紡ぐ者
その悲報は、魔術騎士団全体へと瞬く間に広がった。
――リュミア・セトー、殉職。
報告によれば、王国最南部の未確認迷宮にて死亡が確認されたという。
遺体には無数の切傷と刺傷。人の原型を留めないほどに、無残に斬り刻まれていた。
魔力照合により、その身は確かにリュミア本人と断定された。
知らせは、ルカとフィーラの耳にも届いていた。
宿の一室で、二人は言葉を失っていた。
「……うそ……」
呟いたのはフィーラ。
ルカは無言のまま拳を握り締める。
報告を受けたセレーヌは、すぐさま第一部隊隊長・ザイランの元を訪れた。
「……これまで、リュミアさんと共に秘密裏に調査してきました。どうか、お聞きください」
セレーヌは、これまでの調査内容を包み隠さず伝えた。
呪具の製造と密売への教会の関与。
“祝福の儀”の真実。
そして本日、自身に襲いかかってきた刺客タダランの存在。
「リュミアさんの死を、無駄にはしたくありません……! 今こそ、教会の闇を暴く時です!」
涙を堪えながらの訴えに、ザイランの表情が僅かに揺れた。
やがて彼は重々しく頷き、第三部隊を中心とした迷宮への調査隊派遣を決めた。
――そしてセレーヌから、
もう一つ申し出があった。
◇
騎士団本部の作戦室。
そこには、ザイランを筆頭に、ラナ、セズ、そしてファルメルが並んでいた。
扉が開き、セレーヌと共に、ルカとフィーラが姿を現す。
「なっ……!なぜお前がここに……」
驚きを隠せないセズ。
「報告書にあった少年か。なるほど、王女のお抱えだったか」
ザイランが興味深そうに言った。
セレーヌは小さく頭を下げると、すぐに話を切り出した。
「ルカさんとフィーラさんのこと、勝手にお話してしまいました。申し訳ありません。でも、急を要するのです」
その言葉に、場の空気が引き締まる。
「それで、王女。申し出とは?」
ザイランの問いに、セレーヌは真っ直ぐ視線を返した。
「私と、ルカさん、フィーラさんで……新たな部隊を設立させていただきたいのです」
一同が目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待て、俺は別に――」
慌てて制止しようとしたルカの声を、セレーヌが遮る。
「一般人のままでは、出来ることに限りがあります!これは、私たちが動くために必要なことなんです」
ルカはそれ以上なにも言えなかった。
セレーヌは浮世離れした提案の中に、しっかりと現実を見ていた。
「……なぜ、既存の部隊ではなく、新部隊を?」
ザイランの問いに、セレーヌは即答した。
「所属してしまえば、任務優先になり、自由が利かなくなります。今の私たちには、真実を追うための機動力が必要なのです」
「目的は?」
「この国の闇を暴くこと。そして今は、教会の悪事を明らかにすることです」
ザイランは一度目を伏せ、そして言った。
「……理解はできます。だが、この申し出は受理できません」
「なぜでしょう?」
セレーヌが顔色一つ変えずに聞き返す。
「リュミアの件を重く受け止め、早急に動き出す覚悟はあります。ですので、セレーヌ様がわざわざ新部隊を作る必要はありません。我々にお任せください。」
「ですが、私は……」
「お考えは立派です。」
ザイランの言葉に重圧が増す。
「ですが……実力の伴わない者に、騎士団の門は開きません」
沈黙の時が流れる。
やがて「他になければこれで……」とザイランが場を終わらせようとする。
しかし、セレーヌが静かに口を開く。
「では、代案を」
その場の空気が僅かに動いた。
「ルカさんを、第三部隊の新たな隊長に推薦します」
ざわめく室内。
ルカ自身が最も驚いた顔をしていた。
王女の言葉は、再びこの場に衝撃を走らせた。
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