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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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最強の攻防

王都・東の礼拝広場。


爆ぜる風の斬撃が呪具の暴走体を両断し、肉片と煙が宙に舞った。


「次ッ……! そこだッ!」


セズ・クローネが駆ける。

巨大な大剣を振り抜くたび、真空の刃が唸りを上げ、異形の肉体をなぎ払っていく。

地面に転がる魔力異常の肉塊が、煙の中で断末魔をあげた。


だが、傷が疼いた。


(……くそっ、まだ……)


アンジュに喰らった一撃は、想像以上に深かった。

傷口は塞がっても、体内の損傷がまだ癒えていない。

呼吸が乱れ、視界がわずかに霞む。


それでも、第五部隊は彼に続き、すでに暴走体の大半を鎮圧していた。


「終わった……か?」


騎士の一人が確認するように呟いた、その時だった。


――ドンッ。


鈍く重い破裂音。

それは中央公園の方角から上がった爆煙。

土煙が夕暮れの空を切り裂くように立ち上がる。


「……まだだ」


セズの脚が、再び地を蹴った。





「あれは……なんでしょう……?」


騎士団第二部隊隊長、シルヴィア・カロリアもまた、同時刻。

礼拝堂の裏手にて最後の暴走体を斧で斬り伏せていた。


ふと視界の隅、立ち上る煙。


「向こうは確かぁ……デルタさんの方ですねぇ」


鮮やかなベージュの髪が風に揺れた。

慈悲の微笑みを湛えながらも、彼女は歩を止めない。

周囲の騎士たちに優しく視線を送る。


「あとは、お任せしますねぇ。くれぐれも、ご無事で」


柔らかな声を残し、シルヴィアは中央公園へと急ぐ。



王都・中央公園。


轟音と土煙。その中心に、異様な姿が立ちはだかっていた。


“巨躯と化した怪物”――ポコさん。


身の丈三メートル、鉄板のような皮膚、岩をも砕く腕力、異形の巨人。


「邪魔する人を、邪魔しろって言われてるの」


静かな声が響いた。


それは彼を操る少女、エリア。

無表情のまま、鉄色の瞳を細めていた。


「ポコさん、パンチ」


その言葉と共に、巨腕が振り下ろされる。

地面が砕け、破片が四散する。


「くっ……!」


《操傀舞陣―レヴナス・ギア―》


傀儡が三体、同時に跳び出し、連続斬撃を浴びせる。 だが――


「!? 一体、消えた……!」


鈍い衝撃。

ポコさんの拳が傀儡の一体を粉砕。

残る二体も、爪のような裂撃に破壊される。

破片が空中を舞い、無惨に崩れていった。


指揮していたデルタ・ロンウェルは、歯を食いしばる。


「……このままじゃ、損耗が早すぎる……」


むやみに傀儡を差し向けても、ただ潰されるだけ。

状況を打開するため、距離を取りつつ、戦術を組み直す。

冷静な判断。だが、時間はない。


その時―― 「――ッ!?」


空を切る風の音。

次の瞬間、ポコさんの肩に風刃が突き刺さる。


「大丈夫ですか?」


セズ・クローネ、到着。


「……助かりました」


デルタが頷いたそのとき。


「援護しまぁす」


シルヴィアの斧が、真っすぐに振り抜かれる。


《慈風の聖斧―グラティア―》


聖なる光を帯びた斧撃が、絶対障壁を叩いた。

凄まじい衝撃。

だが、ポコさんの周囲を覆う透明な壁は微動だにしない。

地面に衝撃波が走り、土が弾ける。


「これが……“絶対障壁”……」


エリアの小さな手が、そっと前に伸びる。

その手は震えてなどいない。


「命令を、妨げないで……」


表情もなく呟くその声に、シルヴィアが言葉を投げる。


「エリアちゃん……この戦いは、あなたの望んだことですか?」


その問いに、エリアは何も答えない。


「ポコさん、もう一回」


唸りを上げる巨腕。

セズがそれを大剣で弾き返す。

地面に亀裂が走った。


「デルタさん、傀儡の数は?」


「三体、残しています」


「デルタさん、シルヴィアさん、一気に畳み掛けます!」


「わかりましたぁ」


三人の隊長が、ついに並び立つ。


「絶対に、通させない……!」


デルタの背後で、三体の新たな傀儡が召喚陣から浮かび上がる。

一体は槍兵型、一体は爆撃型、一体は防御盾型――それぞれが魔力で強化され、構えを取る。


セズが大剣を構え直し、風が彼の周囲を巻き始めた。


シルヴィアの斧には、淡い光が再び宿る。


そして――戦いの火蓋が、切って落とされた。




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