生命の力だけが示されたことで、世界のバランスが崩れたのだ。


「まずい…!」

リナが、すぐさま反応した。彼女は、漆黒のゴーレムの前へと進み出る。

「破壊を司る門番よ。ならば、私の闘気を受けよ!」

彼女は、自らの剣気――純粋な闘争と破壊の意思を、黒いゴーレムの器へと注ぎ込んだ。

漆黒のゴーレムは、その力を受けて、満足げに静まる。だが、今度は、白水晶のゴーレムが、その清浄な輝きを、怒りの色に染め上げた。


ダメだ。片方を満たせば、もう片方が怒る。これでは、永遠に埒が明かない。

リナとセレスティーナは、顔を見合わせ、途方に暮れた。


僕は、その光景を、静かに見つめていた。そして、この試練の本質を、完全に理解した。

彼らが求めているのは、二つの、別々の供物ではない。

創造と破壊、その両方を、同時に内包する、たった一つの、完璧な「調和の象徴」だ。


僕は、仲間たちを制し、二体のゴーレムの中央へと進み出た。

「リナさん、あなたの予備のダガーを一本、貸してください。セレスティーナさん、あなたのポーチに入っている、薬草の種を、一ついただけますか」

二人は、訝しみながらも、僕に言われたものを手渡してくれた。


僕は、その、何の変哲もない、鉄のダガーと、小さな種を、左の掌に乗せた。

そして、その上に、右手をかざし、創成魔法を発動させる。


僕がイメージしたのは、一つの、完璧なサイクル。

まず、鉄のダガーが、急速に、その命を終えていく。僕の魔法は、酸化と分解のプロセスを、数百年分、一瞬で加速させた。ダガーは、目の前で、ボロボロの赤錆となり、やがて、サラサラとした、ただの鉄の粒子へと還っていく。

――破壊。

そして、その分解の過程で放出された、微細なエネルギーと、鉄の粒子そのものを、僕は、掌の中にある、たった一粒の種へと、全て注ぎ込んだ。

――創造。


種は、破壊のエネルギーを糧として、僕の掌の上で、芽吹いた。

芽は、みるみるうちに成長し、小さな若木となり、美しい白い花を咲かせ、そして、その中央に、たった一つ、黄金色の果実を実らせた。

ほんの数十秒の間に、僕の掌の上で、死と再生の、完璧な円環が、完結したのだ。


僕は、その、ダガーの死と、種の生命、その両方の概念を内包した、温かい光を放つ黄金の果実を、そっと、二体のゴーレミングの中間にある、台座へと捧げた。


その瞬間、二体のゴーレムが、同時に、動きを止めた。

白水晶のゴーレムは、果実の内に宿る、生命の輝きを見た。

漆黒のゴーレムは、果実の内に宿る、鉄の死の残滓を見た。

二体の門番は、僕が示した、完璧な「調和」に、完全に、満足した。

彼らは、ゆっくりと、僕に向かって、その巨大な頭を下げた。それは、敬意の証だった。


ゴゴゴゴゴ……。

僕たちの目の前に聳え立っていた、巨大な扉が、地響きを立てながら、ゆっくりと、内側へと開かれていく。

扉の向こう側から、これまでとは比較にならない、どこまでも優しく、どこまでも強大な、純粋な生命の波動が、僕たちを包み込んだ。


「…行こうか」


僕は、呆然と立ち尽くす仲間たちを振り返り、言った。


「アルクス・シルヴァの、寝室へ」


僕たちは、神獣が眠る、聖域の最深部へと、ついに、その足を踏み入れた。

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