白の覚醒(2)
白の魔法が覚醒してから、まだ数刻。
その間、ルカはバルバトスと共に特訓を重ねていた。
――実に、たった二時間。
白魔法を習得し、実戦レベルにまで仕上げてみせた。
その適応力の高さに、さすがのバルバトスも目を見張る。
「ほう……恐ろしいほどの才能だのぉ」
ルカは額に汗を浮かべながらも、静かに頷いた。
「もう少し、やれそうです」
そのとき、少し先から足音が聞こえた。
現れたのは、飄々とした足取りのオーフェンと、その後ろから軽やかに現れたレダだった。
「ただいまっす」
「チッ、このバカのせいでとんだ無駄足になっちまったぜ」
オーフェンが肩を竦める。
「まぁ……収穫は、なしってことか」
ルカが苦笑を浮かべたそのとき、もう一組が戻ってきた。
「ふぇぇ……帰還しましたぁ……」
「よぉルカ!修行は順調かー?」
毛皮の服を着たハイドラとカマキリ。
二人はなぜか元気ではあるが、確かな成果を持ち帰っていた。
「……収穫は二つ!まずひとつは……ハイドラが新魔王になった!!」
全員がキョトンとした顔でハイドラを見る。
「いやいや、そうじゃなくて!……ラオ・ウルグが私の力を気に入ってくれて……。今後、もし呼ばれたら脱獄してでも助けに来てくれるって」
最初の恩恵として、手厚い治療を受け、新しい服が宛てがわれ、監獄とは思えない御馳走が振舞われたという。
「……信じられんが、すごいことだな」
ルカが素直に感嘆する。
「そしてこっちが本命!もう一つは、情報だ」
カマキリが表情を引き締めて言う。
「ラオ・ウルグによると、最近“真ネザリウス教団”って名前が裏社会で出回ってるらしい。しかも、それを率いてるのが女の名は……“ネフェルティア”」
その名前が出た瞬間、空気が張り詰めた。
バルバトスが眉をひそめる
レダが険しい目つきでカマキリに問う。
「聞き間違いじゃねぇだろうな……?」
ルカも静かに息を吸う。
「ええ。それ以上のことはラオは詳しくは知らなかったが、“ロデオ・バロック”なら何か知ってるかもしれねぇって話です」
そう聞いて、ルカは静かに頷いた。
「やっぱり、制圧するしかないな」
決意がその瞳に宿る。
その背に、何かが放り投げられた。
「ほらよ」
レイヴンだった。
彼の手から飛んできたのは一本のナイフ。
「丸腰で行くのか? まぁ、持ってけよ」
そのナイフを手に取ったルカの目が見開かれる。
「これは……リュミアの……」
「ああ。変態コレクターから奪ってきた。闇商人から買ったとか抜かしてたが、詳しくはわかんねぇ」
「ありがとう……助かる」
ルカはそのナイフを腰に差し、再び前を向いた。
「行ってくる」
◆
インフェルノ・暴徒区。
そこに再び現れたのは、漆黒の外套を纏った少年――ルカだった。
彼の背に、誰もいない。
第十部隊は干渉しない。
これは彼の修行であり、戦いである。
続々と現れる暴徒たち。
ルカはそれらを次々と倒していく。
かつては苦戦していたはずの敵。
だが今は違う。
ルカは右手に白、左手に黒の魔力を纏っていた。
両の属性を同時に操るという、前代未聞の戦闘形態。
「一つずつ、終わらせていこう」
黒の魔力で影を束ね、敵を拘束。
《Shade Bind―シェイド・バインド―》
そして白い光を纏ったリュミアのナイフを振り降ろす。
ルカの猛攻は、暴徒たちを瞬く間に捻じ伏せる。
「どけでよ!!」
姿を現したのは、巨大な肉体にモーニングスターを構えた男。
暴徒区の幹部――〈ノージェス〉
「ロデオ様が出るまでもねぇ……俺が潰すでよ!!」
咆哮と共に地面が揺れる。
ルカは足を止めることなく前進した。
「来い。」
ノージェスの振るう一撃は、鉄塊をも砕く。
だが、それを黒の魔力で逸らし、白の光で迎え撃つ。
数分間の死闘。
最終的に、ルカが構えたのは片手の白。
《Lumen Spear―ルーメン・スピア―》
天空より降り注ぐ高貫通の光槍が、ノージェスの巨体を貫いた。
「が、は……ッ」
ノージェスが崩れ落ちる。
「……次だ」
――その時、爆音と共に現れた男。
乱雑なドレッドヘア。
背丈はルカより遥かに大きく、その威圧感は圧倒的。
〈ロデオ・バロック〉
暴徒区の王にして、インフェルノ最後の砦。
「懲りねぇな……小僧」
その言葉が、戦端の幕を開いた。
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