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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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決意の夜


 王都――エルステリア。


 正門を駆け抜けたのは、六人の騎士。

 焦燥を滲ませたその先頭には、ルカがいた。


 「通せ!!」


 怒気を帯びた声に、門兵たちは慌てて道を開ける。

 従うのは第十部隊の仲間たち。

 彼らの眼差しもまた、ただならぬものだった。


 まっすぐ駆け込んだのは、王都中央の塔。

 魔術騎士団本部――その会議室。


「フィーラは!!」


 開口一番、ルカは叫んだ。


 そこには、セレーヌと、ザイラン。

 さらにアネッサ、そしてファルメルの姿もあった。


「残念ながら、まだ……」


「……真ネザリウス教団の仕業だ」


 セレーヌが眉を寄せる。


「根拠は?」


「インフェルノで暴徒を討伐した際、教団にまつわる証言を得た。教団は“心の繋がり”を作ることを狙って動いている。……フィーラも巻き込まれたに違いない!」


「だとしても……」


 口を開いたのはザイランだった。


「今の王都では、真ネザリウス教団は“民の救い”と認識されている。教団に関する通報も苦情も、一件も届いていない。むしろ、民は彼らを称えているんだ」


「っ……だから何だ!」


 ルカの声が震えた。


「フィーラが、拐われたんだぞ!?何もせず見ていろとでも言うのか!」


 アネッサが悲しげに目を伏せる。


「……彼女は最近、私たち第六部隊に加わってくれたばかりでした。とても優しく、誰よりも真面目な子です……」


 ルカは彼女を見たが、次の瞬間、険しい眼差しを向けたのはファルメルだった。


「君の焦りは分かるよ、ルカくん。だが、今の時点で教団に対して兵を動かすのは……無謀だ」


「……だったら、俺たちだけでも動く」


 静かに、だが決然と、ルカは言い放った。


 部屋の外。

 聞き耳を立てるように話を聞いていた黒青の制服。

 彼もまた、何かを決意する。



 ◇



 地下。


 そこは冷たい石畳の、祈りの間と呼ぶにはあまりにも無慈悲な空間だった。


 フィーラは両腕を鎖に繋がれ、壁に凭れかかっていた。

 服は破れ、顔には疲労と恐怖の色が浮かんでいる。


「……っ、ここ……どこ……なの……?」


 目の前の扉が軋むように開き、現れたのは――ネフェルティア。


 漆黒のドレス。

 優雅な足取りでフィーラに近づくと、その頬を指で撫でた。


「可愛い顔が、台無しよ」


「やめて……!何が目的なの……!?」


 ネフェルティアは、クスリと笑う。


「ボスが戻り次第、始めるわ。貴女の魔力……綺麗に“いただく”準備をね」


「……祝福の儀……?」


 震える声で、フィーラが呟いた。


「嫌……絶対に嫌っ!!」


 身体を振り乱し、必死に逃れようとする。

 だが、拘束は微動だにしない。


 そのとき――ネフェルティアが指を鳴らした。


 次の瞬間、フィーラの瞳が空ろになり、抵抗が止まる。


「ふふ……少し、おとなしくしていてね。大丈夫、すぐ楽になるわ」


 少女の体が力を失い、沈黙の中へ堕ちていく。



 ◇



 王都の夜。

 屋上にひとり立つルカの顔には、疲労と怒りが混在していた。


「……何も、できない……?」


 拳を握りしめる。


 そこに、背後から重たい足音。


「イライラしてんのは分かる。だがよ」


 声をかけたのは、レイヴンだった。


「オレたちゃ、“お偉いさん”に縛られる立場じゃねぇ。だったら、動けばいいだけだろ?」


 その言葉に、ルカの目が見開かれる。


 ハイドラがそっと続ける。


「私も、お手伝いさせて下さい!」


 カマキリも頷く。


「っしゃあ!やったろぉぜ!!」


 そのとき、階段の影から声が届いた。


「待ってくれ。君たちだけに任せるのは不安だ」


 現れたのは――ファルメルとエリア。


「彼女が拐われた責任の一端は、僕にもある。僕も同行しよう」


 エリアは黙ってうなずく。

 その手には、ぬいぐるみのポコさん。


「……ありがとう。フィーラは絶対に助ける!」


 こうして、第十部隊と“仲間たち”は――

 真ネザリウス教団への、密かな潜入を決意する。




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