揺らぎ
王都・中央公園。
巨躯の怪物――ポコさんを前に、三人の隊長が並び立っていた。
セズ・クローネ。
シルヴィア・カロリア。
デルタ・ロンウェル。
絶対障壁に守られた、常軌を逸する破壊の化身。
最恐の二人を相手に、激戦が始まった。
「セズさん、右から牽制を。私は左に回り込みますねぇ」
「デルタさん、傀儡で上を」
「了解です……!」
三者三様の攻撃が、同時に放たれる。
セズの《風裂破―ウィンド・セヴァー》が鋭く地を抉り、 シルヴィアの《慈風の聖斧―グラティア―》が光を纏って障壁に叩きつけられる。
デルタの槍兵型の傀儡が空中から迫る。
だが、ポコさんはその全てを受け止めた。
その直後――
「……!? 速いッ!」
ドォンッ!!
槍兵型が胴体ごと砕かれ、空から火花を散らして落ちる。
シルヴィアの斧を掴んだポコさんが、そのまま持ち上げ、 彼女ごと投げ飛ばす。
「ぐっ……!」
セズがその間に切り込むも、拳で大剣ごと弾き返される。
大地が抉れ、煙が立ちこめた。
「なんなんだ、こいつ……!」
「ポコさん、頑張って」
エリアの一言。
それは、呪文のように魔力を変質させた。
ポコさんの体表が黒く染まり、赤黒い筋が脈打つように全身を走る。
その腕は太くなり、両目が赤く光る。
「くっ……!」
その暴威に、三人は確実に追い詰められていった。
セズはすでに前回の戦闘での傷が開き始め、呼吸が乱れる。
シルヴィアは防戦一方、デルタは残る傀儡の維持に集中していて、前に出られない。
そのとき――
「退いてください!」
柔らかな、しかし確かな声が響いた。
聖なる青の制服。
第六部隊、医療と回復の象徴。
アネッサ・ノアハンド。
《癒光の祝詞―ヒーリオス・プレア―》
天より降る光が、セズたちの傷を癒していく。
筋肉が引き締まり、裂けた皮膚がふさがる。
「加護を……」
《聖盾展開―セラフ・ガード―》
眩い障壁が彼らを包み、ポコさんの突進を受け止めた。
「アネッサさん!」
「あらあら、憎たらしいほどナイスタイミングですねぇ」
回復した三人が同時に動いた。
《断罪の慈斧―クレメンティア―》
シルヴィアの閃光の一撃が障壁を叩き、揺がす。
《嵐牙斬―テンペスト・ファング―》
セズの一閃が乱れた障壁を捉え、罅を入れる。
デルタが爆撃型の傀儡を投入。
「行け……ッ!」
爆撃型の咆哮が響き、巨腕がポコさんの顔面を捉えた。
爆音が鳴り響く。
「……倒れた……?」
ポコさんが膝をつく。
その巨体が崩れ落ちようとした、その時だった。
「やれやれ……寄って集って、僕の最高傑作を苛めないでくれるかい?」
聞き覚えのある声。
場に、異様な気配が走る。
ファルメル・エルペイン。
黒いローブに身を包み、不気味に微笑む。
その姿は、どこか理知的で無害にすら見えた。
「あまり気分がよくないなぁ……」
視線をエリアに向ける。
「……なぜ、使わないんだい?」
エリアは無表情なまま、微かに肩が震えていた。
「まさかとは思うが……情けなど、かけてないよね?」
「…………」
エリアは答えない。 だが、その目の奥に"怯え"が垣間見える。
ファルメルは穏やかに微笑み、エリアの頭を撫でる。
「……やれるね?」
「うん……」
エリアが一歩前に出て、手をかざす。
「……ポコさん……ジェノサイドモード」
その瞬間、場の空気が一変した。
ポコさんの体から吹き上がる漆黒の魔力。
歪んだ魔法陣が足元に浮かび上がり、その身が膨張と変形を始める。
手足はさらに太く長く伸び、骨のような装甲が表面に浮かぶ。
赤い魔力の紋様が浮かび上がり、その存在自体が凶器と化す。
「全員、警戒ッ!!」
セズが叫ぶ中、異形の巨人が再び立ち上がる。
その目は、もはや“命令を守る人形”のそれではなかった。
地獄の幕が上がる――。
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