最強の攻防
王都・東の礼拝広場。
爆ぜる風の斬撃が呪具の暴走体を両断し、肉片と煙が宙に舞った。
「次ッ……! そこだッ!」
セズ・クローネが駆ける。
巨大な大剣を振り抜くたび、真空の刃が唸りを上げ、異形の肉体をなぎ払っていく。
地面に転がる魔力異常の肉塊が、煙の中で断末魔をあげた。
だが、傷が疼いた。
(……くそっ、まだ……)
アンジュに喰らった一撃は、想像以上に深かった。
傷口は塞がっても、体内の損傷がまだ癒えていない。
呼吸が乱れ、視界がわずかに霞む。
それでも、第五部隊は彼に続き、すでに暴走体の大半を鎮圧していた。
「終わった……か?」
騎士の一人が確認するように呟いた、その時だった。
――ドンッ。
鈍く重い破裂音。
それは中央公園の方角から上がった爆煙。
土煙が夕暮れの空を切り裂くように立ち上がる。
「……まだだ」
セズの脚が、再び地を蹴った。
◇
「あれは……なんでしょう……?」
騎士団第二部隊隊長、シルヴィア・カロリアもまた、同時刻。
礼拝堂の裏手にて最後の暴走体を斧で斬り伏せていた。
ふと視界の隅、立ち上る煙。
「向こうは確かぁ……デルタさんの方ですねぇ」
鮮やかなベージュの髪が風に揺れた。
慈悲の微笑みを湛えながらも、彼女は歩を止めない。
周囲の騎士たちに優しく視線を送る。
「あとは、お任せしますねぇ。くれぐれも、ご無事で」
柔らかな声を残し、シルヴィアは中央公園へと急ぐ。
◇
王都・中央公園。
轟音と土煙。その中心に、異様な姿が立ちはだかっていた。
“巨躯と化した怪物”――ポコさん。
身の丈三メートル、鉄板のような皮膚、岩をも砕く腕力、異形の巨人。
「邪魔する人を、邪魔しろって言われてるの」
静かな声が響いた。
それは彼を操る少女、エリア。
無表情のまま、鉄色の瞳を細めていた。
「ポコさん、パンチ」
その言葉と共に、巨腕が振り下ろされる。
地面が砕け、破片が四散する。
「くっ……!」
《操傀舞陣―レヴナス・ギア―》
傀儡が三体、同時に跳び出し、連続斬撃を浴びせる。 だが――
「!? 一体、消えた……!」
鈍い衝撃。
ポコさんの拳が傀儡の一体を粉砕。
残る二体も、爪のような裂撃に破壊される。
破片が空中を舞い、無惨に崩れていった。
指揮していたデルタ・ロンウェルは、歯を食いしばる。
「……このままじゃ、損耗が早すぎる……」
むやみに傀儡を差し向けても、ただ潰されるだけ。
状況を打開するため、距離を取りつつ、戦術を組み直す。
冷静な判断。だが、時間はない。
その時―― 「――ッ!?」
空を切る風の音。
次の瞬間、ポコさんの肩に風刃が突き刺さる。
「大丈夫ですか?」
セズ・クローネ、到着。
「……助かりました」
デルタが頷いたそのとき。
「援護しまぁす」
シルヴィアの斧が、真っすぐに振り抜かれる。
《慈風の聖斧―グラティア―》
聖なる光を帯びた斧撃が、絶対障壁を叩いた。
凄まじい衝撃。
だが、ポコさんの周囲を覆う透明な壁は微動だにしない。
地面に衝撃波が走り、土が弾ける。
「これが……“絶対障壁”……」
エリアの小さな手が、そっと前に伸びる。
その手は震えてなどいない。
「命令を、妨げないで……」
表情もなく呟くその声に、シルヴィアが言葉を投げる。
「エリアちゃん……この戦いは、あなたの望んだことですか?」
その問いに、エリアは何も答えない。
「ポコさん、もう一回」
唸りを上げる巨腕。
セズがそれを大剣で弾き返す。
地面に亀裂が走った。
「デルタさん、傀儡の数は?」
「三体、残しています」
「デルタさん、シルヴィアさん、一気に畳み掛けます!」
「わかりましたぁ」
三人の隊長が、ついに並び立つ。
「絶対に、通させない……!」
デルタの背後で、三体の新たな傀儡が召喚陣から浮かび上がる。
一体は槍兵型、一体は爆撃型、一体は防御盾型――それぞれが魔力で強化され、構えを取る。
セズが大剣を構え直し、風が彼の周囲を巻き始めた。
シルヴィアの斧には、淡い光が再び宿る。
そして――戦いの火蓋が、切って落とされた。
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