風の剣と闇の刃
ザイランは静かに溜息をついた。
「それが本命ですか」
対するセレーヌは表情ひとつ崩さず、真っすぐに応える。
「……ですが、先ほども申し上げた通り、実力のない者を受け入れるつもりはありません」
「つまり、実力が分かればいいんだろ?」
ルカが一歩前に出る。
その目は一切の迷いを感じさせず、まっすぐにザイランを射抜いた。
「俺は別に、騎士団になんて興味はない。でも“誰かのため”に動くのに、その肩書きが必要なら……奪ってでも名乗らせてもらう」
しばしの沈黙。
ザイランはその眼差しを受け止め、口角をわずかに動かす。
「……確かに、見ぬうちから決めつけるのは愚策か」
ザイランが視線を横に向けると、ラナが一歩前に出る。
「ラナ、相手をしてやれ」
「はっ」
そのとき、セズが一歩踏み出した。
「待ってください! 俺に、やらせてください」
真剣な眼差し。意志のこもった声音。
「……好きにしろ」
ザイランは冷たく言い放った。
◇
実戦訓練室――魔術騎士団本部でも限られた者しか使用できない、魔術障壁に守られた戦闘専用空間。
そこに、ルカとセズが向かい合って立っていた。
床には複数の魔法陣が展開され、各種属性の干渉を抑える処理がなされている。
見守るのは、セレーヌ、フィーラ、ファルメル、ザイラン、ラナの五人。
「準備はよろしいですか」
ラナの声に、セズは大剣を肩に担ぎながら頷き、ルカも静かに右手を構える。
「では……はじめ!」
合図と同時、風が唸る。
セズの足元から風の魔力が巻き起こり、その身体能力を一気に引き上げる。
《烈風陣―ゲイル ドライブ―》
風を纏いながらセズが駆ける。
大剣が空気を裂き、ルカへと振り下ろされる――
その一撃を、ルカは紙一重で回避。
距離をとりながら、低く呟く。
《Abyss Flare―アビスフレア―》
闇の中から黒炎が噴き出し、セズの視界を覆い尽くす。
「ぬぅっ!」
セズは咄嗟に風で払うも、炎に隠れたルカの姿を捉えきれない。
次の瞬間、セズの背後に気配――
《Hex Blade―ヘックスブレード―》
闇の刃が虚空から現れ、セズの肩口へ振り下ろされる。
「甘い!」
振り向きざま、セズの大剣が闇の刃を弾いた。
衝撃で後退するルカ。
ふたりの距離が開く。
「そんな……もんかよ」
ルカの足元にいくつもの魔法陣が瞬時に浮かぶ。
《Crush Vein―クラッシュヴェイン―》
セズの身体に走る衝撃。
筋肉の収縮に遅延が起きる。
その瞬間を見逃さず、ルカが一気に距離を詰める。
「これで……!」
再び形成される闇の刃。
だが、セズは目を見開く。
「まだだっ!」
風の魔力を爆発的に集中。
《風裂破―ウィンド セヴァー―》
大剣を大きく振るい、風の刃を放つ。
ルカは寸前で身を翻し、闇で防ぐも、吹き飛ばされる。
そのまま壁に叩きつけられたルカ。
咳き込みながらも、ゆっくりと立ち上がる。
「……やっぱ強いな、あんた」
「当たり前だっ!」
セズが突進をかける。
だが、ルカの手元には新たな闇の術式が形を成していた。
《Dusk Chain―ダスクチェイン―》
闇の鎖が床から伸び、セズの足を絡め取る。
「っ……!」
セズの動きが鈍った、その一瞬。
ルカは闇の気配を全身に集中させ、疾走。
《Hex Blade―ヘックスブレード―》
闇の刃が、セズの喉元へ――
「そこまでだ」
ザイランの声が響いた。
ルカは刃を引き、深く息を吐きながら後退する。
「……まだだ!まだ終わってない……俺は……俺はっ……!!」
セズがその場に踏みとどまり、再び構えを取ろうとする。
「そこまでだ」
ザイランが低く鋭い声で制した。
静かに一歩前へと歩み出ると、ルカとセズの間に立ち、しばし無言のまま二人を見比べた。
「……実力は、よくわかった」
その言葉にルカは魔法を解き、セズは肩を落とす。
「追って連絡する。」
その言葉を最後に、ザイランは背を向ける。
倒れかけたセズの横を、声もかけず、目も合わせず、ただ無言で通り過ぎ――
静かに、訓練場を後にした。
セズはうつむいたまま、拳を震わせていた。
こみ上げる感情。
悔しさと、焦燥と、譲れぬ誇り。
それらすべてを必死に押し殺していた。
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