表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/120

奇跡の教団


 ――王都・エルステリア。


 大聖堂の跡地に建設された、仮設の新たなる祈りの殿堂。

 眩い光が差し込む堂内には、老若男女、数百人に及ぶ民がひざまずいていた。


 《真ネザリウス教団》


 教会の崩壊と共に現れた、新たなる“救い”の旗印。

 その名を口にする者は、王都でも日々増え続けていた。


 人々の心を掴んだのは、祈りに応える“奇跡”の存在。

 重病の子供が回復した、魔物に受けた呪いが解けた、長年寝たきりだった老婆が立ち上がった……。


 どれも現実か幻かもわからぬ話ではあるが、それでも、絶望に沈む民にとって、それは十分な希望だった。


「教会が行っていた事は人を救うためではなかった」

「むしろ、汚れた者たちの私腹を肥やすだけだった」


 そんな声が、噂として王都中に広がっていた。

 教会の黒い噂が民に広がる一方で、真ネザリウス教団は清廉潔白な“新たな神託の代行者”として、着実に信仰を根付かせていく。


 そして人々は、ある男の名を口々に語る。


 〈ラファール〉

 白き法衣に身を包んだ、穏やかで清廉な男。

 優しい声音、慈悲深い眼差し。

 まるで、神の使いのように語られた。


「神は我らを見捨ててなどいない……その証明を、ここに」


 ラファールはそう囁き、足元に膝をついた老婦人へ手を翳す。

 聖水を手渡し、一口飲むよう促す。

 すると、身体を覆っていた湿疹と腫れがみるみる消えていく。


 それは、まさしく奇跡だった。

 人々は涙を流し、跪き、両手を合わせる。


「これぞ……真なる奇跡……!」


 拍手が起こり、信仰が広がっていく。

 その場に居合わせた者の多くは、その瞬間から「教団の民」となった。


 だが――


 《奇跡の聖水》

 数滴口に含むだけで、瞬く間に病や怪我を治してしまう。

 しかし……その代償を知る者は少ない。


 脳に心地よい興奮と“依存”を生み、教団に対する強烈な帰属意識を植えつける。

 神への信仰というより、ラファールへの絶対的な忠誠へと染め上げていくのだった。


 裏手の静かな礼拝所、そこに一人の男が現れる。

 猫背にローブを纏い、骸骨のような体躯。


「順調ですねぇ、ラファール君。まるで……そう、救世主だ」


 異様に曲がった猫背にゆるりとした黒いローブの男。

 〈クラーク〉

 狂気を帯びた笑みで、ラファールの背を撫でるように見つめていた。


「民が救いを求めているだけだよ。私は、そこに手を差し伸べているに過ぎない」


「まったく、美しい詭弁です……うっとりしてしまう。

 だが、それこそが“信仰心”。人は救われたと感じた瞬間……魂を売るものですよ」


「売らせてなどいないよ。彼らが“進んで”差し出しているだけだ」


 ラファールは微笑む。

 その笑みに、冷たいものが混じっていた。


 クラークが、指先で宙に紋様を描く。

 風に乗せたその魔力が、遠くの広場へと飛び、群衆の間に紛れ込む。


「導き、祈り、愛し合い……その果てに、民の魂すべて……神へと、あぁ……神よ!!」


 その言葉に、ラファールは一瞬だけ目を伏せた。

 しかし次の瞬間には、再び微笑みを湛えていた。


 王都に響く鐘の音が、“新たな信仰”の始まりを告げる。

 いつの間にか、街中の家々には〈真ネザリウス教団〉の紋章が飾られていた。


 人々は気づかない。

 その信仰が、己の命と魂を生贄とした“儀式の序章”であることを――。


 ◇


「……状況は、思っていたより悪いですね」


 第一王女セレーヌ・エルステリアは、王城の高層にあるテラスから、遠くの尖塔を鋭く睨んでいた。

 そこには、いつの間にか〈真ネザリウス教団〉の旗が掲げられ、祈りの歌が風に乗って響いてくる。

 それはまるで――王都全体が、ひとつの巨大な教会へと変貌していくかのようだった。


 隣に立つのは、魔術騎士団第一部隊隊長、ザイラン・ヴァレント。

 白と金の軍服に身を包んだその男もまた、表情を曇らせている。


「奇跡を信じる気持ちそのものは……否定できません。

 だが、これはただの信仰ではない。まるで――何かに取り憑かれたような」


「……熱が、ありますね。街全体に。触れただけで火傷しそうな……盲信の熱」


 セレーヌは唇を噛んだ。

 路地裏の雑踏、礼拝堂に並ぶ信者たち、子供に聖水を与え笑顔を見せるラファール――

 どれも“救い”の顔をしていた。だがその奥にあるものが、見えてこない。


「今は……どうすることもできないわね」


 王家でさえ、“信仰心”を否定することはできない。

 民が心から“神を信じている”というならば、強権で介入すれば、たちまち王政そのものが疑われる。

 それがどれほど偽りの奇跡であっても、証拠がなければ“信仰を弾圧した”とされるだけだ。


「……王都が飲み込まれる前に、何か手を打たねばなりません。

 だが、我々にはその“何か”が、まだ見えない……」


 ザイランの眼鏡越しの瞳が、遠い空を見据えた。

 セレーヌもまた、拳を握る。


 ◇


 ――そのころ、王都から遥か東の街道。


「急ぐぞ……フィーラが、どこに連れて行かれたか分からない。少しでも早く動かないと」


 焦燥を隠し切れない表情で、ルカが馬を駆る。


 その背後には、レイヴン率いる第十部隊の姿。

 この地獄の監獄都市インフェルノを共に制した仲間たちだ。


 フィーラの拐取。

 そして、真ネザリウス教団と“ネフェルティア”の名。


 インフェルノで得た情報は、まだ騎士団本部には届いていない。

 だが、ルカの中ではもう、答えは出ていた。


 白と黒、二つの魔力が静かに蠢く。

 怒りと焦りが心を焦がす中、ルカの瞳だけが、燃えるように前を見据えていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら、ぜひ《評価》や《ブックマーク》で応援していただけると嬉しいです!

皆さまの一押しが、次回作への大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ