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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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51/120

紡ぐ者

その悲報は、魔術騎士団全体へと瞬く間に広がった。



 ――リュミア・セトー、殉職。



 報告によれば、王国最南部の未確認迷宮にて死亡が確認されたという。

 遺体には無数の切傷と刺傷。人の原型を留めないほどに、無残に斬り刻まれていた。

 魔力照合により、その身は確かにリュミア本人と断定された。


 知らせは、ルカとフィーラの耳にも届いていた。

 宿の一室で、二人は言葉を失っていた。


「……うそ……」


 呟いたのはフィーラ。

 ルカは無言のまま拳を握り締める。


 報告を受けたセレーヌは、すぐさま第一部隊隊長・ザイランの元を訪れた。


「……これまで、リュミアさんと共に秘密裏に調査してきました。どうか、お聞きください」


 セレーヌは、これまでの調査内容を包み隠さず伝えた。

 呪具の製造と密売への教会の関与。

 “祝福の儀”の真実。

 そして本日、自身に襲いかかってきた刺客タダランの存在。


「リュミアさんの死を、無駄にはしたくありません……! 今こそ、教会の闇を暴く時です!」


 涙を堪えながらの訴えに、ザイランの表情が僅かに揺れた。


 やがて彼は重々しく頷き、第三部隊を中心とした迷宮への調査隊派遣を決めた。


 ――そしてセレーヌから、

 もう一つ申し出があった。





 騎士団本部の作戦室。


 そこには、ザイランを筆頭に、ラナ、セズ、そしてファルメルが並んでいた。

 扉が開き、セレーヌと共に、ルカとフィーラが姿を現す。


「なっ……!なぜお前がここに……」


 驚きを隠せないセズ。


「報告書にあった少年か。なるほど、王女のお抱えだったか」


 ザイランが興味深そうに言った。


 セレーヌは小さく頭を下げると、すぐに話を切り出した。


「ルカさんとフィーラさんのこと、勝手にお話してしまいました。申し訳ありません。でも、急を要するのです」


 その言葉に、場の空気が引き締まる。


「それで、王女。申し出とは?」


 ザイランの問いに、セレーヌは真っ直ぐ視線を返した。


「私と、ルカさん、フィーラさんで……新たな部隊を設立させていただきたいのです」


 一同が目を見開いた。


「ちょ、ちょっと待て、俺は別に――」


 慌てて制止しようとしたルカの声を、セレーヌが遮る。


「一般人のままでは、出来ることに限りがあります!これは、私たちが動くために必要なことなんです」


ルカはそれ以上なにも言えなかった。

セレーヌは浮世離れした提案の中に、しっかりと現実を見ていた。


「……なぜ、既存の部隊ではなく、新部隊を?」


 ザイランの問いに、セレーヌは即答した。


「所属してしまえば、任務優先になり、自由が利かなくなります。今の私たちには、真実を追うための機動力が必要なのです」


「目的は?」


「この国の闇を暴くこと。そして今は、教会の悪事を明らかにすることです」


 ザイランは一度目を伏せ、そして言った。


「……理解はできます。だが、この申し出は受理できません」


「なぜでしょう?」


セレーヌが顔色一つ変えずに聞き返す。


「リュミアの件を重く受け止め、早急に動き出す覚悟はあります。ですので、セレーヌ様がわざわざ新部隊を作る必要はありません。我々にお任せください。」


「ですが、私は……」


「お考えは立派です。」


 ザイランの言葉に重圧が増す。


「ですが……実力の伴わない者に、騎士団の門は開きません」


 沈黙の時が流れる。


 やがて「他になければこれで……」とザイランが場を終わらせようとする。


 しかし、セレーヌが静かに口を開く。


「では、代案を」


 その場の空気が僅かに動いた。


「ルカさんを、第三部隊の新たな隊長に推薦します」


 ざわめく室内。

 ルカ自身が最も驚いた顔をしていた。


 王女の言葉は、再びこの場に衝撃を走らせた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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